1
[chapter:仁義なき新撰組大戦
〜激重鯖には気をつけろ〜]
※一ちゃんと土方さんがグランドのカルデアの話です。
ようやく集まったのだから、と気を利かせたカルデアが食堂で新撰組限定のお祝い会を開いた。ら、見事に酔っ払いが大量生産された。
改めて自分の誠を見つけられた近藤と彼がやってきて嬉しい沖田と土方は言うに及ばず、川中島の縁から戦国武将組とも飲む永倉も言うに及ばないし、今回の件で新たにやってきた原田も藤堂も、かつての仲間との再会や求められて来た嬉しさから酒を飲む手が止まらない。普段は何だかんだ自制する斎藤も飲んでいるし、新撰組の良心と言われている山南すら、にこにこ笑いながらも酒を飲む手は止まらない。
結果、会場である食堂はアルコール漂う大宴会場と化した。それぞれが酒の入った杯を煽りに煽り、機嫌良く再会の美酒に酔いしれる。
「原田さん、もう一杯…え?」
山南が酒に酔いながらも隣の原田に声をかけると固まった。というのも…
「んふふふ…原田さん、筋肉すごいれしゅねぇ…」
「あざっす、マスター」
胡座をかいている原田の膝の上にマスターが乗っていて原田の体の筋肉を撫でていたからだ。ふにゃふにゃ笑いながら原田の体を触るマスターは何処からどう見ても酔っ払っている。
そんなマスターをその逞しい腕でしっかり抱えている原田。マスターは無粋にも原田の体の筋肉を触りまくっているが、原田は止めないどころか、口元を緩め、鋭い目つきも緩ませて優しく見ている。明らかに上機嫌だが、それはきっと酒のせいだけではないだろう。
「いいれしゅね…俺も鍛えてるけど、こんな風にはならないれしゅ…おれも筋肉もりもりな体になりたいれしゅ…」
「マスターはそのままで良いんですよ。俺達が戦うから、鍛える必要なんてない。それに、あんたはこのサイズが良いんです」
「やらぁ…!俺もはらだしゃんみたいなむきむきいけめんになって、もてもてになるんらぁ…!!」
「あんたは既にもてもてなんで、これ以上もてなくて良いんすよ」
うっとりと原田の体を撫でるマスターに原田が言うとマスターは原田の腕の中で駄々をこねた。そんなマスターを優しく腕の中に閉じ込めながら、彼はマスターに諭すように優しく言う。その表情は何処までも甘い。
そんなかつての同志の姿を見た山南は文字通り、固まった。
原田さん。貴方、そんな甘い顔が出来たのですね。貴方のそんな顔、私は初めて見たので驚いています。
あと、マスター。何故、ここにいる上に酔っ払っているのですか?通りがかった時に誰かが何だかんだ言って座らせた?そして、何だかんだ酒を飲ませてしまい、酔っているのですか?
…マスターなら、あり得ますね。善性が強いマスターなら、私達から誘われたら、断らないでしょうから。困りましたね。
「誰だ、未成年のマスターに酒を飲ませたのは!」
「マスター、水は飲めますか?飲めるなら、飲んだ方が良いですよ」
「のめるよぉ、藤堂くん。藤堂くんはほんとーにいいこだねぇ。優しいねぇ」
「あ、ありがとうございます、マスター…」
長年生きた事で壮年の姿にもなれる永倉は新撰組メンバーに怒鳴り、新しく仲間になった藤堂はマスターに近づくと優しく尋ねた。そんな藤堂にマスターがふにゃふにゃ笑いながら礼を言うと、彼は顔を赤らめる。それは決して酒に酔ったからではないのは周知の事実だ。
「ほら、マスターちゃん。原田なんて野蛮な狼野郎なんかよりも、優しくて格好良い紳士な一ちゃんの所においで。一ちゃんがマスターちゃんを部屋まで送ってあげるよ」
「何を言っているんですか、斎藤さん。あんたより、俺の方が体格が良いじゃないですか。マスターもあんたに肩を貸すより、俺に運ばれる方が安心出来るでしょ。だから、俺が責任を持ってマスターを部屋まで運びます」
「あ?」
マスターの傍で座り込んだ斎藤が両腕を広げながら言うと、原田がそれに返事をした。彼の言葉を聞いた斎藤の頬がぴくりと痙攣する
「おい、原田。お前、何を言ってやがる?俺はマスターちゃんのグランドセイバーだぞ?その俺が新入りでグランドでもないお前に負ける訳がないだろ?」
「でも、体格は俺の方が良いですよね?あんたの方が体重はあるが、あんたの体は絞りに絞ったからか、俺よりは細い。俺はマスターが羨むくらい筋肉があって体格が良いから、マスターもあんたに送られるより、俺に抱えられて運ばれる方が安心するでしょ。サーヴァントとしても直ぐに聖杯貰うくらいに種火を貰ったから、違和感なく体を動かせる。なのに、俺の代わりにあんたがマスターを運ぶ?絞った鍛え方をしたせいか、俺より体が細いあんたが?それはちょっとおかしくありません?」
「相変わらず、口が減らない野郎だな、原田。良いから、俺にマスターちゃんを寄越せよ。お前がマスターちゃんを部屋に運んで終わる訳がない。マスターちゃんに対して、あんな言葉を言う奴が送り狼をしてマスターちゃんに手を出さない訳がないだろうが。そんな奴にマスターちゃんを任せられるか」
「嫌です。マスターは俺が運びます」
カルデアに先に来たからか、柄が悪いながらも先輩風を吹かせる斎藤に原田は情け容赦なく言い放つ。そんな原田に苛立ちながらも催促するように腕を揺らして言う斎藤。そんな斎藤の言葉を聞かないとばかりに端的に断りを入れると、原田は自分の膝に乗せていたマスターを抱えて立とうとした。さり気なくマスターを部屋に送ろうとする原田を見て、斎藤の中で何かがぶちりと切れる。
「させるか、この野郎!」
「いでっ!」
斎藤は怒鳴ると同時に原田に足払いをかけた。不意打ちの攻撃に原田は見事ひっかかり、横転する。しかし、不意打ちながらも上手く受け身を取ってマスターには傷を負わせないから、流石である。
流石は元新撰組十番隊隊長と幕府からの密偵もしていた忍。マスターは傍に置いて彼の身の安全をとってから、斎藤に殴りかかった。普段は割と温厚に振る舞う斎藤だが、これには激怒し、襲いくる原田を殴り返す。お互いに一歩も引かない。
喧嘩を始めた二人にまた始まったとばかりにため息をついた永倉がマスターに近づいた。
「マスター、大丈夫か?」
「ん…ながくらしゃん…?」
「お、意識はあるみたいだな。とはいえ、そんな状態じゃ一人で帰られないだろうから、俺が運ぶよ」
座り込んで優しくマスターの体を揺さぶりながら永倉が尋ねると、マスターはうとうとしながらも彼の名を呼んだ。そんなマスターに安堵の息を吐きつつ、永倉はそう言ってマスターの体に手を伸ばす。
その瞬間、
『させるか!』
「ぶべ!」
今の今まで喧嘩していた斎藤と原田が永倉に襲いかかった。彼の足にタックルするように体を押し倒して妨害する。しかも、二人がかりで。
これには流石の永倉も耐えられなかった。地面に顔から倒れ込んでしまい、変な声を出す。が、すぐに起き上がって二人に対峙した。
「てめぇら…!何しやがる!!」
「マスターちゃんを連れて行くのは俺!グランドセイバーの俺なの!!」
「てめぇ一人にだけ良い思いなんてさせねぇぞ、新八!ちゃっかり、じじいまで生き抜いた挙句、マスターも?そうはさせるか!!」
怒り心頭に尋ねる永倉に斎藤が怒鳴った。その隣で原田も永倉を怒鳴って非難する。その様は癇癪を起こした子供のようだ。
理不尽にも自分を詰める二人に永倉のただでさえ短い堪忍袋の緒は切れた。
「お前ら二人が喧嘩し始めたから、俺が送ろうとしただけじゃねぇか!」
「嘘つけ、新八!俺の目は誤魔化せねぇぞ!!夏の時も小麦色の肌でアロハを着たマスターちゃんをいやらしい目で見ていたのは分かってんだからな!そんなお前にマスターちゃんを任せて堪るか!!」
「は?小麦色の肌のマスター?そんなマスター、俺、知らないんすけど?てか、それを知っているって事はあんたも近くにいたな、斎藤さん?!そこまで断言するって事は、あんたもそう言う目でマスターを見てるって事だよなぁ?!そんな奴にマスターを任せられるか!」
「というか、お前は夏の間、因習村とかいう変な場所から、ずっとマスターと一緒にいたらしいじゃねぇか、斎藤!しかも、渚のへらへら男?とかいう薄着な霊衣を着て!!そんなお前にだけは言われたくない!」
「は?夏の間、ずっと小麦色の肌のマスターと一緒にいた?しかも、渚のへらへら男とやらの薄着の霊衣を着て?あんたも大概じゃねぇかよ、斎藤さん!そんなあんたにマスターは任せられない!!俺が運ぶ!」
斎藤と永倉の言葉を聞いた原田は何度も真顔になりながら、怒鳴った。
何だ、それは?自分はそんなマスター、知らない。というか、自分も見たいんだが?自分も小麦色の肌のマスターを見たいんだが?そして、一緒に行動したいんだが?
マスターへの激重感情を隠す事なく、真顔で原田は呟き、怒鳴る。その鋭い漆黒の瞳は光がない上に何処までも本気だから、また怖い。そして、こうも思った。
やっぱり、こいつらもマスターを狙っていやがった!他の奴等もだが、こいつらにもマスターは渡さねぇ!!
マスターは俺と一緒に死ぬんだから!絶対に誰にも渡さねぇぞ!!
原田は心の中でそう叫んだのだった。
「俺はマスターちゃんのグランドセイバーだから、当たり前だろうが!」
「マスターと死に損なって死に損なって、最後の最後に一緒に死ぬって約束した俺がマスターを運ぶべきだろう!」
「こいつら、開き直りやがって…!」
だが、それに怯む斎藤と永倉ではなかった。むしろ、斎藤はカルデアのセイバーのグランドであるのを全面に出して二人を威嚇する。原田に至っては酒に酔っているからか、普段は隠しているマスターの激重感情を全面に出してきた。そんな二人に、ただでさえ短気な永倉は更に怒りが増し、二人に襲いかかる。流石はバーサーカーである。
それを合図に三人は殴り合いの喧嘩をし始めた。
山南は突然始まった三人のマスター争奪戦に呆然とするしかなかった。
何というか、不毛。確かに新撰組の隊士は誰も彼もが荒くれ者で殴り合いの喧嘩は日常茶飯事で、だからこそ局中法度で禁止していた位だから、喧嘩自体は珍しくない。珍しいのは喧嘩の理由だ。色恋沙汰、しかも男のマスターを取り合っての喧嘩は流石に無かった…と思う。確か無かった…と思いたい。
茫然自失の山南は遠い目をしながら、喧嘩する三人を見るしか出来なかった。酔いも再会の高揚もすっかり冷めてしまった。
そんな山南を脇目に藤堂がマスターに近づいた。マスターの傍まで来ると座り込み、地面に横たわる彼の体を優しく揺らす。
「マスター、マスター。大丈夫ですか?」
「ん…とーどーくん…?」
「赤い弓兵さん?から、水が入ったコップを貰ってきました。飲めます?」
「のめる…ありがと…」
藤堂の問いにマスターがぼんやりしながらも返事をする。マスターの返事を聞いた藤堂は彼の上半身を器用にも起こすと腕で支え、水の入ったコップを近づけた。そっとコップを傾けてマスターに水を飲ませる。薄く口を開いて、こくこく喉を鳴らしながら、水を飲んでいく。
「水、おいしい…」
水を飲みきったマスターはほっと安堵の息を吐きながら、呟いた。今の今まで自覚はなかったが、いつの間にか喉が乾いていたのだ。水を飲んだ事で乾きが潤われて安心したのである。ほう、と息を吐くと、目元を緩ませて笑みを浮かべた。
自分の腕の中で安心し切り、笑顔を浮かべるマスターを見た藤堂の目元も口元も緩む。自分を必要としてくれるマスターが自分の腕の中で安堵してくれたのが嬉しかったのだ。しかも、堪らなく可愛い笑顔で。
藤堂は自分の胸が満たされていくのを感じた。
「あの馬鹿三人は放っておいて。僕が貴方を部屋に運びますよ、マスター。小柄な体ではありますが、僕だって新撰組でサーヴァント。貴方を運ぶくらい、造作もないです」
「ん…おねがいね、とーどーくん…来たばっかなのに、ごめん…」
優しく藤堂が言うとマスターは眉尻を下げて申し訳なさそうに返す。体調が悪いのに自分を気遣う優しいマスターに藤堂は更に嬉しさと幸せ、そしてときめきを感じた。
僕を必要としてくれるマスターが、こんなにも僕に優しくて可愛い。
「謝らないで下さい、マスター。それに僕は、マスターに頼られるの、とても嬉しいですよ」
「ありがと…じゃ、よろしく…」
「はい、任せて下さい。新撰組八番隊隊長は伊達じゃないです」
藤堂が優しく言うとマスターは礼を言った。そんなマスターに藤堂はそう言うと、彼の体を抱え上げようとして、
『させるかぁっ!』
「おぶぁっ!」
見事に邪魔された。先程まで喧嘩していた三人が藤堂の体にタックルするように突撃してきたからだ。体格の良い大の男が三人、それも荒くれ者の新撰組三人が体当たりしてきたのだ。当然、鍛えているとはいえ、比較的体重が軽くて小柄な藤堂が耐えられる訳がない。
しかし、それでもマスターには怪我させないように彼を上手く避けて受け身をとったのだから、流石である。本人が言う通り、新撰組八番隊隊長は伊達ではない。ゆらりと立ち上がった藤堂は三人に向き合って睨みつけた。
「何をするんだ、お前ら!マスターが怪我をしたら、どうする?!」
「お前だけに良い目は見せねぇぞ、平助!マスターちゃんを運ぶのは、俺!!マスターちゃんのグランドセイバーの俺なの!」
「そもそも、お前みたいな小柄なやつがマスターを運ぶのがおかしい!ここは体格がしっかりした俺が運ぶべきだろうが!!」
「というか、しれっとマスターに近づいて手を出すんじゃねぇよ!俺達が取り合っているっていうのに!!ふざけんな!」
藤堂の怒鳴り声に三人も彼に怒鳴り返す。大人気なく怒り、怒鳴ってくる三人に藤堂は更に怒鳴った。
「馬鹿な事を言うな!お前らみたいに酔っ払って暴れる奴にマスターを任せられる訳がないだろう?!それに、体格が良いお前らだから、任せられないんだ!!その体格差で迫られたら、マスターも逃げ難い!今は体調不良だから、尚更だ!!それなのに、そんなお前らにマスターを任せる方がおかしい!」
「くそっ!平助の癖に良い所を突いてきやがる!!」
藤堂の言葉を聞いた永倉は思わず舌打ちした。彼が言っている事は結構正論であったからだ。それを見た藤堂はこのまま押せると思ったのか、微かに口元に笑みを浮かべながら更に言う。
「小柄な体格の僕なら、マスターだって安心だろう?何せ、僕は身長が百五十五な上に体重は四十七キロと軽い。筋肉だってお前らほど、しっかりしていない。なら、あまり鍛えていないマスターだって安心だろう。何せ、マスターの方が身長も体重、それも筋肉によるものがあるんだからな!」
「ちっ…!それに関しては反論できねぇ…っ!!」
流石の原田もこれにはそう簡単に反論できないようで、盛大に舌打ちした。特に彼は今いる新撰組の中でも体格が良いから、反論し難い。そんな原田に藤堂は自身の勝ちを確信した。
しかし、忘れてはならない。ここにはもう一人いて、その人は何だかんだ生き残った上に長く生き抜いた人物だという事を!
「だからこそ、お前は危険なんだ…」
「何?」
ゆらりと立ちながら、呟くように言う斎藤に藤堂は少し気圧されながら、首を傾げる。何だか自分の前で立ち塞がるように立つ斎藤から異様な圧を感じたからだ。
そんな藤堂に斎藤は細い目をかっと見開くと言い放つ。
「残念ながら、俺は知っているんだよ、平助…世の中には、お前のような小柄可愛い攻めのBLものがあるっていう事を…!」
「は?」
「こ、小柄可愛い攻めのびーえる…?」
「何だ、それは?」
斎藤の思わぬ言葉に対峙していた藤堂は驚きのあまりぽかんとしたし、原田も永倉も首を傾げた。そんな三人に斎藤は言う。
「刑部姫ちゃんが俺に見せてくれたんだよ…世の中には自分が小柄で可愛いのを活かして相手の少年や青年、果ては中年男性を女にする奴の恋愛物語を…!今のお前の言動は正に、その恋愛物で出てきた奴の言動そのものだ!!そんな奴にマスターちゃんを任せられるか!」
「なっ…!そんなものが…?!」
「くっ…!まさか、そんなものがあるなんて…!!」
斎藤の言葉に永倉は驚きのあまり、目を見開いた。藤堂も驚きのあまり、瞳孔が赤い青い瞳を見開く。その様子を見た原田は一言。
「否定しないって事は…当たりか、平助?」
その一言を聞いた藤堂は視線を逸らして黙り込んだ。それを見た三人は激昂した。
彼がそれをする時は自身にとって都合が悪い流れの時で、更に悪化するのを防ぐ為である。それを知っている三人は原田の指摘が合っていたと分かったので激怒したのだ。
三人は思い思いに口を開いて、藤堂に怒鳴りながら、詰め寄る。
「可愛い顔してゲスイ事考えてんじゃねぇよ、平助!流石は八番隊隊長の魁先生ってか?そんな奴にマスターちゃんは任せられない!!」
「お前にだって任せられるか、斎藤!俺は知っているんだぞ?!バレンタインの時に深夜にマスターと二人でラーメンを食べ、その時に二人で逃げようとマスターを誘ったらしいじゃねぇか!!ま、マスターは断ったから、まだここにいるんだがな!」
「は?二人で逃げる?人類最後のマスターと?それは流石にマズイだろ、斎藤さん!というか、あんたも大概な事をマスターにしてんじゃねぇか!!そんなあんたにマスターは任せられない!やっぱり俺が運ぶ!!」
「原田さんは原田さんでマスターとの絆値とやらが5になった時にマスターに死ぬ時は一緒みたいな事を言ったらしいじゃないか!そんな事をマスターに言うあんたの方が遥かに危ないだろ!!」
「それは俺なりにマスターと信頼関係築けて仲良くなったから、信頼の証と決意表明として言ったんだよ!それだけなんだ!!」
「信頼や決意表明でんなクソ重なもんを出すなよ、原田!斎藤じゃあるまいし!!」
「どういう意味だ、新八!しかも、お前はお前でバレンタインの時にやらかしているじゃねぇか!!チョコ貰った時はジジイだったのに、お返しの時は若い姿の霊基になって、マスターちゃんと映画デート?てめぇは色気づいた思春期のガキか、新八!中身はジジイの癖に!!そんなお前らにマスターちゃんは任せられない!ここはやっぱりグランドセイバーの俺の出番だろう!!マスターちゃんのグランドセイバーの!俺の!!出番!」
「貴方は貴方で、いつまでそのネタを引っ張るんですか、斎藤さん!いい加減にして下さい!!」
「事実だから、言ってんだよ!何が悪い!!」
「こいつ…!開き直りやがって…!!」
お互いにお互いを怒鳴りながら、四人は喧嘩をし出した。容赦なくお互いにお互いを殴り合う。足だって出ている。最早乱戦だ。
そんな四人を見た山南は思った。
これは下手に止めた方がまずい。マスターもいますから、何とか上手く止めようと思っていましたが…このまま、発散させたほうが良さそうですね。
そう考えた山南は四人から離れ、さり気なくマスターに近づいた。いつの間にか、マスターは簡易ベッドの上で、すよすよと眠っている。その体には、寒くないようにタオルケットがかけられていた。
多分、藤堂が水を受け取りに行った際に察した赤い弓兵…エミヤが来て、介抱をしてくれたのだろう。マスターを部屋に運ばなかったのは、四人がそれに気付き、更に暴れるのを防ぐ為だろうか?
悪いが、自分もそうする事にした。
あの四人を相手に戦うのは山南では分が悪過ぎる。沖田や土方はいつもの事と我関せずと酒を飲んでいるし、近藤は頼めば手伝ってくれるだろうが、彼は今回の宴の主役の一人。そんな彼に喧嘩を止める助力を求めるのは気が引けた。
「喧嘩している全員が酔っているとはいえ、これは無いですしね」
そう呟いた山南は原田に酌をしようとしていた酒を持ち直して沖田や土方、そして近藤の元に移動した。そんな山南を見て、沖田が苦笑しながら、お疲れ様ですと声をかける。そして、一言。
「明日になったら、セイバーのグランドは沖田さんにするようにマスターに進言しますか」
「お前はお前でちゃっかりしてんなぁ、沖田」
「ちゃっかり、バーサーカーのグランドになった人が何を言っているんです?」
「そうか、バーサーカーのグランドとやらは歳
なのか。新撰組として誇らしい事だ。私も負けていられないね」
さり気なく斎藤からグランドを取ろうとする沖田に土方はそう言いながら杯に入った酒を煽った。そんな土方をじと目で見る沖田。そして、そんな二人を見て穏やかに笑う近藤。
そんな近藤に山南は酌をすると言った。
「そう言えば、皆さんは混ざらなかったですね?」
「山南さん、それ、本気で言っています?あんな不毛な争いに混ざるほうが馬鹿ですよ」
「あの中に混ざらなくても、あいつが新撰組なのに変わりはない」
「私も行くのは、彼が困ってしまうだろうからね。今回はやめたよ」
山南の問いに沖田は呆れ返りながら答え、土方は何を今更と言わんばかりに答え、近藤は苦笑しながら答えた。そんな三人の答えを聞いた山南は胸の内で呟く。
土方君、それはもしや、彼は新撰組だから、いざとなれば、どうとでも出来ると考えて言ってます?という事は狙ってはいるんですね。
近藤さんも狙っていますね。今回は、と言いましたから。彼に迫る人が少なかったら、近藤さんも彼に迫っていたのでしょうか?
まともな回答は沖田くんだけ。となると、沖田以外の新撰組サーヴァントは彼を狙っているという事になる。
…マスターも大変ですね。
そこまで気付いてしまった山南は思考を放棄する事にした。変に薮をつついて、蛇を出したくなかったのだ。
そんな山南の気持ちを察したのか、沖田が山南のお猪口に酒を注ぐ。山南は笑みを浮かべながら礼を言うと酒を飲んだ。
新撰組隊長四人による争いは、まだまだ終わらなそうである。一人、「ぐはぁ…っ!」という悲鳴と共に口から血を吐きながら宙を舞ったが、まだまだ他の三人は殴り合いの喧嘩をしている。
そんな新撰組メンバーを尻目にマスターはすぴすぴと気持ち良さそうに簡易ベッドで眠り続けるのであった。
- 1 -
*前次#
ページ: