花子








わたしはいたって普通の女子高生でした。運動も平均的、勉強もやればそれなりに出来る程度。お昼を一緒に食べる友達も普通にいれば、先生からの信頼もそれなり。男子とも女子とも普通に喋るし、好き嫌いもない。春は花粉症が辛いけど、たぶん、普通の女子高生、だった、はずなのに。

「え?」
「は?」

隣のクラスの清川くんと中身が入れ替わってしまった、みたい。


トライアングルジンジャー



チャイムのなる前にしっかりと席について、昨日買ったばかりの小説を読む。読んでる途中に何人かの友達と挨拶を交わす。その途中で隣の席がガタガタと揺れる。わたしは読んでいた本に栞を挟んでヒラくんの方を向けば、おはようとヒラくんが笑ってくれる。クラスで初めて出来た友達だった。席が近かったっていうのもあるけど、ヒラくんの雰囲気はすごく落ち着く。

「ヒラくんまた寝不足?」
「え、わかる?」
「すごいくま。またゲーム?」
「はは、うん。フジと夜中まで」
「…そのくせお肌綺麗だからほんと羨ましい!」
「#name2#さんだって綺麗だよ」
「寝不足ヒラくんに言われても嬉しくないなあ」

ヒラくんはすごく困った顔をして本当なのになあと言った。わたしはこうやっていつも朝の時間だけ、ヒラくんと他愛のない話をするのが好き。さっきも名前が出たけれどヒラくんには藤くんという他の友達がいる。藤くんは隣のクラスで、そのせいか休み時間のたびにヒラくんを連れていってしまう。放課後もすぐに藤くんが呼びにきて帰ってしまうし、話すのはこの時間しかないのだ。だからわたしはいつもヒラくんの来る前に席についている。楽しい時間はすぐに過ぎて担任の先生が教室に入ってくる。先生がもう少しだけ遅く来てくれればいいのになあ。そのあとの授業中ヒラくんは眠たそうにあくびをして船を何回か漕いでいた。放課後になるまで相変わらずヒラくんと喋ることはなかった。先生がさようならと小学校みたいに挨拶をすると教室は騒がしくなって人が少なくなっていく。その中のヒーラー!と声がひとつ。

「はは、また呼ばれてるよ」
「恥ずかしいからいい加減にしてほしいよほんと…。じゃあ#name2#さん、また明日」
「うん、また明日」

ばいばいと手を振ってヒラくんの背中をぼーっと眺めていたら、名前を呼ばれてそっちを向く。そこには先生が楽しそうに笑って教卓に置かれた山積みノートを叩いている。友達に助けを求めれば、部活やら委員会やら家の用事やらで全てきっぱり断られてしまった。わたし嫌われてるのかなあ…。ごめんね!と謝る友達の背中を見つめながらわたしは肩に鞄をかけて、ノートを抱えた。 結構ずっしりしてて重たい。わたしは少しよたつきながら職員室を目指す。しかしわたしの目の前に階段という難関が立ちふさがっていた。ノートが邪魔で足元が確認できない。まあ一段ずつ降りれば大丈夫だろうし、わたしはゆっくりと階段を降りていた。そんなとき、一番上に乗ったノートがバランスを崩して落ちた。

「あぶねえ!」
「えっ、わ」

次の瞬間にわたしの足が階段を踏むことはなく、ノートがバサバサと床に落ちる音と、体に残る激痛があった。頭がぐわんぐわんする。わたしが足を滑らせて階段から落ちたことを理解するのに時間はかからなかった。頭が痛いだけで意外と冷静な自分に正直驚く。そういえば落ちる前に誰かの声がした気がする。ハッとして体を起こした。巻き込んでしまったのでは…!

「大丈夫ですか?!」
「いっ、てえ」
「え」
「は?」

自分の声がおかしいことに気付いて呆然とする。目の前でむくりと体を起こした姿を見て頭が真っ白になった。


20150314

- 1 -

*前次#


ページ: