モクバ「兄様の寝室が騒がしい」
 それを聞いた遊戯は顔を真っ赤にして辺りをキョロキョロと見回し、誰も聞いていないのを確認してからモクバの肩を掴んだ。

「だ、……ダメだよ! モクバ君にはまだ早いよ!」
「えぇ…なにがだよ!」
 モクバは体をガクガク揺さぶってくる遊戯の腕を振り解くと、一体何かマズい事でもあるのかと顔をしかめる。

「お、遊戯にモクバじゃねぇか! なにしてんだ? こんなところで」
 遊戯がビクッと跳ねると、重い体を引き摺るように振り向く。そこには城之内と本田が立っていた。
「じょ、城之内君、本田君……」
 なんで来たの。遊戯にそこまでは言えなかった。強張った表情の遊戯にどこか不貞腐れた顔のモクバ。その不思議な組み合わせに城之内と本田は顔を見合わせる。

「オイ、どうかしたのか?」
「なんでもないよ!!!」
「遊戯、お前さっきからおかしいぜ。」
 本田の問いかけに全力で否定する遊戯、そしてそれを訝しげるモクバ。人の弱点に鼻が効く城之内は、「ははーん」と笑って遊戯からモクバを離すと、蹲み込んでモクバに肩を組んだ。

「なあモクバ。遊戯に何て言ったんだ? 教えろよ」

「わー!だめー!」
 そう騒ぐ遊戯を本田が引き留めるので、モクバは少し悩んだあと口を割った。

「それがさ、兄様がなまえと一緒に寝るようになってから夜中うるさくて眠れないんだ。」

 瞬間、城之内と本田も固まった。「部屋は少し離れてるんだけど……」なんて続けるモクバの声も入ってはこない。
 城之内は一旦タイムを宣言してモクバから離れると、本田と遊戯で審議に入った。

「なあ、アレって、つまり……アレだよな。」
「だからダメって言ったじゃないか!」
「いや〜…海馬も男だったんだな。」
「関心してる場合かよ、本田! ……なぁ、もうちょっと詳しく聞いてみねぇか?」
「城之内君!!!!」
「多数決だ。オレは城之内に賛成だぜ。」
「なまえには悪りぃがよぉ、海馬の弱点を掴むチャンスだぜ!」
「2人ともやめなよ! プライバシーの問題だよ!」

 遊戯が引き留めるのも聞かず城之内と本田はさっさとモクバを囲み込み、興味津々といった顔で詰め寄った。

「なぁモクバ。もうちょっと詳しく教えてくんねーかな?」
「そうそう。もしかしたら海馬となまえが喧嘩してるかもしれねぇからな。オレたちが聞いてアドバイスしてやるよ。」

 あきらかに違う目的がある顔をしているが、モクバに大人の…いや男女事情などまだ分からない。モクバは夜のことを思い出しながら素直に答えた。

「えーと、オレも最初はケンカしてるかと思ったんだけど、…あ、一回夜中に途中で出て来た事があって、2人とも汗かいて息切れしてたんだ。運動してたみたいに。」

「お、おう」

「2人とも声が大きい時もあるけど、なまえはたまに泣いてる時とか、あと驚いたときみたいな声が聞こえて……」

「ねぇもうやめようよ」
「シッ!今いいとこだろ!」

「その次の朝は必ず部屋中散らかってるんだ。最初は兄様がなまえを虐めてるんじゃないかって思ったりもしたけど、あの兄様までボロボロの時があって」

「激しいな」
「ねぇ3人とももうヤバイって」

「兄様となまえに直接聞いちゃいけない雰囲気があるから、オレ、磯野に話したんだ。」

「えっ」

「そしたら磯野のやつ……オレの寝室を兄様の寝室から一番遠い部屋に移しやがって」

「妥当な判断だと思うよ」

「兄様もなまえもそれをちっとも咎めないんだぜ? もしかして……兄様はなまえが居れば、オレなんてもういらないのかなって」

「そんな事絶対ないよ!」
「そうだぜ! あの海馬がたった1人の弟をいらないなんて言うかよ!」
「おう!」

「……なあ、なんで3人ともそんな蹲み込んでんだ?」

 モクバの悩みも何処へやら、急に冷静な目で城之内たちを見下ろす。3人は赤い顔で笑って誤魔化すが、今は立てそうにない。
 思わず同級生の事情を知ってしまい、これから当事者である海馬となまえにどんな顔で会うべきか其々に思惑していた。


***


「なまえ、今夜……いいか。」
「ん……ッ もぅ、毎晩毎晩……瀬人ったら。いい加減疲れてるんだけど。」

 毎晩毎晩行われる夜の事情。海馬が帰ってきて一緒に寝てくれるのはいいけれど、有限の睡眠時間なんて知った事じゃないとばかりに、なまえはセクシーなランジェリーを纏った夜のデュエルを求められた。

「……じゃあ1時までには寝るからね。」

本当にデュエルディスクとカードを使ったデュエルを。


「「デュエル!」」

「オレの先行! ブラッド・ヴォルスを攻撃表示で召喚!」
“ブラッド・ヴォルス”(攻/1900 守/1200)
「さらにカードを1枚伏せてターンエンド!」

「私のターンドロー! 魔導書士バテルを攻撃表示で召喚! バテルの効果でデッキから魔導書と名のつく魔法カードを手札に加える!」
“魔導書士バテル”(攻/500 守/400)
「カードを2枚伏せてターンエンド!」

「フン! 攻撃力500のザコを攻撃表示だと。オレのターンドロー!
  ロード・オブ・ドラゴンを攻撃表示で召喚!さらに“ドラゴンを呼ぶ笛”! オレは手札からブルーアイズ・ホワイトドラゴンを特殊召喚!」
“ロード・オブ・ドラゴン”(攻/1200 守/1100)
青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン”(攻/3000 守/2500)

トラップ発動! “黒魔族復活の棺”!
  魔導書士バテルと瀬人のブルーアイズを生け贄に捧げ、デッキから“ブラック・マジシャン”を特殊召喚する!」

「させるか! 罠カード“誘導アーマー”!破壊の対象を“ブラッド・ヴォルス”に変更する!
  フハハ!これでブルーアイズはフィールドに残ったぞ!」

「チィ!」

「ブルーアイズよ! ブラック・マジシャンを粉砕しろ! 滅びのバァースト・ストリィーム!!!」

「くぅッ!」
なまえ LP:3500

「フン、まだオレのバトルフェイズは終わってないぞ! ロード・オブ・ドラゴンでなまえをダイレクト・アタック!」

「んあああッ!」
なまえ LP:2300

「フン、この程度か! このオレの女なら、オレを倒せるくらいの気概を見せてみろ!」

「ふ、ふふふ……舐められたものだわ!!!
  私のターンドロー! “魔導召喚士テンペル”を召喚!」
“魔導召喚士テンペル”(攻/1000 守/1000)
「さらに魔法カード“ネクロの魔導書”を発動! 墓地の魔導書士バテルを除外し、ネクロの魔導書を装備させブラック・マジシャンを復活させる!
  このとき除外した魔法使い族の攻撃力分をブラック・マジシャンの攻撃力に加える!」
“ブラック・マジシャン”(攻/3000 守/2100)
「そしてテンペルの特殊効果発動! 魔導書を使ったターンにテンペルを生け贄に捧げる事で、デッキからレベル5以上の魔法使い族を特殊召喚できる!
  私はデッキから“魔導法士ジュノン”を特殊召喚!」
“魔導法士ジュノン”(攻/2500 守/2100)

「フン、そんな魔術士を何体揃えたところでオレのブルーアイズの敵ではない!」

「ジュノンの特殊効果発動!墓地の魔導書のカードを1枚除外することで、フィールド上のカードを1枚破壊する!
  私はロード・オブ・ドラゴンを破壊!」

「く!」

「さらに魔法カード“ヒュグロの魔導書”! このターンのバトルフェイズ、ジュノンの攻撃力は1000ポイントアップする!」
“魔導法士ジュノン”(攻/3500 守/2100)
「魔導法士ジュノンでブルーアイズを攻撃!」

「ぐッ! 貴様!」
海馬 LP:3500

「フン、お返しよ。倍にしてね!!!
  ブラック・マジシャンで瀬人にダイレクト・アタック!」

「ぐあッ! く! 魔術士風情が!」
海馬 LP:500

「ヒュグロの魔導書の効果でモンスターを破壊したターンのエンドフェイズ、私はデッキから魔導書のカードを1枚手札に加える。
  さぁ!ターンエンドよ!」

「オレのターン!ドロー!
  まずサイクロンで“ネクロの魔導書”を破壊! これにより、効果で復活していたブラック・マジシャンも墓地へ送られる!」

「ブラック・マジシャン!」

「さらに“強欲な壺”! デッキからカードを2枚ドロー!
  ……フン、フハハ!!! やはりこのオレこそが選ばれしデュエリストなのだ!
  魔法カード“コストダウン”!手札のモンスターカードのレベルを2下げることで、生け贄の数を減らす!」

「バカ言わないで。あなたのフィールドに生け贄なん、……! まさか!」

「フン、これで終わりだ! 魔法カード“クロス・サクリファイス”!
  貴様の魔導法士ジュノンを生け贄に、オレは手札からブルーアイズを召喚する!」

「リバースカードオープン!」
「なに?!」

「速攻魔法“トーラの魔導書”! このターンジュノンはいかなる魔法効果も受け付けない!
  さあ形勢はさらに悪くなったわよ、瀬人!」

「ぐう……!」

「手札ゼロで私に勝てるほど甘くはない!
  私のターン!魔導法士ジュノンで瀬人にダイレクト・アタック!!!」

「ぐあアアア!!!」
海馬 LP:0



「ハァ、ハァ、ハァ……」
「ハァ、……はぁ、はぁ、これで245戦、122勝122敗1分けよ…」

「……」
「…………」


「「デュエル!!!」」


***


「あら、遊戯! モクバ君!」
「フン、凡骨も一緒か。」
 遊戯がビクッと跳ねると、重い体を引き摺るように振り向く。そこには海馬となまえが立っていた。
「か、海馬君、なまえ……」
 なんでこうタイミングがいいの。遊戯にそこまでは言えなかった。真っ赤な顔を強張らせる遊戯と城之内と本田、そしてどこか不貞腐れた顔のモクバ。その不思議な組み合わせに海馬となまえは顔を見合わせる。

「モクバ、なにがあった。」
「なんでもないよ!!!」
「遊戯、貴様には聞いてないぞ。」
 海馬の問いかけに全力で否定する遊戯、そしてそれを訝しげるモクバ。いじめられてるような雰囲気になまえはモクバを城之内達から離すと、腰を屈めてモクバの顔を覗き込んだ。

「ねぇモクバくん。城之内たちに何かされたの? 言ってごらん。」

「わー!モクバくんダメ!」
 そう騒ぐ遊戯をなまえの目が黙らせる。モクバは少し悩んだあと口を割った。

「……兄様がなまえと一緒に寝るようになってから夜中うるさくて眠れないんだ。」

 瞬間、海馬となまえも固まった。城之内と本田はもう遊戯を置いて逃げ出している。

「2人ともいつも寝不足だし、兄様はなまえが来てからオレのことなんて……」
「! ち、違うぞモクバ」
 焦る海馬に遊戯の疑惑の色はさらに濃くなった。なまえも「アチャー」みたいな顔して頭を抱えている。

「なまえとは、……その、毎晩デュエルをしているんだ。」
「毎晩デュエル(意味深)を……?!」
 何故かショックを受ける遊戯に海馬は「邪魔をするな」と言いたげな目を向ける。

「なまえとのデュエルは常に全力で挑まねばならん。」
「なまえ……激しいんだね……その、……デュエルが。」
「遊戯?」
 流石になまえも眉を蹙めて遊戯を見た。

「なまえとの時間はつい時間を忘れる。確かにこの1ヶ月、ほとんど朝までデュエルを繰り広げてしまった。」
「1ヶ月、朝までデュエルを……?!」
「え? ねぇ遊戯しっかりして?」

「だがモクバを疎んじているわけではない。……オレになまえもモクバも選ぶことはできない。オレたちはたった2人の肉親だが、オレはなまえの事も家族だと思っている。なまえは誇り高きデュエリストである以前に、オレの婚約者だからな。」
「兄様……」
「瀬人……」

「よしモクバ、次はモクバもなまえとデュエルしてみるか?」
「それは絶対にダメだよ!!!」
「さっきからうるさいぞ遊戯!!!」


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