大団円まであと少し



江に向かって小石を投げていた。今日は穏やかな波で、波紋もそれなりに見えた。
こんなことしてるのも憂鬱な気持ちがあってのことで、うまく行かないときはどこまでもうまく行かないんだ、とか、こんななのもきっと私が女だからだとか思い始める。
情けなさに涙も出ない。心はしっとりどころか土砂降りだ。

「おい、もうじき降り出すぜ。江から離れろや」

さっきから鈴の音がずっとしていたから、話しかけられずとも誰がいるかくらい分かっていた。返事をするのも億劫だから黙る。
江の下流の方に目を向ければ、上流側で照る太陽の明るさとは裏腹に、濃い灰色の雲が待っていた。こんなに厚い雲じゃあこの夕方から夜もずっと強い雨になるのだろうか。

「流星、」

ちりんちりんという音が隣まで来て止まった。柄の悪い男がどっかり腰を下ろす。

「おい、口尖ってんぞ」

「ほっとけ」

「何かあったのかよ」

甘寧の奴が来てからは江に投げる小石の量を二倍にした。ぽっちゃんぼっちゃんと良い音がする。
どうせ理由を多分言ったところで、笑われるか呆れられるかのどちらかだ。最悪、怒られるという可能性もあるけど。
話しても黙ってても事実が変わることはないのだから、どうしようもない。

「俺に言えないことか」

「うーん」

「なんだよそれ…」

「怒らないんだったら良いよ」

「俺に関係あることかよ」

衣服を新調する時に、余ったからやる、と言われて貰った鈴が壊れた。というか、壊した。
軍議に的外れなことを言ってしまったり、愛槍の先が鍛錬中に欠けてしまったりと情けないことが立て続けにあったものだから、気分転換に部屋の模様替えをしようと思いついた。手伝いに私担当の女官を呼んで、一緒に箪笥の移動をしていた時だった。移動先にその鈴が落ちていたことに気づかず、べこべこにへこんだ。かなり衝撃だった。

「…であの鈴、壊した」

経緯を話すと、甘寧は黙ってしまった。ずっと江の先を見つめていたものだから、今更甘寧の顔は見れない。怒ってるのかな。奴なら笑い飛ばすくらいかな、と思っていた私が馬鹿だったと反省した。

「お、お前、まだあの鈴持ってたのか…?」

「え?」

予想外の反応に、思わず甘寧の顔を見た。
驚いた表情。でも怒りを含んだ驚きではない。

「ずっと持ってたってことだろ?」

「え、うん、まあ…」

煮え切らないようでも肯定をすると、すっくと立ち上がった。呆然と江の先を見据えている様子に訳が分からず、私もついでに立つ。

「うおおおおおおっ」

謎の咆哮、見れば奴の額に血管が浮き出ていた。大丈夫かな。
黙って突っ立っていると、頬に水が当たる。話している間に雲は私たちの上まで来ていた。下流側の向こうは大雨なのか、うすく霧のように見える。

「行くぜ、流星!」

「え、何それ、」

「良いから乗れ!」

気付けば甘寧は目の前でしゃがんでいて、おぶされ、とのことだった。
確かに城までちょっと遠いけど、誰かに運んでもらうほど子供じゃない。けど雨も降ってくる。

「ああもうどうにでもなれ!」

「走るぜー!」

迷いながらも背中に飛び乗る。筋肉質で力の強い腕に挟まれて、脚がちょっと痛い。
怒られるどころか壊した事実をちゃんと伝えたのにも関わらず、上機嫌になってしまった甘寧を見て何に悩んでたのか分からなくなった。気にしてないのなら、私も気にしなくていいのかも。
雨、早く上がればいいな。







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