画才



英才教育を受け、もて余すほどに恵まれた才能を持つ私にも、苦手というものが存在する。当たり前だ、人間なのだから。
しかしながら、一つ言っておこう。苦手とは言うが、苦手なままにしておく私ではない。それなりに努力はしたので、人並みには出来るのだ。

「しっかし下手くそだねぇ」

「黙れ…」

幼き頃より付き合いのあるこの女、いちこは私の苦手とする分野に秀でていた。



木の枝で土に絵を描く私の横で、いつもにやにや笑いながら言うのだ。それは私にとって屈辱以外の何物でもなかった。

「あれ、今日のお勉強は?遊べるの?」

「ふん、これから私は自習するのだ」

「なんの?」

「…おまえには関係ない」

「ああ分かった、絵描くんでしょ」

隠れて練習しようとするが、奴は自分の得意分野となると妙に勘が鋭いのだった。
屋敷の垣根の向こうから顔だけを覗かせて。

「う、うるさい!話しかけるのなら門から入って来い」

「ええ、鍾くんのお母様おっかないからやだ」

「だったら私が外に出る時以外は黙ってろ」

いちこは農民ほど貧しいとは言えないが、私の家ほど裕福と言えるほどの家庭でもなかった。肉屋や行商人などをしている、と家の者つてに聞いたから、恐らく商人で上手くやって行ける家系なのだろう。
そこの妙な賢さが、奴にもしっかりと受け継がれていた。

「おまえとつるんでばかりいると母上に叱られる。私はおまえとは違う、選ばれし家のものなのだ」

「選ばれし選ばれして、それしか言うことないの?」

「絵でしか語る言葉を持たないおまえに言われたくない」

べー、といかにも教育のなってなさそうな顔をして、垣根からさっといなくなった。


私の幼少期は、奴とのこんな日常が多かった。


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