『みなさん大変お待たせしました、これよりトーナメント決勝戦を行います!』

 デュエルモンスターズの大会の決勝戦のテレビ中継を遊戯、城之内、杏、本田の4人が囲んで眺めていた。
「あぁー、本当なら俺があそこに立っていたってのによぉ」
「でもベスト8に入れたじゃない。初心者なのにすごいわよ。」
「町内でだったけどなー」
 城之内は悔しそうにテレビの向こうで行われる決勝戦を眺めていた。

『赤コーナー、東日本代表 インセクター・羽蛾選手!』

「お、はじまったはじまった」
 本田がジュースのストローを加えたままテレビを覗き込む。

『対しまして青コーナー、大会連続優勝記録更新中! その顔も名前も謎に包まれたデュエリストの女王! マジシャンズ・クイーン!』

「なんだぁ? 仮面なんか付けて。」
「このひとはクイーンの名前だけで今まで大会に出ているから謎に包まれているんだ。あの海馬君も倒した事があるから、本当に強い」

 白い仮面で顔を隠し、赤い髪を振り払う彼女の姿に盛大な歓声がスタジオ中から巻き起こっる。

「……あ!」
「どうした遊戯」
「(もう1人の僕!、この人の腰のベルトのうしろ!!!)」
 クイーンはスカートの上にベルトを巻き、デッキケースを付けていた。そしてその後ろに、金色に光るなにか───……

「((あれは、千年アイテム!!!))」

 遊戯と、闇の遊戯は確かに、彼女の腰のベルトに挿してある千年秤を見た。
 なんでこのひとが─── まさか人格も闇の人格なのか?

 一方城之内が悔しがって騒ぎ、本田がへぇ〜とまじまじとみているうちに、デュエルは開始された。

「ねぇ遊戯、どっちが勝つと思う?」
「え、あ…… どうかな。クイーンはデュエルモンスターズの発売元でふるインダストリアル・イリュージョン社が公式認定した女王だから…… 今まで彼女に勝ったひとなんて、1人もいないんだ」

 羽蛾がモンスターでなまえの裏守備モンスターを攻撃する。
『モンスターオープン。王立魔法図書館。残念ね』
 攻撃力1200に対し、なまえの守備モンスターの守備力は2000。羽蛾は一気に800のライフを削られる。
『私のターン、ドロー。THE・トリッキーの効果で手札を一枚捨てる事で特殊召喚。さらに暗躍のドルイド・リュースを通常召喚。さらにドルイド・リュースの効果は、墓地に眠る闇属性レベル4の、攻撃力か守備力が0のモンスターを特殊召喚できる。私はトリッキーのコストで捨てた暗躍のドルイド・ヴィドを守備表示で召喚』

「すげぇ!ワンターンでモンスターを3体も召喚しやがった!」
「いや、他にもまだ何かある!」

『ドルイド・リュースの攻撃宣言をするわ。そしてリバースカードオープン!
  トラップカード《マジシャンズ・サークル》!
  お互い攻撃力2000以下の魔法使い族を召喚できるわ。虫には関係なかったかしら、ごめんなさいね』

 クイーンはデッキから、魔導召喚士テンペルを召喚する。しかし羽蛾が半分のライフをコストにトラップカード神の宣告を出す。
『速攻魔法トーラの魔導書発動。トラップの効果を受け付けず、破壊する』
 羽蛾はコストで無駄にライフを削ってしまった。
『そしてテンペルの効果発動。魔導書のカードを使用したターン、テンペルをリリースする事でデッキからレベル5以上の魔法使い族モンスターを特殊召喚できる』

 会場が驚愕の声まじりの歓声に包まれる。テンペルを生け贄に、ピンクの髪に真っ白な衣装の最上級モンスターが姿を現す。

『魔導法士ジュノン、特殊召喚!』

 城之内どころか、全員があっけにとられていた。たったワンターンでクイーンのモンスターゾーンは最大の5体が並ぶ。一部の無駄も無いカードタクティクス。羽蛾の焦りも画面越しにひしひしと伝わってくる。
 通常召喚されたドルイド・リュースの攻撃で、羽蛾のモンスターは破壊され、壁が居なくなった。

『ルール上、ダイレクト・アタックは禁じられている。命拾いしたわね。カードを一枚伏せてターンエンドよ』
羽蛾はドローでミラーフォースを引き当て、それを伏せると、モンスターを召喚した。
『ひゃひゃひゃ、まだ僕とのバトル、わかりませんよ〜? 女王様』
『私のターン、ドロー。……残念だけど、私手を抜いたデュエルはしない主義なの』
『ひょ?』

『魔導法士ジュノンの効果発動。墓地にある魔導書の魔法カードを除外する事で、伏せカードを破壊する。私はトーラの魔導書を除外』
 羽蛾のミラーフォースがオープンされ、効果の発動も出来ず破壊される。
『ぼっ、僕のトラップが! ……でっ、でも僕のモンスターは、攻撃に反応して次々と増殖する効果が……』
『攻撃しなければいいんでしょ? リバースカードオープン、速攻魔法、ディメンションマジック』

 自分フィールド上の魔法使い族モンスター1体をリリースし、相手フィールド上のモンスターを破壊。さらにデッキからレベル5以上の魔法使い族を通常召喚扱いで召喚する。
『私は王立魔法図書館をリリース』

 4人の目がテレビに釘付けにされた。羽蛾のフィールドのモンスターは破壊され、開場の歓声に包まれて、青い服をなびかせるモンスターが現れる。

「このモンスターは!!!」

『我が最強の僕! ブラック・マジシャン召喚!!!』

 羽蛾の目の前を、トリッキー、ドルイド・リュース、ジュノン、そしてブラック・マジシャンが迫り囲む。その目は強く光り、手札を落として震える羽蛾を映す。

 羽蛾は降参を申し出るなり、その場に膝をついて項垂れた。

***

 完成と熱狂に包まれ、クイーンは優勝した。テレビ越しに観戦していた4人も押し黙ってみていた。

「な、なんだこの女……一方的じゃねーか。」
 本田が沈黙を破る。
 「うん……でも、デュエルのペースを完全に掌握していたから……」
「ん でもよォ、もうちょっと女の子らしくっつーか、可愛げがねぇっつーか」
 城之内がフンッと腕を組んでそっぽを向くと、杏と目が合った。
「あ、ここにも」バキッ☆
 杏がその口を止める。

***

『では、優勝したマジシャンズ・クイーンに優勝トロフィーと賞金が授与されます。
  プレゼンターは、本日のメインゲスト、インダストリアルイリュージョン社から、名誉会長であり、このデュエルモンスターズの生みの親でもある、天才ゲームデザイナー ペガサス・J・クロフォード会長です!』

 デュエルフィールドの一角が開き、ペガサスがエレベータ式スタンドに乗って姿を現す。

『コングラッチレーション、マジシャンズ・クイーン。ぜひ、あなたの素顔、見せていただきたいデース』
 会場がペガサスの発言に沸いた。
「……私も、ぜひあなたの千年眼を拝ませていただきたいわ。」
 マイクに入らない程の声でぼそりとペガサスに言うと、ペガサスは少し驚いた顔をするが、すぐに彼女の背中に隠された物を見抜いた。
 クイーンは仮面に手をやると、ゆっくりと外す。

 一斉にライトが浴びせられ、赤く光る髪をなびかせながら、紫に輝く真剣な眼。テレビ画面いっぱいに写った顔が、遊戯を驚かせた。

『な、なんとー! クイーンが初の顔出しだー!』

「……お久しぶりデ〜ス、デュエルクイーン。」
「あなたに再会できて、私の魔法使い達も光栄に思っているわ。」

 大きな歓声の中、2人の静かな密談はマイクに拾われず、……そしてクイーンの役目が始まる。

***

「!!!」
「お、おいこの女!」
「このひと!」
 ───学校のクラスの扉の向こうの廊下からほんの少し姿を見せた、赤い髪の女子が全員の脳裏によぎる。

「隣のクラスの女子じゃねぇか! まさか、そんなすげぇヤツが近くに居たなんて!」

 城之内はさらに悔しがり、本田も驚いている。
 杏は、テレビに映るなまえが、どこか遊戯に似ている事に気付いた。鋭い目つきに紫の瞳…… 人格がいつもと違う方の遊戯になんだか似ている……


「マジシャンズ・クイーン、改めてお名前を。」

「なまえ。みょうじなまえよ、ペガサス・J・クロフォード会長。」
 ペガサスが握手を求め、なまえは手を差し出す。

「oh、ペガサスで結構デ〜ス。なまえ、あなたには、今度我が社で開催される大会に、無条件で参加していただきマ〜ス。」

***

 この様子を、海馬瀬人も中継で見ていた。
 テーブルに手をついて立ち上がり、驚いた顔で画面に食らいつくように見入っている。

「───みょうじ、なまえ、だと? この女、昨日教室を覗いていた女ではないか! ……このオレとデュエルで何度も戦っておきながら、同じ学校にいたこのオレを無視していたと言うのか。」

 海馬は握っていた拳をほどくと、フゥンと鼻で笑った。
「……敗者である俺には興味が無いというのか、それとも、次に勝負してオレに倒される事を恐れているのか。
  フッ…… どちらにせよ、このオレを無視するとはいい度胸だ。マジシャンズ・クイーン、いやみょうじなまえ! 覚えたぞ、貴様の名前。遊戯といいこの女といい、我がライバルも常に最強でなければな」

 海馬はジュラルミンケースをあけると、デッキやカードを詰め始める。途中で電話のボタンを押すと、木馬を社長室に呼ぶように言いつけた。



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