ゆがみなし


ゆがみなし

「あなたたちって本当に変わらないのね」

「あら、姫様」

執務室の前の日の当たる廊下に洗った着物を干していたところ、声をかけられた。執務室や私室以外に何か理由がない限りは私物を置いてはならないことになっているので、見つかった、と思いながらもとりあえず揖礼をした。
しかし姫様が仰りたいのはそのことではないらしい。着物を干していることには見向きもなさらなかった。

「襟首掴まれて甘寧に連れられて行ったって聞いたわよ」

「いやはやお恥ずかしい。情けないことをお耳に入れてしまって」

「ううん、楽しそうで何よりって話」

「楽しいんですかね…」

水にぶち込まれて裸にむかれるって、普通ならぶっ飛ばされて当然なことなのに私たちはそれが当たり前だと、周囲はそういう認識だ。確かにチビの頃からそういう関係であったことは事実。

「でも何だか不思議ね」

「何でしょう」

「いちこも甘寧も、お互い浮いた話一つなくて。普段二人とも同性同士としかつるまないでしょ。
なんだかこう、あなたたちなら丸く収まりそうな感じがするのだけど」

濡れた着物の柄を手に取って観察しながら、そう仰った。
私物が置かれていることに気付いていても咎める気はないご様子。

「元より収まり過ぎてるんですよ、幼少の頃から兄妹みたいに過ごして来ましたから」

「そうでしょうね。それはそれで楽しいような」

姫様もそんなお年頃、男女の間に何かあるのではないかと興味津々でいらっしゃるようで。にこにこしながら日陰へ消えて行ってしまった。
もし私と甘寧の間に変化が起きるとすれば、それはもっと早い段階で起きていただろう。思春期も何もかも飛び越えて今に至る私たちには、もうまるで何も起こらないのだった。

「おい、私物置いてんじゃねえよ」

着物のしわを伸ばしていると、甘寧に注意された。聞けば下から丸見えだったらしい。

「姫様は何にも言ってなかったから大丈夫大丈夫」

「逆に姫さんが言ったから良いってことにはなんねえだろ…」

重力を無視しているかのようにツンツンと立つ髪の毛をわしわし掻きながら寄って来た。別に放置するわけでもなし、乾いたらすぐ取り込む。
胡粉色の着物は、雲のない青い空に美しく映える。眩しい。
喪服に近い色で、且つよく血だらけにする私は、敵の目にはどう映っているのだろうか。死の使者とでも思われてそうだ。

「ねえ、甘寧私のこと好き?」

「あ?」

柱に寄り掛かって、着物のゆるくはためく様子を眺めていた甘寧の目がこちらを向く。無駄な動きは一切なかった。

「まあまあ」

「これだもんなぁ」



12

backnext
90+1


.