いまさら


いまさら

「相変わらず雑ってえか、荒々しいってえか…」

「そう?」

一仕事終えて帰陣したところに、甘寧は私を見るなり言った。私も自分の姿を爪先から胸まで確認する。

「わざとやってんのか、それ」

「そこまで悪趣味じゃありませんー」

毎度のことながら人一倍返り血を浴びる私。それは身長のせいなのか、私が下手だからなのかは知らない。
甘寧と私は上官と副将という関係だが、まあそれも形だけで、ほとんど兄妹のように戦場でも軍議でもどこにだってついて歩く。
そんなお小言を言われるのも、何を今更、と言った感じだ。

「ちゃんと洗い流せよ、今回だって前回の汚れがほとんどそのままだったじゃねえか」

「ええ面倒」

「お前なあ。着るもんならまだしも、髪の毛まで血糊中途半端にくっつけて次の日会いにくるだろうが。
さすがの俺でも抵抗あるぜ」

どうせ洗っても次回にはまた血みどろになるのに。
はいはい、と空返事をして自分の幕舎に行こうとすると、ぐいと襟首を掴まれた。
思わず潰れた蛙のような情けない声が出る。

「おい、この辺りに泉が湧いてるとか言ったよな」

「へい、ここから西にちょっと行った林の中です」

「よし行くぞ」

「ちょ、苦しい苦しいやめ…」

襟首を掴んだまま甘寧はずんずん歩いていく。こいつの力に勝てるわけもなく、されるがままで私は引っ張られて行った。色んな人が不審そうに私たちに目を向ける中、陣中を抜けて外へ出る。そのまま近くの林へ入った。

「ねえもうやめて、着替え持って来たの?」

「俺の貸してやる」
「うわぁいらなーい」

「じゃあずぶ濡れで帰れよ」

「無理に決まっ…ぶはっ!」

甘寧が私の襟首をがっちり掴むものだから自然と後ろ歩きになって、私の視界には過ぎて行く風景しか見えない。
どこまで行くんだよ、と思ったところで首元の力がすっと無くなった。苦しかった首の周りをさすったのも束の間、今度は突然腕を思いっきり引っ張られて視界がぐるりと変わる。
次の瞬間には頭から水に飛び込んでいた。雑で荒々しいのはどっちなんだか。

「うっわ放り投げるとかどういう神経して…」

「そら脱げ」

「いや良い年の大人がやることか!」

「今更お前の裸見たところで何の欲も沸かねえな」

「うわあ傷付く」

「俺は髪洗ってやるから、さっさとお前着物についた方こすって落とせ」

冗談でも何でもなく衣服を脱がされた私は、こいつとの関係は声変わりもまだしない頃の子供のまま変わらないのだなとしみじみ思った。
小さな傷がいくつか入った背中を甘寧に向けて、言われたままごしごしと着物を洗う。
いつも半裸の甘寧と同じく上半身ほぼ裸。
束ねていた髪はいつの間にか下ろされ、毛を一本一本洗っているのが分かった。
つう、と指の腹で毛が引っ張られている。

「これお湯に浸けなきゃ多分落ちないよ」

「湯に浸けたことあって言ってるのか?」

「いいえいつも冷水でぐちゃぐちゃっとやるだけです」

それよりかはましだからつべこべ言わずにやれ、と頭をはたかれた。痛い。こいつは加減というものを知らない。
嫁入り前の女を水に投げ入れて脱がせた挙句殴るとは鬼畜の所業だ。

「まったくこんなんじゃ嫁になんて行けないわ」

「もう行き遅れかけてるけどな」

「誰のせいだと思ってんのよ」

「俺かよ」

「うん。ていうか甘寧だって人のこと言えないじゃん」

「男はいいんだよ、腹に子供出来るわけじゃねえんだから」

世間でいう適齢期だというのに、私には一切そういう相手がいない。声をかけられる雰囲気もない。今の時点でこれなら、本当に嫁に行く頃には適齢期も過ぎた辺りになるだろう。若くて旬の時期ならまだしも、過ぎた頃に婚礼の儀を大勢の前でやるのも気恥ずかしい。

「文句言うならこんなことにならない程度に女磨けよ」

ぱしゃ、というよりドシャア、と言った方が良いくらいの水を後ろからかけられた。しずくが垂れて髪の水気が減ってきていたのに、またびしょびしょに戻ってしまった。
そしてまた髪の毛にくっついて固まった血を取る作業が始められる。本当に何もない。幼少の頃から変わらぬまま。

「これだもんなぁ」



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