幸せ運ぶお馬さん



「あれ、またここにいるの?」

また、とは心外な。
隣に来た銀屏を一瞥する。

「今日こそ見極めるんだから」

「流星の言う見極めるっていうの、よく分からないよ」

「分かられちゃったら嫌だよ、そうなったら銀屏のこと嫌いになる」

「えー、ひどいなぁ」

ひどいなぁ、と言いつつくすくす笑う。可愛すぎて何も言えない。私もこんなに女の子らしかったら、どんなに自信が持てたろう。

手すりに寄りかかって見つめる先は、騎馬隊の鍛錬風景。砂煙が口に入ったり目に入ったりすることもあるけど、騎馬隊の鍛錬は面白いと結構人気で、私の他にいつも見学者が数人いる。
馬に興味がなくとも、確かに馬超殿の熱血ぶりは見学する価値がある。私の目的は馬岱殿だけど。

「馬岱殿のどこが好きなの?」

「それも見極め中」

「全部好きなんだ?」

「…そうとも言える」

いつの間にか好きになっていた馬岱殿のどこが好きなのか、とか、おどけている彼と真面目な顔をする時の彼はどっちが本当の彼なのか、を見極めるつもりで最近はずっとここにいる。勿論騎馬隊の鍛錬をやっている時間帯だけ。執務は滞らないように、前日に仕上げてから来ることにしている。

「あー今の顔かっこよかった」

「馬が?」

「馬岱殿に決まってるでしょ!」

ごめんごめん、という銀屏はわざと言ってるのか素なのか。
この子は関索殿を天然ぼけと言うけど、自分自身も物凄い天然ぼけだということに気づいていない。
こういうところも可愛い女の子の特徴になるから羨ましい。私がこんなに食い入るように騎馬隊を見ていても、ただの執念深い女にしか見えないだろう。

「いつも馬岱殿って明るくてほわーっとした感じするでしょ。可愛いなって思うのに、でもああやって集中してる時の顔は凄くかっこいいんだよ」

「そっかぁ」

「何でだと思う?」

「分かっちゃ嫌いになるって言ってなかったっけ?」

ああそうでした。私も天然っぽいところあるじゃない、って、何の慰めにもなりやしない。

「明日の鍛錬も遅れるな!涼州の馬術、天下に知らしめるのだ!」

「今日は終わりみたいだね」

「今日も見極められなかったよ」

「また明日があるから、ね」

熱い馬超殿の声に合わせて、応、と兵士もはちきれんばかりの声を上げた。聞いていてすかっとする。
砂煙を上げながら、騎馬隊は次々と厩へ駆けて行く。残った馬超殿と馬岱殿に、鍛錬を見ていた人が集まっていった。

「流星はまだここにいる?」

「うーん、もうちょっと」

それじゃあ私は先に戻るね、と綺麗な黒髪をなびかせて銀屏は去った。
本当に天は二物三物を与えすぎだ。あの子の何か一つを私に分けてくれても良かったのに、と凹みそうになる。いやもう凹んでる。
厩には全ての馬が収まり、兵士が世話を始めているのが見えた。青空が眩しい今日、馬の毛並みが輝いている。江の水面みたいだ。

「綺麗だなー…」

「本当にそう思うよねー」

「わああっ!」

気付けば手すりを挟んで馬岱殿が話しかけて来た。その隣には馬。驚いて思わず身を引く。
それを見て驚かせてごめん、と笑った。まずい、心拍数が尋常じゃない。

「お、お疲れ様です…」

「流星殿も馬が好きなの?結構見に来てるよね」

貴方目当てです、なんて言えるはずもなく。
動物は可愛いなと思いまして、と当たり障りのない理由をつけた。

「さすが西涼の馬術ですよね、お見事としか言いようがないです」

「嬉しいよー、でも馬が俺たちのこと良く分かってくれるってのが一番なんだよね…ってちょ、やめてよぉ」

まるで本当に人の言葉が分かるように、ちょうど馬が馬岱殿にすり寄った。馬岱殿の顔に頭をこすりつけて、ふしゅ、と鼻を鳴らしている。思わずそこを代わってくれと言いたくなった。
そんな馬の愛情表現に、馬岱殿は本当に嬉しそうにしている。可愛いなぁ。

「本当に仲が良いんですね」

「分かる?さみしがりの俺にはぴったりなのよ」

おっと、さみしがりなのか馬岱殿は。
思わずきゅんと来てしまった。今ちょっとだけ馬岱殿の目が寂しくなったのも見逃さなかった。

「流星殿は何色の馬が好きかな」

「私は…そうですね、栗毛の馬が好きです。なんだか優しそうだし、あったかそうだし」

「そっか。明日また来てくれれば、俺栗毛に乗ってくるよ」

まさかの、約束とまでは行かないけど約束事が出来てしまった。思わず飛び上がりそうになるのを抑える。
嬉しいけど私のためじゃない、馬を見せたいだけだきっと。うん、私のためじゃない。

「本当ですか?楽しみです!」

「うん!じゃあ明日もここで会おうね」

きらきら輝く笑顔がまぶしい。
それじゃあまた、と軽く手を振って別れた。遠ざかって行く背中を目で追いながら、顔がにやけて止まらない。明日も会ってくれるんだ。嬉しいなぁ。

「あれっ、流星まだここに」

「馬にきゅんきゅんしてたんですー」

「う、馬?馬岱殿じゃなくて?」

どっちもだけどね。
通りすがった銀屏とことの顛末を語りながら部屋に戻る。結局また見極めるどころの話じゃなくて、眺めるだけで精一杯だった。
明日が楽しみ。






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