恋愛初心者先輩
2026 06/19
[chapter:無自覚後輩と恋愛初心者な先輩]
恋人な後輩と致した。
それなりに長く生きた自分だが、実はこういう事は初めてで。正直、自信は無かったが、恋人の後輩は喜びながら、自分を受け入れてくれた。
自分に愛された恋人の後輩は可愛かった。ただでさえ、男同士で恋愛経験すら初めてな自分がする側で。異性より受け入れにくく、沢山痛みがあっただろうに恋人の後輩は自分を受け入れてくれたのだ。
(立香、可愛かったなぁ…)
自分に愛されて蕩ける恋人の後輩の可愛い姿を岸波白野は思い出す。痛みに涙を流しながらも自分に手を伸ばして受け入れ、愛を伝えてくれた恋人の後輩。
『大丈夫…です…ちゃんと…して、くださ…』
涙を流しながら、間近でそう言った恋人の後輩は今までで最高に可愛かった。色々と大変な事になったのは自分だけの秘密だ。
何だかんだ、月世界のマスターとして駆け抜け続けたせいで、沢山の事が出来なかった。あれはあれで充実した生活だったが、だが、だからこそ出来なかった事は沢山あって…
そして、今はそれらがやりたいと分かり、それをやれて。後輩でマスターな彼を好きになって、恋人同士になって…
あまりの幸せに顔がにやけてしまう。
「まずいな、これ。抑えないと…」
こんな所を他の人、特に恋人な後輩に見られたら、幻滅されてしまう。彼の前では格好良い恋人で格好良い先輩でいたい。
そう思った白野は顔を抑えながら、恋人な後輩の体を含む行為の後片付けをしていった。お互いの身を清め、寝る場所であるベッドも綺麗にして…
後片付けが終わったから、さて休もうと白野が掛け布団をそっと捲ると、
「ん…しらの…さ…?」
「あ、ごめん、立香。起こしてしまったかな?」
「いえ…」
自分に愛されて疲れて眠っていた恋人の後輩…藤丸立香が起きてしまった。白野が優しく声をかけると、ぼんやりとしながらも立香は返事を返す。どうやらまだ眠いらしい。
まぁ、そうだよな、と思いながら、寝具の中に入って立香に近づいた白野は彼の体に手を伸ばした。痛いであろう腰を優しく摩り、時たま彼の背中の辺りをぽんぽんと優しく叩く。
「大丈夫だよ、立香。まだ休む時間はあるから、もう一回寝よう?」
「は…ぃ…」
白野が眠りを促しながら、優しく声をかけると、立香はうとうとしながらも返事をした。とろとろと微睡みながらも返事をする恋人の後輩は可愛くて…
俺の恋人は可愛い。
(良かった。本当にこれ、ちゃんと立香が安心して眠れる効果があった)
可愛い恋人の後輩の姿に複数の気持ちを抱いた白野は悪くない。
因みにこの手に関する知識は赤い弓兵から聞いた。彼は彼で頼りになるが、こういう事は本当に大丈夫だろうか?と思う言動も月世界で自分にしていたからである。まぁ、厳密にはあの彼とカルデアの彼は違うが、根っこは同じなので。
それと、確かめたい事がある。こんな風に安全な場所で大丈夫だと分かるが、意識があやふやな状態の今の恋人の後輩にだから出来る質問。
「立香。良かったら、答えて貰いたいんだけど…」
「ん…?」
眠いからか、ぽやぽやしている恋人の後輩に白野はずっと気になっていた事を尋ねた。
「立香は前にもこういう事はした事はあるかい?」
「いえ…」
ぼんやりとしながらも立香は白野の疑問を即座に否定した。それに安堵する白野に立香は続けて一言。
「全部、白野さんが初めて…」
「え?」
「好きも…恋人も…白野さんが…初めて…」
立香は白野にとんでもない爆弾を放つと目を閉じてしまった。すぐに穏やかな寝息が聞こえてくる。恋人兼先輩の自分に爆弾を叩きつけるだけ叩きつけておきながら、眠ってしまった立香を白野は呆然としながら見つめる事しか出来ない。
「あ、あんなにあからさまに好かれているのに…恋人はおろか、好きな人すら、いなかったのかい?立香」
今まで?一回も?
あんなに人からもサーヴァントからも好かれているのに?
…本当に?
「嘘だろう、立香…?」
カルデアであちこちから、あからさまな好意を向けられている立香の姿を思い出しながら、白野は呟いた。恋愛関係には鈍感なせいか、赤い弓兵には自分よりも女難が酷いと言われている白野だったが、そんな自分でも十分過ぎる位に分かりやすい好意を彼は向けられていたというのに…
それなのに、恋人の後輩は初めてだと答えた。こういう行為は勿論、恋人どころか初恋すら自分が相手で…
それが意味する事を知った白野は咄嗟に口元に手を当てた。手の下で何とか抑えようとするが、頬も口元も緩み、顔は熱を持ち…
「どうしよう…嬉しい…」
自分と同じく、恋人の後輩も恋愛関係の全部が自分が初めてだと分かった白野はそう呟く事しか出来なかった。
嬉しかった。恋人の後輩も自分と同じで恋愛の全部が自分が初めてだなんて。それなのに、恋人な後輩は痛さに耐えながらも自分を受け入れてくれた。そして、自分と一緒に恋愛に関する初めてを経験して積み重ね、自分と共に歩いてくれて…
「可愛いが過ぎるだろ、立香…」
顔を真っ赤にしながら、白野はそう呟くことしか出来なかった。兎に角、恋人な後輩が可愛くて仕方なかった。
しかし、同時に心配になる。
「これ、周りにバレたら、まずいな…」
恋人の後輩の周りであからさまに好意を示す者達を思い出しながら、白野は呟く。
恋人の後輩はカルデアの人類最後のマスターだ。そのせいか、人間にもサーヴァントにも好かれている。そして、サーヴァント達を筆頭に危ない思考をする者達は沢山いるのだ。
特に女性は大好きなマスターが童貞だと分かったら、寝込みを襲ってでも奪うだろう。それは嫌だ。恋人は自分なのだから、恋人の身も守りたい。出来れば格好良く。
「今まで以上に気をつけないとな…」
白野は決意を固めながら、呟いた。伊達に月世界を救い、長く生きて先輩をしていない。信用出来る者もいるから、そちらを頼るのも有りだ。
「とはいえ、今は良いか」
気持ち良さそうに隣で眠る恋人の後輩の顔を見ながら、白野は呟く。恋人の後輩はすやすやと穏やかな寝息をたて、幸せそうな顔で眠っていた。そんな立香を白野は何より愛しく思う。
「可愛いな、立香…」
やはり俺の恋人は可愛い。
先ほどとは違い、複数でありながら、同じような気持ちを抱く白野。格好良いを気にする彼と縁深いサーヴァントが一瞬、格好悪いぞ、マスターと囁いたが、白野は気にしない。立香の腰の辺りにあった手を彼の顔にまで移動させ、頬をそっと撫でる。
「おやすみ、立香。良い夢を」
そう言って恋人の顔に一つ口付けを落とすと、白野は目を閉じた。