並行の命
「だいきらい!だいっきらい!」
「おいおいそう言うなよ…」
私が怒りながら見舞いにやって来たのを見てにやにやしている。本当に腹が立つ。
普段落ち着いていることのない甘寧が寝台に入ってることで、いつものように見せる表情も皮肉でしかない。
「指示なしだからって突っ込む馬鹿がどこにいるのさ!」
「指示がねーんなら腕っ節見せろって言ってんのと同じだろうが」
「どこをどう取ったらそうなる!」
脳筋の考えには全く想像が及ばない、と盛大にため息をついてみせた。それに対しますます面白がる甘寧。
長引いた戦も、劉備の油断と陸遜殿の火計によってあっという間に幕を閉じた。推定70万にも及ぶ大軍隊も、炎の前では炭と化す。
撤退する蜀軍を追い、迂闊にも諸葛亮の石兵八陣に迷い込んだが、四苦八苦の末ようやく抜けた時は安心した。
その上心身弱り切った劉備や敵諸将を気の済むまで追い返せたものだから、帰陣した時は本当に気分が良かった。
凌統殿が奴に肩を貸してやって来るまでは。
「後で凌統殿にお礼言いなさいよ、私からも言っておいたから」
「何で俺があいつに…」
「誰のおかげで生きてると思ってんだ!」
私たちは本陣付近で守勢を敷き、火計成功後劉備を追撃。そのように陸遜殿から指令があった。
甘寧は特に何も言われなかったらしく、好きに攻めていた。大軍相手に突っ込むだなんて、何度でも馬鹿だと言ってやりたい。
それで隠れていた敵の将兵に囲まれ、四面楚歌。たまたま追ってきた凌統殿が救出。
「大体伏せてたことが分かってりゃ、沙摩柯なんぞに負けるわけねえってのに」
「分かってなかったんでしょって」
いつも調子に乗ってるからこうなる。鎧のようにもりもりとついた筋肉も、斬られれば終わりだ。
心配してるのに阿呆なことばっかり言うからイライラしてしまう。
持ってきた果物を出して乱雑に剥いていく。
「これ剥くから食べろ」
「…」
「肉ばっかだから頭に栄養行かないんだよ」
「おい、」
「だから馬鹿になって…こんなことに、なるんだ」
「…泣くなよ」
ぶわ、っていう表現がまさしく似合うようだった。一気に涙が押し寄せて来て、手元が見えなくなった。
腕に暖かいものがぽたり、ぽたりと落ちてきては肘の方まで伝って行く。嗚咽が止まらない。
「誰のせいで、こんな、気持ちになってると、」
甘寧がいなくなったら、もしいなくなってたら、私はどう生きて行けば良いのだろう。
生きてて良かったと思う安堵ともしもの悲しみで、私の心の許容量はとうに超えてしまった。
皮が剥けない。果物が私の体温でぬるくなって行く。
「泣くなって」
「うるさい…」
「…今お前を抱きしめたり出来ねえんだからよ」
そう言われてますます声を上げて泣いてしまった。床に果物を放り投げて、寝台の端に突っ伏す。
ゆっくりと頭を撫でられた。いつもわしゃわしゃと乱暴にしてくるのに。
そんな小さなことでさえ甘寧の怪我の大きさを感じられて、悲しまずにはいられなかった。
「そう言うなら…早く元気になれ…!」
「おーよ」
いつもの返事でさえ何だか優しくて、心が締め付けられる。完全に回復するまでこの気持ちは拭えまい。
強がりな私の涙の分だけ、元気になればいい。早くそのでかい手で涙を拭ってよ。
平行の命
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