雑渡さんと一緒! 15


雑渡さんと付き合うことになった。恋人になるまでの過程って、もっとロマンチックでお互いドキドキするんだろうなぁと思っていたけど、実際はそんなことはなかった。無理矢理キスされて、私が感情的になって告白をするという、ドラマや少女漫画とは違った勢いのあるものだった。これが普通ではないことぐらい恋愛経験のない私にも分かる。凄く悔やまれたけど、雑渡さんは嬉しそうに笑ってくれたし、こうしてまた毎日会うことが出来ているから良しとした。
雑渡さんは毎日私の家にご飯を食べに来てくれた。ただ、私の部屋は小さい。たった6畳にありとあらゆる家具が配置されている。ソファなんて洒落たものはなく、床に座っている雑渡さんが申し訳なくなる。付き合う前から思ってはいたけど、付き合うことになってからは余計に気になっていた。


「雑渡さん、帰らないんですか?」

「帰って欲しいの?」

「私の部屋は狭いので申し訳なくて…」

「あぁ、じゃあうちにおいで」


私が返事をする前に雑渡さんは立ち上がり、私の手をとって玄関へと歩いていった。慌てて靴を履き、鍵をかける。隣の部屋のドアを開けて、雑渡さんは笑った。


「そういえば、中に入るのは久し振りだね」

「お、おじゃまします…」

「何もないけど、どうぞ」


雑渡さんの部屋は私の部屋よりも大きかった。奥にドアがあるところをみるとワンルームというわけではなさそう。入った瞬間に煙草のにおいがした。そして、何もない、と言ったけど、謙遜ではなくて本当に何もない。テレビとソファ、テーブルのみのシンプルな部屋。せっかく広いんだからもっと何か置けばいいのに。
黒い革張りのソファに座るよう促される。小さなカウンターのあるキッチンから雑渡さんは珈琲を淹れてきてくれた。ちなみに、カウンターキッチンなんて洒落た物もうちにはない。同じマンションなのにこうも違うのかと驚いた。


「はい。熱いから気を付けて」

「ありがとうございます…」


私の隣に雑渡さんは座った。急に緊張してきた。つい最近までお隣さんだったのに、もう雑渡さんは私の恋人になった。でも、恋人って具体的には何をするんだろう。
そんなことを考えていると、チャリンと音を立てて鍵を渡された。可愛いリボンのキーホルダーが付いている。どこの鍵かなんて聞かなくても分かった。雑渡さんの家の合鍵だ。
私は嬉しくなって鍵を握り締め、雑渡さんに笑い掛ける。すると、雑渡さんは不意にキスしてきた。初めは触れるだけの優しいキスだった。だけど、次第に唇を喰まれるキスに変わってきた。そして、大人のキスをされた。舌を絡められ、ぎゅうっと抱き締められる。解放された時にはもう頭の中は雑渡さんでいっぱいになっていた。


「ぷっ。真っ赤」

「…もう。からかわないで下さい」

「いや、可愛いなぁと思って」

「可愛いだなんて、そんな…」

「可愛いよ。私のなまえが一番可愛い」


髪を指先で撫でられ、雑渡さんは目を伏せながら髪にキスしてくれた。私の全てが愛おしいというように。
雑渡さんに想いを伝えて早いもので一週間が経とうとしている。誕生日もお祝いしてもらったし、高級であることは間違いのない指輪も貰った。ゴールデンウィークは毎日出掛けたし、平日も毎日会えている。会う回数が増えれば増えるほど雑渡さんは私に触れるようになっていった。
これから私は雑渡さんとどんな風に付き合っていくのだろう。手を繋いでデートして、こうしてお互いの家で一緒に過ごして、キスをして。そして…あ、どうしよう。可愛い下着なんて持ってない。いや、雑渡さんは大人だからセクシーな下着の方が好きなのかな。でも多分私には似合わないと思う。というより、もしかして今日これからそういうことをするのかな。どうしよう、心の準備ができてない。というか、下着の準備ができていない。待って、どうしよう。


「あの、雑渡さん…」

「うん?」

「そ、その…えっと、いや、やっぱり何でもないです…」

「なに?」

「何でもないです!」


今日は何もしませんよね?なんて恥ずかしくて聞けるはずがない。そんなはしたないことを聞いたら、もう恥ずかしくて生きていけないかもしれない。
私がもじもじしていると、雑渡さんは何かを察したようだ。


「あぁ。今日は何もしないよ?」

「ひぇっ…」

「そりゃあ、まぁ、したいけど」

「ま、待って下さい。私は…っ」

「しないって。ちょっと、思うところがあるからね」

「…思うところ?」

「まぁ、こっちは整えておくから、なまえは私に抱かれるのを大人しく待ってなさい。たくさん可愛がってあげるから」

「か、可愛がるって…」


色っぽく笑う雑渡さんはまたキスしてきた。今日何度目なんだろうか。そして、私はまだ慣れない。ドキドキするし、緊張して、上手く息も吸えない。
これから私は雑渡さんにどんな風に愛されるのだろう。どんな風に私は雑渡さんを愛するのだろう。想像することは今はできないけど、雑渡さんと一緒ならきっとどんな日も楽しく過ごすことができるのだろうなぁと思いながら、私はぎゅうっと大好きな彼氏に抱き付いた。


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