2026 06/19

[chapter: 決戦の地は大阪]





「マンドリカルド、まだー?」
「もう少しっすよ」
俺が尋ねると、俺の前でバイクの運転をしているマンドリカルドは言う。
「それまで、俺とのバイク旅を楽しんで下さい」
「…うん!」
頼もしく運転する恋人に俺は元気一杯に頷いた。そして、彼の腰に回した腕に更に力を込めた。
「到着っす」
「ここって…」
目的地に着いたのか、バイクを止めたマンドリカルドの声に俺は顔を上げた。
対岸の建物には有名な看板が見える、これまた有名な橋。周りからはソースとかが焼ける香ばしい匂いが漂い、地元の人も観光客も雑多に行き交う。地元の人らしい中には独特な格好をしている人もいるし、外国人にも有名だからか、あちこちで外国人含む観光客が写真を撮っていた。
「先日、俺、ヘクトールさんと旅行に行ったじゃないっすか」
場所が場所だからか、さん付けでオジサンを呼ぶマンドリカルド。その言葉に笑顔を浮かべて返事をしながらも俺の胸の何処かが痛む。
ヘクトール様と食事をしています、みたいなメッセージと共に送られてきた写真。写真は二枚あって、片方はビールを飲もうとする楽しそうなオジサン。もう片方は嬉しそうに現地のお好み焼きを食べようとしているマンドリカルド。
行く前は憧れ、尊敬している人との旅で何か粗相をしたら…!と戦々恐々としていているマンドリカルドに、君なら大丈夫だよ、オジサンも可愛い後輩との旅を楽しみにしているんだからと励ました。行ってからはマンドリカルドは大丈夫だろうか、オジサンとの旅行を楽しんでいるだろうか?と心配していたから、写真を見て安堵したものだ。
だけど。俺とは違う笑顔をオジサンに向ける彼の写真を見て、胸の何処かが少しもやっとしたのも、また事実だ。
どちらも悪くない。むしろ、これから更に激しい戦いになるだろうからと英気を養う為にも皆に旅行に行って貰っているのに。マンドリカルドにオジサンとの旅を提案したり、恐縮する彼を宥めて半ば無理矢理行かせたのは自分なのに。
やましい思いなんて誰にもないと分かっていても、俺はマンドリカルドから特別な笑みを向けられるオジサンに嫉妬してしまったのだ。
そんな自分に嫌気が差す。
「あっちはあっちで良い所もあったし、ヘクトールさんとの旅は夢じゃないかと思うくらい幸せで楽しい、凄く良い旅行だったんすが…」
自分の嫌な面を自覚して自己嫌悪に陥る俺にマンドリカルドは言う。
「やっぱり俺の恋人はあんたなんで、こっちはあんたと来たかったんすよ」
そう笑顔で言う彼の一言に俺の胸は頭上で青く澄み渡る空のように晴れ渡った。
眦も短い眉も下げ、困ったように照れたように笑いながら言うマンドリカルド。何処かひとに対して一線を引いているからか、少し不器用に笑うその鈍色の瞳は優しさも愛しさも、これでもかと込められていた。
いつもは精悍だからか、ともすれば怒っているとさえ言われる鋭い鈍色の瞳はこれでもかと俺への愛と優しさに満ち。俺が喜んでくれたら、良いなと人に気を使う彼らしい、その少し不器用さを感じる笑顔。
彼のその優しい微笑みが俺は大好きだ。
我ながら単純だと思いながらも、俺の胸も嬉しさと愛しさで一杯になる。
だって、俺もマンドリカルドが好きで、だから恋人になったのだから。恋人が自分を喜ばそうとしてくれたのに嬉しくない人なんて、そうそうないだろう。
マンドリカルドが俺にくれた黒と灰色のヘルメットの中で俺は思わず頬を緩ませる。すると、人をよく見る彼にも俺が喜びから緩んだ顔をしたのはバレたらしく、ますます嬉しそうに眦を下げ、頬も緩ませて笑う。
「こっちのお好み焼きはあんたと一緒に。串揚げやたこ焼きとかも食い倒れとやらになるくらい、腹一杯食いましょう。たらふく飯を食ったら、有名らしい遊園地に行きません?あぁ、それとも、やっぱりこちらも有名らしい劇場に行きますか?はたまた、観光地の方に行きますか?」
そう言うとにこりと優しく俺に笑い、マンドリカルドは言う。
「全部に行きましょう。あんたの行きたい所、全部に一緒に行きたいっす。あんたに楽しんで貰うのは勿論、俺もあんたとの旅行を楽しみたいんで」
優しく穏やかに笑いながら言うとマンドリカルドは俺のヘルメットに手を伸ばし、そっと外した。
「俺と一緒に最高の旅行をしよう、立香」
ただ真っ直ぐに俺を見つめてマンドリカルドはそう行った。普段とは違い、ともすれば生前の彼みたいに不遜さすら感じさせながら。
絶対に俺と最高の旅行をするんだという決意を感じた。
そんな恋人が嬉しく、また頼もしくもあるので、俺は頬も眦も緩ませて笑う。優しく俺を見つめる鈍色の瞳を、俺も頬と眦を緩めて優しく見つめ返す。
俺と最高の旅行…いや、デート旅行をしようと言うマンドリカルドの気持ちが嬉しかった。憧れ、尊敬したオジサンではなく、恋人の俺としたいと言う、その言葉が。その気持ちが。
ただただ嬉しさと、そして幸せに俺の胸は満ちていく。嬉しくて嬉しくて顔が緩むのを止められない。
「じゃあ、たこ焼きから食べに行こう」
マンドリカルドの腕に手を伸ばし、その腕に自分の腕を絡める。傍目には細く見えるけど、しっかり鍛えられた腕。彼の腕に抱き付く俺を見たマンドリカルドは一瞬だけ鈍色の瞳を見開いた。
「その後はお好み焼きを食べてから、串揚げ。デザートはここにしかない有名ケーキ屋さんでスイーツ。食べ終わったら、遊園地に行こうよ」
「そうっすね。楽しい旅行にしましょう」
俺が彼の恋人らしく贅沢三昧な願いを言うと、マンドリカルドも破顔して心底嬉しそうに笑いながら頷いた。恋人らしく腕組みをし直し、エスコートするように歩き出す。そんな彼に俺も更に笑みを深めた。
恋人のマンドリカルドと過ごす、最高な旅行はこれからだ。
オジサンとの旅行よりも楽しくて幸せな最高の旅行にしようね!マンドリカルド!!

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