エピソード/鬱
正直、そんな気はしていた。
グルッペンのこともあった。みんながみんな覚えているわけじゃない。ただ、頭でそう分かっていても、
しんどいもんは、しんどかった。
隣で顔を真っ青にして飛び出して言ったシャオロンをおれは追いかけることが出来なかった。
シャオロンが人一倍#name1#の存在に喜んでいたことをおれは知っていた。仲間にこのことを共有したがった理由も、毎日しんどそうにしていた理由も、会いたくないと言いながら隣の席が埋まることを気にしていた理由も。全部おれは知っていた。
だからこそ、伝えるべきやったんか?#name1#は、なんも覚えとらんかもしれん、って。グルッペンを引き合いに出して、可能性はゼロじゃない。その覚悟はしておくべきや、って。そう、伝えておけばよかったんか?
出来るわけ、ないやろ。
おれがいちばん、#name1#の存在を喜んでいたのに。仲間に#name1#のことを共有しなかったのも、#name1#を独り占め出来ると思ったから、#name1#が初めてその目に写すのはおれでいいと思ったから。
それなのに、おれがいちばん、その覚悟が出来てへんかったのに。口に出したら、ほんまに覚えとらんような気がして。
結局おれは、怖じ気づいてしまったのだ。朝、シャオロンを待たないまま、ここへ来ることだって出来た。本当に誰よりも先に彼女に、#name1#に会うことだって出来た。でも出来なかった。こわかった。こわくなった。平気なふりしてグルッペンと出会ったあのときのことを、思い出して。
そんなことない、そんなことない、と必死に頭に言い聞かせた。シャオロンに手を繋ごうと言ったのも満更でもなかったのだ。足早になるシャオロンと反対に気付けばおれの足は重りがついたように動かなくなっていた。
ほんまに、情けない。
シャオロンが走って行った先から彼女へと視線を戻す。シャオロンの行動に顔を青くして動揺する#name1#の姿がおれの目に写った。
髪型も、その色も、目も口も、鼻の形も、声色も、全部、ぜーんぶ、おんなじ。なのに、なんも、知らんて、顔、するんや。
「ごめんなあ、あいつ風邪引いとってさ。走ってきて具合悪なったんやろ」
「えっ、大丈夫ですか…?」
「はは、大丈夫大丈夫、気にせんといてほんま。てか#name1#めちゃくちゃ敬語やん。おれら同い年やし、同じクラスやし、運命ってやつやと思うし、仲良おしようや」
と、そう、おれがにっこりと笑いかけると、重く沈んでいた#name1#の表情は、見慣れていた明るさを取り戻した。
その表情におれは、忘れていたはずの感情を思い出しそうになる。…そういう顔も、変わらへんのや。
移り行く#name1#の表情を見て、おれの中からどくどくとくろい感情か涌き出てくるのが分かった。
あかん、これ、よくない
でも、むりや
おれもなんも、かわってへん
きっと、…きっと、トントンは#name1#に関わるなって言ってくるだろう。トントンは変わらずグルッペンが思い出すこと、を避け続けるだろうから。それに、#name1#の存在は、誰よりも、俺たちの誰よりも、グルッペンに多大な影響を与えてしまう。もしかしたら、グルッペンの記憶の引き金は彼女なのかもしれないと、そう思わざるを得ないほどに。
でも、こんな、学校という狭い空間の中で、どれだけのことができる?どれだけの反抗ができる?
きっと無理だ。
おれたちがどんなにトントンに協力しても、どんなに#name1#とグルッペンを遠ざけても、環境がそうはさせてくれない。それに、おれたちがもう、出会ってしまったのが一番の証明だ。
それでもおれは、トントンに協力しよう。
#name1#がグルッペンと会わないように、前世を思い出さないように、誰のことも、目に写さないように。
もう、こわくない。
おれは、おれは、
「#name1#」
「え!あ、はい」
「これからも、よろしゅうな」
はじめましてと笑った彼女に、なんの罪はないのに。
20180810
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