「アイツ…どこに行きやがった?!」

 遊戯の勝利を喜び合う中で、ペガサスがデュエルリングから姿を消していることに城之内が気付く。
「おい、探しに行こうぜ!」
 本田の提案に一同は賛成しかけるが、杏子が引き止めた。
「まって、獏良君とモクバ君を置いていくわけには……」

「お〜い! みんな〜!」

 その声に4人が一斉に見上げると、観覧テラスから手を振るバクラが見えた。一見元の無邪気そうな顔と明るい声に安心するが、本田はまだ疑問が残るようで少し訝しむ。
「オメエ!元に戻ったのか?」

「え? なんのこと? 気が付いたらここに倒れてて……」
「本当に何も覚えてねぇのか? 胸にぶら下げてた変なリングに操られてたみたいだったぜ!」

「(千年リング!!)」
「えぇ? そうなの?」
 遊戯は獏良の首に千年リングが下げられていないのの気付くと、振り返って本田を見上げた。

「本田くん! そのリングは?!」
 少し慌てた様子の遊戯に驚きながらも、本田は悪びれる様子もなく言葉を返す。
「え、あ…あぁ、気味悪いから外へ捨てちまった。───そういや、なまえのやつもあの天秤みたいなのに操られかけてたんだ。男たちに銃で撃たれたってのに、一人で海馬を探しに行っちまって」
「えぇ?!! なんでそんな大事なこと黙ってたのよ!!!!」

 遊戯が声を上げる前に、杏子が大声で本田に詰め寄った。
「えっ、! あぁいやぁ……その……」
 モゴモゴと口ごもる本田に、杏子や城之内が遊戯と顔を見合わせて頷いた。

「よし!オレたちはなまえと、それからペガサスの野郎も探しに行こう!」
「ごめん獏良君! モクバ君を見ててくれる?」

「え? いいけど……」
「よし! 早く行こうぜ!」
 城之内を先頭に4人が走り去っていくのを、獏良がテラスから見下ろしていた。彼らが見えなくなったところで、獏良はゆっくりとモクバの方に向き直る。

 獏良の胸から光が溢れると、投げ捨てられたはずの千年リングが身体から浮かび上がり、その首へ、元どおりに下げられた。
「フフ……」

 獏良は取り戻した千年リングが放つ光の一部を切り離すように握って腕を伸ばし、そして開いた。なまえが千年リングを探しに行かせた、彼女に宿る魔導士の欠片……囚われたバテルの姿が獏良を睨みつける。

「千年リングを本田の野郎に投げられた時は流石に焦ったが、まさかこんなチャンスに恵れるとは思わなかったぜ…… コイツはなまえが持つ力の一部。フ…この魔導士を媒体にヤツの心に忍び込んでやるぜ。」


 ───パラサイト・マインド!

 バテルの姿をしていた光が弾けると、砂粒のような光の粒子がどこかへ飛び去っていく。獏良はそれを目で追ったあと、なまえの心の中に自分の心の分身が入り込んだことを感じ取った。


 なまえの心の中の部屋。バクラは「フフ……」と笑ってから、その中に溶け込んで行った。

 ***

「なまえは海馬達の魂の封印カードを狙うはずだ! きっとそこにペガサスもいる!」

 城壁の上のひらけた回廊を走りながら、遊戯は3人に伝える。
「つったってよォ、それがどこなのか、こんな広い城じゃ時間がかかりそうだぜ! 手分けして……」
 城之内が言う中で、杏子は「あ!」と声を漏らして立ち止まる。
「え?」
 遊戯も急に止まった杏子に足を止めて彼女に目をやると、杏子は城の中で一際高い塔を見上げた。

「どうしたの? 杏子」
「ひょっとして…… あそこかも!」
 見上げる杏子に本田も神妙な顔で寄り、並んでその塔を見上げる。
「塔の上にある、ペガサスの秘密の部屋…… でも記憶がハッキリしなくて夢だと思ってた……」
「お前もか……。オレも夢か現実かハッキリしなくて今まで黙ってたけどさ。」

「なんの話し?」
「オレにもちゃんとわかるように説明しろよ!」
 遊戯と城之内の問いかけにも2人は応えず、ただあの夜に見た記憶を辿っていた。

「やっぱりあれは現実だったのよ!行こう!!」
「おう!」

 先に走り出す2人を、遊戯と城之内は慌てて追いかけた。
「お…おい!まだ話は終わってねぇだろうが!」


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