「さあ、城之内君のターンだよ」
 休み時間のチャイムが響き、サッと賑やかになる校内。くすんだ赤い色の、背中程ある髪を揺らしながら、賑やかな廊下を歩く少女がいた。

 いつもの学校生活。
 友達とお喋りして、勉強は好きではないけれど、とりあえず並み程度には頭に入れて、またお友達と話して。
 狭い狭い世界。回りから見たらとても退屈な世界。だけど、学校という社会しか経験した事の無い私たちにとって、ここは全ての世界だった。

「よーし、じゃあ俺はこのカードで勝負だ!」

 隣のクラスの前を通りかかったとき、そんな声が聞こえた。開けっ放しの扉から中をのぞくと、窓際の席に小さな人だかりが出来ている。
「僕のターンだね。じゃあ僕は、このカードで攻撃!」
 おおおっと驚きの声。どうやら相手の金髪の男子は負けたらしい。何やら悔しそうな声が廊下まで響いていた。
「城之内弱すぎー!」
 回りからはやし立てられている。

 ふと、その人だかりの手前の席の、茶髪の男子がこちらを見た。
 目が合う。

「……」
「……(青い目、……)」

 少し見つめ合う。なんだか目を反らすタイミングを逃したようだ。少し恥ずかしくなり、一瞬視線を落とした。もう一度ちらりと彼を見ると、顔は手に持った本に向けていたが、視線だけはその人だかりに向けているらしい。

「(あの人……どこかで会ったような)」
 脳裏に青い服の男が霞む。

 学校以外の世界を知らない私の胸に、覚えてもいない記憶の破片が刺さった。

***

 ベッドの上で思い返すのは今日のこと。
 カード勝負…… おそらくデュエルモンスターズで遊んでいたのだろう。

「……やっぱりみんなやってる物なのね」
 なまえはおもむろにベッドサイドのテーブルからカードの束を手に取る。パラパラッと手の中で広げると、青い服に青い肌、杖を持って腕を組み、こちらに微笑みかける姿の愛おしい魔術師のカードを見つめる。

「ね。ブラック・マジシャン。」

 ブラック・マジシャンのカードを抜いて手に取ると、そのままキスを落とす。

 ほんのかすかな金属音がした。反応して視線を向ける。ベッドサイドのテーブルの上、金色に輝く天秤が、何も乗っていないにもかかわらずほんのわずかに傾く。
 天秤の中央のヴジャド眼が、目を光らせるようにベッドの上のなまえを見ていた。手の中のブラック・マジシャンのカードをその少し浮いた側の秤杯に乗せると、一気にブラック・マジシャンの方へ傾きバランスを崩して千年秤はテーブルから落ちる。

 なまえは一緒に落ちたブラック・マジシャンのカードを拾い上げると、彼に少し微笑んでデッキの中に戻した。

***

 ゲームの歴史───
 それははるか五千年の昔、古代エジプトにまで遡ると云う。
 古代に置けるゲームは、人間や王の未来を予言し、運命を決める 魔術的な儀式であった。───それらは、闇のゲームと呼ばれた。

 今、千年パズルを解き 闇のゲームを受け継いだ少年がいた。

 光と闇
 ふたつの心を持つ少年。───人は彼を、
遊戯王と呼ぶ。



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