エピソード/コネシマ
はきそう。
ほんものやん、あんなん。
そっくりさんとかそういうレベルじゃない。#name1#、#name1#やん。おれの知ってる#name1#。ただひとり。
それなのに、大先生はなんも覚えとらんって言った。
信じられん、そんなこと。信じたくない、そんなこと。
それでも全部、ほんとうのことだった。
今日は、なんでか、こんなこともあるんやなあと、びっくり通りこして感心してしまうレベルで早起きをしてしまった。頭の横にあったスマホの画面を付けて時間を確認すると、アラームが鳴る2時間前。このまま支度をしても全てにおいて早すぎてしまう。それにこんなに早く学校に行ったところでなんの意味もない。もうすでに遅刻常習犯というあだ名が付けられそうな現状を少し打破出来るくらいだ。それならばやることはひとつ、そう、二度寝だ。再びスマホを頭の横に戻そうとした、そのとき、緑色したアプリのアイコンにぽつんと赤く通知が来ていることに気付いた。
いつものおれならそのまま無視して二度寝をしていただろうけれど、なぜか、それができない。
だって、
グルッペンを含めて作ったグループは、通知を切っていたから。
それに気付いてから、すごく嫌な感じがした。
吸い寄せられるように親指が緑色に触れる。
2時間も早く目が覚めてしまった理由も、素直に二度寝出来なかった理由も、
ぜんぶ、このせい
グルッペンがいないやつ、とタイトルの付けられたグループが赤く、赤く、信号を発している。
大先生から、やった。
バタバタとベットから飛び降りて、両足の揃ってない靴下を中途半端にはいた。ずるずるに着崩した制服に袖を通して、昨日から中身の変わらない鞄を手に取った。
うそや、うそや、
ぜえぜえ、と肩で息をした。いままでこんなに疲れたことがあったかと不思議に思うくらいにおれは疲れていた。小中と続けたサッカーで培った体力には自信があったはずなのに。しかも俺が一番最後やん。
うっすらと額に汗を滲ませたオスマンと、ぽたりとひとつ、汗を落としたトントンと、おれたちを待っていたシャオロンと鬱先生が、酷く対称的で、おれたちが呑気に生きてきたことを思い知らされる。それと同時に最近のシャオロンの様子のおかしさに合点が行った。
ぜんぶ、このせい
誰も声を発することはなかった。
それはきっとみんな疲れていたせいだ。そんな理由をつけないとおれはうまく呼吸ができない。
おれたちの前を歩く鬱先生がシャオロンの手を引いていた。いつものおれなら、気持ち悪いって唾を吐くのに、できない。できない。できない。だれか、おれの手を握ってくれ。
「シッマ、」
「オス、マン」
「ごめん、おれ、こわくて。シッマの手握っててええ?」
するりと握られた左手が熱を持って、おれは頷くだけが精一杯だった。こわいのはオスマンじゃない。おれのほう。オスマンは優しい。優しいから、ずるい。おれは情けなくなってオスマンの右手をぎゅっと握り返した。
覚束ない足元がもやもやと揺れているのはきっと、寝不足のせいだ。
あともうすこし、
もうすこし、
あと
ぴたりと前を歩くオスマンの足が止まっておれは上を向く。扉の上に飾られたクラスの表札。隙間の空いた扉。その前に立ったトントンがこの世のものじゃないもんを見たような顔をして突っ伏していた。
ああ、そこに、居るんやな。
トントンに続いたオスマンが同じように表情を歪ませておれを見る。つぎはおれのばん。
空いた隙間から見えたのは、忘れもしない彼女の姿。
思わず声が出そうになって、両の手で口をふさいだ。
はきそう。
はきそう。
いろんなものが、ぜんぶ、ぜんぶ、でそうだった。
おれはオスマンに支えられて、誰もいない空き教室に入った。そして大先生は言うのだ。彼女はなにもおぼえていないと。
20180831
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