君と年の瀬
※現パロ
「最初はぐー、じゃんけんほい!」
「負けたよー」
「勝った!じゃあ私がお買い物奉行するからね」
お仕事も終わって、今年の晦日は一緒にいられると言う。一年最後の買い物をしようとスーパーに向かった。岱さんも一緒で。
夕方にはもう辺りは暗くて、歩いててもお互いの顔はあまりよく見えない。お喋りしながらスーパーまでの道を行く。
「流星は今年一年間、どうだった?」
「うーん、結構良かったかな。うまく行かない日もあったけど、仕事で褒められたりしたし」
「そっかぁ」
帰宅ラッシュで車がたくさん通り過ぎるのを眺めて歩く。家から数分で見えてくるスーパーは、クリスマスからそのままになっているイルミネーションが光っていた。
自動ドアが開けば、冷えた顔に暖房の空気がふわりと当たる。
「何か欲しいのある?」
「うーん、ケーキかな」
「それクリスマスにも食べたじゃん」
この濃い顔のわりに岱さんは案外甘いものが好きらしい。ん、顔は関係ないか。
あったかいものが食べたいから、鍋に入れる食材を中心にカゴへ突っ込む。なんだか最近白菜とネギばっかり食べてる気がする。なら魚も鍋に入れちゃおうか。何鍋になるんだこれ。
馬刺しを見て可哀想だと乙女のようなことを口走る岱さん。時々ふざけて言ってるのか、本気で言ってるのか分からない時がある。魚や牛だって馬と同じ生き物なのになぁ。お、豚肉安い。
「流星ー、プッカが食べたいよー」
突然カートの横ポジションをキープしていた岱さんが消えた。と思ったらお菓子売り場から手を振るのが見えた。
「良いよ、カゴに入れて」
岱さんがお菓子売り場にいるという絵面がとてつもなくシュール。
背後に小学校低学年くらいの兄妹がいることで余計強調されていた。
「あ、クリスマスのケーキが安売りされてるよ」
「これは買うしかないねー」
半額シールがついたケーキを手に取る。さっき自分の好きなものも入れてしまったせいで、カゴの中のお菓子の割合が高い気がする。
お菓子売り場も通り過ぎて、アルコール類が並ぶ棚が視界に入る。寒い地方出身だからか、岱さんはお酒に強い。岱さんが言う前に、お酒売り場でビールやらシャンパンやらカゴに入れた。
あれこれ買うものが増えて、押してるカートも重くなってくる。最後に雪見だいふくをとってカゴに乗っけた。
混む時間の前なのか後なのか、ほどほどに人がいる。
一番空いてそうなレジに一直線。前にいるおばさんが会計を済ませたら、次は私たち。
財布を取ろうとバッグに手を突っ込んだ。が、ない。スマホと鍵とハンカチは手に当たる。
小さめなショルダーバッグなのに、どこを見ても財布がない。家を出てくる前に絶対持って来てた。
まさか、盗まれた?
そう思って血の気がさっと引く。
「岱さん…お財布がない…」
「ええ、ほんとに?」
「ど、どうしよう…」
「じゃあ俺が払うよー!」
「いらっしゃいませー」
今日は私が払うって宣言したのに、どうしてこんなことに。必死になってまたバッグを漁る。
ピッとレジに商品を通す音が焦りを上長させる気がして、余計不安に駆られる。
カード類は何入ってたっけ。どれくらいお札入れてたっけ。
レジのお姉さんが金額を口にしたとき、本当にがっくりと来てしまった。こんなのおかしい。あんまりだ。
「ありがとうございましたー」
「はーい流星、終わったよー」
いま私きっと半泣きって顔してる。
それなのにいつもの調子でいる岱さんを見上げた。
「…あれ」
何かがおかしい。
岱さんは何も言わずにこにこしてる。泣きそうな顔から一転、不審そうに彼を見つめると、さあ帰ろ、などとさりげなく背中を押してくる。
「ねえ岱さん」
「んー?」
「私のお財布持ってるんじゃないの」
ええ、俺が?とわざとらしく言う。これは絶対クロだ。
「私のお財布ー!」
「しょうがないなぁ、もうなくしちゃ駄目だよ」
何がしょうがないだ!
ぱっと出された大きな手には、紛れもない私のお財布。どこに隠してたんだ。というかいつ取った!
焦りに焦って半泣きになったのが恥ずかしいし、本当に馬鹿みたい。岱さんを見れば、してやったり、といった感じで笑っていた。
「でもほら、流星はお金使わずに済んだでしょ」
「あ」
岱さんは始めから私のお財布を隠すつもりでいたんだ。足取り軽く帰り道を進む後ろ姿を、呆然と見てしまった。
固まっている私に気付いて振り返る。にこにこしておいで、と手を振られた。
「流星、何してるのー」
「わぁい岱さんはいじわるだなー」
「ええ、俺ってばとっても優しいのに」
私が棒読みで言えば、岱さんはおどけて応える。
駆け寄るとさりげなく手を差し出してくれた。その手に私の手を重ねる。
「片手で二つも袋持って重くない?片方持つよ」
「大丈夫大丈夫。俺の愛の方が重いから」
「んへ」
さらりと良いこと言ってくれる。笑えばいいのか照れたらいいのか分からず、思わず両方が言葉にならない声とともに出た。それを見て岱さんが笑う。
元来た道を行く。今日は何か面白い番組あったっけ、とか、初詣はどうする、とか、機関車みたいな白い息ともに喋りながら歩いた。
いつものように忙しかった一年間、年の瀬は静かに更けて行く。まったく良い年末だ。
きみと としのせ
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