雑渡さんと一緒! 24


極端な話、セックスなんて気持ちのいい行為というよりは互いの存在を確認しあう行為だと思っていた。少なくとも私はそういうセックスしかしたことがなかったし、大して気持ちのいいものだとも思っていなかった。面倒だから愛撫らしい愛撫なんてしたこともなかったし、出せば終わり。ただそれだけの行為だと思っていた。だから、正直なことを言ってしまえば、なまえの中に挿れただけでイきそうになった時は驚きを隠せなかった。愛撫だって、なまえが感じてくれていることが嬉しくて、執拗に攻め立てた。
女を抱いたこと自体は初めてではなかったけど、本当の意味でのセックスはなまえが初めてと言ってもいいのではないだろうか。そのくらい、自分の経験してきたものとは異なっていた。凄く気持ちよかったし、心がとても満たされた。
これ以上なまえを好きになることはないと思うほどに愛していたつもりだったけど、これはまずいことになったなと思った。多分、まだ好きになる。もっと夢中になってしまう。
深夜にベッドで裸のまま微睡んでいると、なまえがすり寄ってきた。多分、狙っているわけではないのだろうけど、こういう何気ない行動で私がどう思うのか分かって欲しい。
愛しいと感じることは凄いことなんだと思った。そしてまた、恐ろしいことなんだとも思った。なまえを愛する気持ちは生涯変わらないだろうけど、なまえを自分だけのものにしたいという気持ちはより強くなってしまった。


「ねぇ、雑渡さん」

「んー?」

「私、雑渡さんと一緒に暮らしたいです」

「んー…うん!?」


眠くてうとうとしていたのに、目が覚めた。聞き間違いだろうか、なまえは今、私と暮らしたいと言った気がした。
驚いてなまえを見ると、なまえは恥ずかしそうに笑った。


「私、雑渡さんがいないと凄く寂しいんです。朝も昼も夜も側にいたい。それに、雑渡さんのことをもっと知りたい」

「いや、そんなに知られるようなことはないけど」

「そうですか?少なくとも私はこの一ヶ月で雑渡さんのことがたくさん分かりましたよ?」

「例えば?」

「物に興味がないこと、洋食より和食が好きなこと、照れ屋で寂しがりなこと、案外繊細なこと。それから…」

「…あ、もういい。聞いてて恥ずかしくなってきた」

「それから私のことが好きなこと。凄く大切に思ってくれていること。雑渡さんを見ていたら分かるようになりました」


もういいと言ったのになまえは言葉を続けた。そして、抱き締められる。本当に嬉しそうに笑いながら。
私は自分のことはなまえには多くを語らなかった。自ら話すような人生を歩んできてはいなかったし、自分自身がつまらない性格だと感じているのにあえてそれを自ら語る気にはなれなかったから。だけど、一緒に過ごすことで私のことを理解し、それを受け入れてくれたのだとしたらこれほど幸せなことはあるだろうか。私のことを理解したいという想いがなければ出来ないことだから。私のことを見てくれているということだから。愛がなければ出来ないことだから。


「…何というか、なまえは凄い子だね」

「凄い?」

「…ねぇ、私のこともっと知っても嫌いにならない?」

「はい。一緒に暮らしたら私の嫌な部分が今以上に見えると思うんです。それでも私のことを愛してくれますか?」

「嫌な部分というなら私の方が絶対に酷いと思うけど」

「大丈夫。私はどんな雑渡さんも好きですよ?だって、それが雑渡さんなんだから。あなたは私の特別な人だから」


微笑むなまえの顔を見ていたら胸が苦しくなった。
あまりに愛しすぎて耐えられなくなった私はなまえの身体を貪るように抱いた。なまえは今日が初めてだ。こんな負担を掛けるような抱き方をするつもりなんてなかったのに、どうしても自分を止められなかった。
事後、ぐったりとするなまえをぎゅっと抱き締める。


「明日、買い物に行こうか」

「…買い物?」

「二人で暮らすにはこの部屋は殺風景過ぎる」

「あぁ、そうですね…」

「だから明日私のことを起こしてね。絶対に」

「あー…はい」


なまえは眠そうな声で返事をした。しばらくすると寝息が聞こえてくる。可愛い顔をして眠っていた。こんなにもまだあどけない顔をして寝ているというのに、情事の時はあんなにも大人びた顔をするのだから、恐ろしい子だと思う。
なまえも私と一緒に暮らしたいと、離れて過ごしたくないと思ってくれていて安心した。そして、凄く嬉しい。
多分、明日の朝なまえは私がなかなか起きれなくて呆れるんだろうなぁ。だけど、これから毎日起こしてもらうことになるんだから慣れてもらわないと。受け入れてもらわないと。
一緒に暮らしたらなまえの新しい一面を知れるだろうか。そんなことを考えながら幸せな気持ちで私も眠りへついた。


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