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2026 06/19
[newpage]
翌日から、マンドリカルドは精力的に活動を始めた。訓練をし、体を鍛える。与えられる種火も使って強くなっていく。
それだけでは足りないと思い、空いている時間は手伝いも始めた。例えば、厨房での下拵えだとか、困っているスタッフを手助けしたりだとか。
少しでも役に立ちたい。そして、あの優しいマスターを助けたい。
そう思ったマンドリカルドは動き続けた。サーヴァントだから、休まなくても大丈夫だからと。
でも、そんなマンドリカルドに周りは顔を顰めた。休みも必要だ。肝心の戦いで力を出しきれずにマスターを助けられなかったら、どうする?と言ってきた。その言葉にマンドリカルドは項垂れながらも頷き、必要な分の休息は取るようになった。
鍛錬や訓練や繰り返し、種火を貰い。ようやく及第点の強さになれたマンドリカルドは遂に戦場に出る事になった。
場所はかつて特異点だった場所。大元は叩いたから、脅威にはならないが、それでも放っておいたら、危険な場所だ。
海が広がる場所は何故か懐かしい感じがした。
敵は霊や作られたエネミーが基本。だが、シャドーサーヴァントもいる。ライダーのマンドリカルドが優位に立てるキャスター系のシャドーサーヴァント。
しかし、油断は禁物。マンドリカルドは共に戦う仲間と共にシャドーサーヴァントを守る敵を倒していく。
「貰った!」
シャドーサーヴァントを守る敵を倒して、近づいたマンドリカルドはシャドーサーヴァントに襲いかかった。そんなマンドリカルドにシャドーサーヴァントは杖らしきものを向け、
「え?」
がくん、と体が崩れ落ちた。力が上手く入らない。体から力が抜けていく。意識も薄れていく。
「こん…の…!」
力を振り絞り、眼前の敵に木刀を振り下ろす。しかし、受け止められる。それどころか、反撃を食らった。今までとは違い、力強い反撃。それにマンドリカルドは目を見開いた。
良くも悪くも、この特異点の敵は弱め。まだ成長し切っていないマンドリカルドでも倒せるレベル。マンドリカルドに成功体験をさせ、自己評価が低い彼に少しでも自信をつけさせたかったのもあるのだろう。
だから、割とあっさりと敵を倒せていた。反撃をされてもあまり強くなく、逆にこちらからの反撃で倒していけた。
ところが、この敵の反撃はこの特異点の敵より強いもので。まるで、成長しきった自分の仲間に攻撃したり、してきたみたいで。
「まさか…敵と味方が分からなくなっている…?」
マンドリカルドは呆然と呟いた。そして、慌てて周りを見渡す。
周り全部にもやのようなものがかかっている。敵も味方も分からない。マスターですら、見る事は出来ない。パスがあるから、ぎりぎりマスターの場所は分かるが、それも時間の経過と共に分からなくなっている。
「敵キャスターの術のせいか…!」
マンドリカルドはそう結論づけた。きっと、先程シャドーサーヴァントに襲いかかった時に術をかけられたのだ。それも認識阻害とか、そういう類のもの。マンドリカルドは耐魔力Cだから、そこまで魔法による耐性とかもない。成長し切っていないから、尚更だ。
周りへの認識のあやふやさは更に酷くなっていく。このままでは、マスターですら、分からなくなりそうだ。
それよりも。自分が…いや、自意識も保ったままでいられるか?霊基は保てるか?怪しい事この上ない。
ならば。
「間際の一撃」
マンドリカルドは第二スキルを使った。一時的に能力を大幅に上げられるが、即死してしまうスキル。これで一時的に座に帰り、それからカルデアに帰還する。霊基が消滅したら、強制的に退去するカルデアだからこそ、出来るやり方だ。
ただ、攻撃はしない。攻撃した相手が味方だったら困るからだ。だから、木刀を地面に突き刺してじっと座に還るのを待つ。
これならば、周りに迷惑もかけないだろうと考えて。
「嫌だ、マンドリカルド…!いかないで…!!」
スキルの効果で霊基が壊れ、一時的に座に帰る間際。マンドリカルドは誰かが悲痛に叫ぶ声を聞いた気がした。
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「…ん?」
「マンドリカルド!」
マンドリカルドが目を覚ますと、誰かが抱きついてきた。ぎゅうぎゅうと力一杯抱きついてくる。でも痛くないし、不快感とかもない。
「…マスター?」
「うん、そうだよ、マンドリカルド!俺だよ!!」
相手が誰だか分かったマンドリカルドが尋ねると、相手…マスターはパッと目を輝かせた。気のせいか、空のように青い瞳が潤んでいるような気がする。
「大丈夫、マンドリカルド?!体に違和感とかはない?!」
「大丈夫っすよ、マスター。大丈夫だから、落ち着いて下さい」
今にも泣き出しそうな顔で悲痛に叫び、確認するようにマンドリカルドの体を触りながら尋ねてくるマスター。そんなマスターを少しでも落ち着かせるべく、彼の肩に手をおきながら、マンドリカルドは声をかける。
気のせいじゃなかった。この心優しいマスターは自分を心配するあまり泣いていたようだ。或いは一度座に還った事で、今までの旅で出会いながらも別れるしかなかった人達を思い出したのか。
どちらにしろ、この心優しいマスターに心配をかけ、悲しませたのは間違いない。
「大丈夫だよ、立香君。マンドリカルドの体にも霊基にも異常はない。ちゃんと元通りに限界しているから、落ち着きたまえ」
「そうだぞ、マスター。処置はしっかりしておいたし、検査も異常なし。術とかも何も残ってないとキャスター系のサーヴァント達も言っていたじゃないか。だから、安心しろ」
傍で一緒にいたのか、マスターの背後からダ・ヴィンチがひょっこり現れて言った。その後ろからはレイシフトする時以外はカルデアの治療室に常にいるらしい医神のアスクレピオスもマスターに声をかけてくる。その言葉を聞いたマスターは軽く首を縦に振る。
しかし、マンドリカルドからマスターが離れることはなかった。そんなマスターを見たダ・ヴィンチは悲しそうな顔をし、アスクレピオスは軽くため息をついた。
「では、今から問診を始める。検査とかでは異常は見つからなかったが、万が一があると悪いからな。目覚めたばかりだが、構わないな?マンドリカルド」
「あ、はい。お願いします」
淡々と言ってくるアスクレピオスにマンドリカルドは頷きながら、そう答える事しか出来なかった。そんなマンドリカルドにアスクレピオスはカルテ用の紙が挟まっているバインダーを手に持ち、ペンを取り出して問診を始める。淡々と質問をしていくアスクレピオス。そんな彼にマンドリカルドは出来るだけ正確な情報を伝えていく。
問診の間、マスターは抱きつくのはやめたが、マンドリカルドの側を離れることは無かった。
「マンドリカルド、何で第二スキルを使ったの?」
アスクレピオスの問診が終わるとマスターがマンドリカルドに尋ねる。その表情は、まだ何処となく不安そうだ。そんなマスターを安心させるべく、マンドリカルドは苦笑しながら答える。
「情けない事に敵サーヴァントの術を食らっちまって、諸々分からなくなっちまったんすよ。幸い、他に強いサーヴァントはいましたし。だから、あのスキルを使って…」
「そんな理由で、あのスキルを使ったの?!」
マンドリカルドの言葉を遮り、マスターが叫ぶ。悲鳴のような怒鳴り声。そんなマスターに部屋の中は一瞬静まり返る。滅多にないマスターの大声に全員が驚いたからだ。
「君、自分がいたら邪魔になると思ったから、あのスキルを使ったの?!」
「あ、いや…その…」
「そんな下らない理由で座に帰ったの?!」
鬼気迫る表情で怒鳴るようにマンドリカルドに尋ねてくるマスター。そんなマスターにマンドリカルドは戸惑う事しか出来ない。普段は優しく余り怒らない彼の鬼気迫る怒り。それに驚いたのだ。
なんと言って良いか分からないからか口籠るマンドリカルドにマスターは尚も責めるように尋ねてくる。それにマンドリカルドは必死に考えながら、答えようとするが常にないマスターの様子に余り上手く頭が働かない。
「立香君、落ち着きたまえ。そんなに切羽詰まりながら尋ねられたら、マンドリカルドだって上手く答えられないよ」
二人の様子を見かねたダ・ヴィンチが優しく言うと、マスターはハッとしてマンドリカルドに詰め寄るのをやめた。慌ててマンドリカルドから、少し離れる。それにマンドリカルドはホッとしながらも離れた温もりを寂しく思った。
「では、改めて聞くとしよう。マンドリカルド、どうして君は第二スキルを使ったんだい?あの場にはキャスター系のサーヴァントもいただろう?」
動揺しているらしいマスターを気遣ったのか、そのままダ・ヴィンチがマンドリカルドに尋ねた。そんなダ・ヴィンチに顔を向けるとマンドリカルドは答える。
「敵に術をかけられたせいか、敵も味方も分からなくなっちまったんすよ。だから、これは退去した方が良いんじゃないかって…」
「成程。一度座に還る事で霊基をリセットして状態回復。敵味方に何もしない事で被害を防ぎもする。そんな状態じゃ味方のサーヴァントが君に近づいても君は味方だと分からないからね。だから、何もせず座に還る事で霊基を回復させ、あれ以上の被害も防いだのか」
マンドリカルドの答えを聞いたダ・ヴィンチは納得したからか、軽く首を縦に振りながらそう言った。一度座に還っても霊気グラフを使えば再召喚が可能なカルデアだからやれる方法だと付け足して。
二人のやり取りを聞いたマスターは納得したらしく、弱々しく首を振りながら呟く。
「それでも、安易に座に還らないでよ、マンドリカルド。君が座に還ったら、俺は…」
「マスター…」
「もう…これ以上失うのは嫌なんだ…」
悲痛に呟くマスターにマンドリカルドは何も言えなくなる。あんなにも心身共にズタボロだろうから、傷つけたくないと気遣ったからこそ、した行為だったが…
だが、結局は傷つけてしまった事実に反省しながら、マンドリカルドはマスターの手を伸ばす。赤い令呪が刻まれた右手を優しく掴み、顔を見合わせるように項垂れるマスターの顔を覗き見るように少し見上げる。
「軽率な行動をして申し訳無かったっす、マスター。俺なりにあんたを
気遣ったから、あれをしたんすが…結局、あんたを傷つけちまったんすね…」
「マンドリカルド…」
「あんたは今までの旅で色々経験してきただろうから、俺だけはあんたを傷つけたくなかったんすが…結局あんたを傷付けちまったんすね、俺は…」
情けねえと言葉を続けようとしたマンドリカルドだったが、途中で口を閉じた。マスターが青い瞳を見開き、マンドリカルドを見つめていたからだ。口を薄く開き、これ以上ないくらいに傷ついた顔で今にも泣きそうな顔をしながら。
見るだけで胸が痛くなる程に悲痛な表情を浮かべるマスターにマンドリカルドも、そしてダ・ヴィンチもアスクレピオスも黙り込む。
「…俺のせいだったんだ」
「立香君!」
それだけ呟くとマスターはその場から逃げるように走り去った。常にないくらいに悲痛なマスターを心配したからか、ダ・ヴィンチが後を追う。
マンドリカルドは呆然と二人を見送る事しか出来なかった。
「…やってしまったな」
呆然とするマンドリカルドにアスクレピオスがそう声をかける。その声にハッと我に返ったマンドリカルドは彼を見た。
「あの、医神様…何で、マスターはあんなにも傷ついて…?あの人がサーヴァント相手でも思いやりのある優しい人だからって、あそこまでなるのはおかしいっていうか…」
「これまでカルデア…いや、マスターがしてきた旅を考えれば、あの反応は当たり前だろう?まして、異聞帯の海のお前はマスターの目の前でマスターを守る為に散ったんだし…」
「え?」
恐る恐るマンドリカルドが尋ねるとアスクレピオスは呆れたようにため息をつきながら、そう答えた。それを聞いたマンドリカルドは驚きの余り、灰色の瞳を見開く。
何だ、それは?確かに海を旅した時もあったが、あれは特異点だったし、『マンドリカルド』もいなかった筈。それなのに…
海の異聞帯?マスターを守る為にマスターの目の前で散った自分?
そんなの聞いていないし、自分が見た記録にも無かったが…
「どういう事っすか?異聞帯の海?そこに別の俺がいた?しかもマスターの目の前でマスターを守る為に散った?そんな説明されてないし、そんな記録も見た事もないんすけど?」
「そうか、お前は知らなかったのか…」
マンドリカルドが問い詰めるようにアスクレピオスに尋ねると彼はマンドリカルドから顔をそらし、そう呟いた。気まずそうに黙り込む彼にマンドリカルドは尋ねるが、アスクレピオスは伝えないと決めたカルデア関係者を差し置いて勝手に自分から説明する事は出来ない、どうしても知りたいなら、カルデア関係者から聞いてくれと答える。それを聞いたマンドリカルドはそれもそうだと納得した為、頷くしかなかった。
「あの、すみません…別の俺とマスターが戦ったという異聞帯の海の記録って見れますか…?」
治療室から出たマンドリカルドは見つけたカルデア関係者にそう尋ねる。紫の髪をツインテールにする彼女は確かシオンという名前の女性だ。マンドリカルドに尋ねられた彼女はそうですね、そろそろ貴方に伝えても良いでしょうと呟くとあっさりと異聞帯インドの次にあった旅の記録を見せた。
それは人理修復の時に旅した三つ目の特異点と同じく海が舞台であった。アトランティスと呼ばれるその海の旅の記録をマンドリカルドは黙って見ていく。
「成程。確かに、これは俺…いや、『マンドリカルド』には見せ難いっすね」
アトランティスだけでなく、オリンポスの旅も見終わったマンドリカルドは呟いた。
異聞帯の海でマスターの仲間になった自分。何だかんだと彼の助けになり、最後は友であるマスターを助ける為に、あの『ヘクトール』に後輩と認められて聖剣デュランダルを継承し、普段は使えない第二宝具を放ってアルテミスの攻撃を相殺し、マスターを守りきって散った自分。
羨ましいくらいに違う、自分と同じ筈の『マンドリカルド』にマンドリカルドは武器の木刀を力強く握った。そんなマンドリカルドに記録を見せたシオンは何も言わなかった。記録を見せ終わるともう終わりだと言わんばかりに片付けに入る。
そんなシオンにマンドリカルドも何も言わなかった。天井を見上げるように顔を上げて黙り込みながら、思考を働かせて考え込む。
一つ、気になった事があった。しかしその答えはマンドリカルドには分からなかった。どんなに考えても。
己の疑問一つ自分で解消出来ないとは情けないと思いながら、マンドリカルドは呟いた。
「…マスターの所に行こう…そして、直接マスターに聞こう」
そう決意するように呟くとマンドリカルドはその場を去った。