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2026 06/19

わしゃわしゃ





岸波先輩…白野さんと付き合うようになってから、俺達はマイルームで一緒に寝ている。折角恋人になれたのだから、一緒にいれる時は一緒にいたくて…と照れ笑いしながら言った白野さんに俺の胸は高鳴った。求められたのも嬉しいし、普段は自分は先輩を強く意識しているからか、格好良くあろうとしているが、恋人の俺には見せてくれる可愛い姿。恋人だからか、俺だけに見せてくれる、その姿が嬉しかった。
良くも悪くも俺達は同じくらいの身長。ダブルサイズの寝具を使えば問題ない。
そういう事をする時は勿論一緒に寝ているし、しない時も一緒に寝ている。白野さんの方が年上だからか、白野さんの寝かしつけは上手かった。負担にならない程度に俺を抱きながら、白野さんは俺の背中を撫でたり軽く叩いたりして、俺を眠りへと導く。その手つきが一等優しくて暖かいから、いつも俺はすぐに眠りに落ちた。そして、朝までぐっすりと寝ている。
の、だけど…
「起きちゃった…」
まだ夜が明けない時間に起きたからか、部屋は暗い。目の前では俺を腕に抱きながら、穏やかな表情で眠っている白野さんがいる。
さらさらのキャラメル色の髪に普段は穏やかな笑顔を浮かべて相手を気遣い、戦闘時には誰よりも真剣に相手に向き合って戦術眼を駆使して俺を助けてくれる。
それなのに敵地なのに敵が作ったであろうケーキをちゃっかり食べたりするとんでもない面も。最後のは流石の俺も驚きのあまり、叫んでしまった位だ。
誰よりも格好良いのにしっかり抜けている所もある、俺の大好きな人。誰よりも頼もしい先輩。俺だけの先輩。
改めて、白野さんの顔を見る。
何というか…大変顔が良い。
「…やっぱり、格好良い」
三番目なんかじゃない。冗談抜きに白野さんが一番格好良い。
というか、誰なんだ、白野さんを三番目とか言い出したのは?こんな格好良い人が三番目って…どれだけ顔面偏差値が高い所なんだ、月世界は?月世界の人って、そんなに美形ばかりなの?
いや、そうだったな。皆、美形だった。全員、美人さんだったな。
カルデアにいるムーンキャンサーの皆や桜ファイブの面々を思い浮かべながら、俺はそんな事を考える。と、胸に痛みが走る。
俺みたいなのが、白野さんの恋人で良いのかな?ただでさえ、白野さんは優しいのに格好良くて、マスターとしても月世界を救う程、優秀で…
俺、釣り合ってなくないか?
そう考えてしまう。こんな考え、俺を選んでくれた白野さんに失礼だ。と、思うけど…
一度そう考えてしまうと、中々頭から消えなくて。どんどん気持ちが沈んでしまって。
白野さんに抱き締めて貰って暖かい筈なのに、何だか寒くなってきた。あまりの寒さにぶるりと体を震わせる。
すると、それが原因なのか、白野さんが微かに眉を寄せた。薄く開かれた口からも微かに声が漏れる。起こしたかな?と不安を感じながら見ていると、白野さんが目を覚ました。寝ぼけているからか、焦点があっておらず、いつものような強さはない。
でも、その瞳はいつもよりも濃く深く、そして輝きがあった。
キャラメルというより、深い琥珀色の瞳がぼんやりと俺を見つめる。それに俺の心臓がドキリと一際強く跳ねる。
ドキドキしながら、濃い琥珀色の瞳を見つめていると、白野さんは寝ぼけているのか、ボーっとしながら俺の顔に手を伸ばした。それに違う意味でドキリとしていると、白野さんの手は顔ではなく、俺の頭まで伸ばされた。白野さん曰く、見た目からして触り心地の良さそうなふわふわな俺の黒髪をわしゃわしゃと撫で回してくる。
一見荒く見えるが、手つきは白野さんらしい優しいもの。白野さん曰く、癖っ毛だからか、風が吹く度にふよふよしていて可愛い、らしい黒髪を撫で回される。これでもかと優しい手付きだから、凄く落ち着いてしまって。俺にも白野さんの眠気が移る。
「…ねよ…りつか」
そう言うと、白野さんは頭から手を下ろし、俺の体に置いた。軽くだが、決して離さないとでも言うように抱き締めると白野さんは深い琥珀色の瞳を瞼で隠して、眠ってしまう。やるだけやって、言うだけ言っておきながら、すよすよと寝息をたてて眠る。
そんな白野さんを俺は呆然としながら見つめた。あまりの感情にさっきまであった眠気は吹っ飛び、手で目を抑えながら微かに体を震わせる。
「そ、そういう所ですよ、白野さん…!」
溢れる激情に微かに体を震わせながら、俺は白野さんが起きないように小声で叫んだ。
だって、狡い。狡過ぎる。寝惚けながらも俺を気遣って受け入れたから。俺の不安ごと受け入れるように抱き締めてくれたから。
岸波白野さんは人を誑かすのが上手な先輩ですので、気をつけて下さいね。マスター。
以前、BBが言った言葉をふと思い出した。
その通りだね、BBちゃん。白野さんは人を誑かすのが上手だね。とても上手だ。
だって、俺、見事に誑かされちゃったもん。
胸の内でそんな悪態をついてしまう。
とはいえ、暖かで優しい腕の中は居心地良く。さっきまであった不安はなく、先程まで感じていた寒さはなく。ただ、抱き締めてくれる白野さんの腕と胸が暖かくて。
じんわりと白野さんから伝わる暖かさは俺の眠気を誘った。激情は穏やかになり、優しく俺を癒し、包み込んでくれて。
瞼が重くなり、意識が眠りの世界へと引っぱられていく。心底、安心しながら。
これなら、朝までぐっすり眠れそうだ。
「ありがとう…白野さん…」
促されるまま、俺は瞼を閉じ、夢の世界に落ちていき。俺も隣で眠る白野さんのように夢の世界に旅立った。
ありがとう、白野さん。おやすみなさい。
安心しながら深い眠りに落ちた俺を祝福するように、遠くで長い夜が明ける気配がした。
「立香さん、聞いて。昨日、夢で凄く人懐こい可愛い黒猫が出てきてさ。思わず撫でたら、凄くふわふわで気持ち良かった。サーヴァントは夢を見ないのに不思議だよね」
翌日の朝、起きたら白野さんがそう言ってきた。それに思わず顔が熱くなったので、手で顔を覆って隠す。それを見た先輩が「もしかして…夢じゃない?しかも黒猫は…立香さん、だったり?」と呟いたので、多分顔が赤いまま頷いたら、白野さんも「そ、そっかぁ…」と呟きながら、俯いたのだった。

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