海馬のプライベートコンピュータールームのメインモニターが、デュエリスト・キングダムの開催地である ペガサスのプライベートアイランドを映し出していた。

『解析完了。デュエリスト・キングダム 開催地を特定しました。』

「現在稼働中のデュエルリングは?」

 海馬はコンピュータのコミュニケーションプログラムと会話しながら必要な情報を聞きながら、手元のキーボードを打つ手が止まる事はなかった。
 …殆ど解析されたデータの中から、1つだけパスワードが掛けられたデータに行き着き、苦闘していたのだ。

『数は12。島の全域に点在。』

 海馬は一度手を止めてモニターを見上げた。
「よし、この中から武藤遊戯がデュエルしているフィールドを特定しろ。」

『特定にはインダストリアル・イリュージョン社が振り分けた各デュエリストのランダムシリアルコードが必要です。このメモリーカードから現在解析された中に、そのデータはありません。』
「クソ!」

 海馬はデスクを叩く。
「(ここまでか…?! …いや、このパスワードが掛けられたデータ…。もしかしたらこの中に。)」

「ランダムシリアルでは、例えインダストリアル・イリュージョン社のメインコンピュータをハッキングしてもリストは出て来ないだろう…。このパスワード付きのデータを解析する! 暗号解読ソフトをスタンバイ!」

 画面にブラックマジシャンが守る扉が映し出される。
「セキュリティコードをバーチャルパージしろ!コード解析開始!」

 ***

 なまえと海馬の亡霊のフィールドには、緊迫した雰囲気が張り詰めていた。

「このターンは攻撃しない。その前にお前のモンスターの逃げ場をなくす準備をしておく。」
 海馬の亡霊はカードを一枚伏せると、ターンを終了した。

「(魔法か、トラップか…。)」

 なまえはカードをドローする。

「ジュノンを守備表示にする。…そして.王立魔法図書館を守備表示で召喚。」

 王立魔法図書館
 攻撃力 0/守備力 2000

「そう来ると思った…。」
 海馬の亡霊は薄く笑うと、伏せカードを返した。

「俺の無念を思い知れ。
 トラップカード、守備封印!」

「な!!!」

「マズイ、王立魔法図書館は守備特化型モンスター!攻撃力は0だ!」
「なまえ…!」
 遊戯とモクバが攻撃表示となった王立図書館に視線を注ぐ。
 なまえは手札に手を掛けた。

「…カードを一枚伏せるわ。ターンエンド…。」

「フフフ、クイーンが何の手も打てないとは。」
「…!」

 ギッと睨むが、海馬の亡霊はもう勝利を意識し笑うだけである。

「俺のターン!行け!青眼の白龍!
  滅びのバースト・ストリーーーム!!!」

「なまえ!!!」

 遊戯が声を上げた瞬間、なまえは伏せカードを返した。
「速攻魔法!トーラの魔導書!!!
 このターン、選択したモンスターはトラップの効果を受けない!」

「だが雑魚は片付けられる!」

 王立図書館が守備表示となるが破壊され、その威力でなまえの髪が後ろに翻(ひるがえ)る。
 そしてなまえのライフカウンターも1000に下がり、海馬の亡霊が笑っていた。

「王立図書館を粉砕。」

「くっ」

 ***

『パスコードの先頭の2文字がB、Lであると判明。それ以上のパスコードもです。』

「フゥン。それだけ判れば充分だ。ブラック・マジシャンが守る扉に、パスコードの頭文字がB…。なまえもめでたい奴だ。こんな分かりやすいコードなら、解析など不要だったか。」

 海馬がキーボードで“BlackMagician”と入力するが、弾かれてしまった。

「!…なんだと!」

『エラー、エラー。フリーズしました。リブートします。』

 同じ画面に戻ると、海馬は頭を抱えた。
「…頭文字がBで始まる…。クソ。なまえ…。そこまで重要なデータか…?」

 海馬はなまえの事を、まだよく知らない。パスコードは統計的に言うと最もプライベートな単語が多い。

『解析が完了しました。』
「!」

 モニターにパスコードが自動入力され、文字列を目にする。
「!!!」

 “BlueEyesWhiteDragon”

「な!!!」
 バーチャルセキュリティの扉が開かれると、モニターがデュエリスト達全員のシリアルコードと 稼働中のデュエルリングのデータが自動更新された。

「…クソ、なまえは俺にこのメモリーカードを渡す事を見越していたのか…?…まあいい。これで遊戯のデュエルを探すことができる。」

 海馬は動揺したが、すぐに作業へ戻った。
 なまえがパスコードを、最愛であるブラックマジシャンから、海馬のブルーアイズへと変更していたのは何故なのか、それは彼女にしかわからない。…いや、彼女自身、無意識の内に変えていたのかもしれないが、その心の傾きは まだ2人を繋げる決定打ではなかった。

『武藤遊戯のシリアルコードは、現在デュエルをしていません。』

「そうか…。…遅かったのか?だが脱落はしていないようだ。このコードにロックして常時監視しろ。」
『了解』

 ***

 なまえのフィールドからはモンスターが一体破壊され、もう一体のジュノンも攻撃表示から動かす事ができない。

「(このままでは勝ち目が無い…) くっ…」

 なまえの詰みが見えてきているフィールドを前に、猿渡が笑みを隠せない。
「ハハハハハ! みょうじ なまえ、クイーンの座もこれまでだ! 貴様の敗北を海馬もあの世で喜んでいるぞ!」

「兄さまは死んでなんかいない!死んでなんかねぇよ!!  遊戯!お前は言ってくれたじゃねえか!兄さまは戻ってよぉ…! なまえも、兄さまを信じてるって言ってくれたじゃねえかよ!  俺は、俺はそれを信じて、ずっと兄さまを待ってるんだぞ!」

「モクバ…」
「モクバ君…。うん。私もまだ信じている。海馬はまだ生きている!」
 なまえはモクバから敵の海馬の亡霊に向き直ると、カードをドローした。

「!、マジックカード、終焉の焔を発動!さらに、増殖を発動。黒焔トークン2体を、増殖の効果で3体、特殊召喚する!」

 黒焔トークン×3
 攻撃0 / 守備0

「ハ!おかしくなったのか?守備封印がある限りそれはただの良いマトだ」

「何やってんだよなまえ!」
 城之内や本田でも分かるプレイングミスに、2人は顔を覆う。

「さらに魔導法士ジュノンの特殊効果発動!墓地に置かれた魔導書の魔法カードをゲームから除外する事で、フィールド上のカードを一枚破壊する!」

「!!、な、なに?!」

「私は前のターンで使った、トーラの魔導書を墓地から除外する。そして、その 守備封印を破壊!」

「クソ!」

 海馬の亡霊の顔が明らかに歪み、猿渡も舌打ちをする。

「このターン、特殊効果を使ったジュノンは守備表示へ変更することはできない。でも、ジュノンを攻撃するには、この3体の守備黒焔トークン3体を破壊しないと届かないわ!」

「なるほど。城之内くんの、スケープゴードと同じ役割か!」
 遊戯の言葉で城之内と本田もやっと理解したのか、安堵のため息をついた。

「フン、馬鹿な真似を。ただの時間稼ぎじゃないか。」
 しかし海馬は鼻で一笑すると、また余裕のある顔をなまえに向ける。
「フン、ならば望みどおり 一体ずつ吹き飛ばしてやる。 バースト・ストリーム!!」
 黒焔トークンが一体破壊されるが、ライフもジュノンも無傷である。

「…」
「よし!凌いだぜ!」
 城之内が嬉しそうにはしゃぐが、なまえは内心穏やかではなかった。

「(カードを2枚使い、手札のアドバンテージが少ない…。それに、守備封印の破壊のためとはいえ、トーラの魔導書の除外は痛手…。この状況を打破するカードを、あと残り3ターンで引かなければ…!)」

「私のターン、ドロー。…!…ガードを一枚伏せてターンエンドよ。」

「(なにか良いカードを引いたのか?)」

「フン、防戦一方では勝てんぞ。俺のターン、その邪魔な壁をまた1つ粉砕してくれる!バーストストリーム!」
「トラップカードオープン!」
「な!!!」

 六芒星の呪縛が現れ、青眼を縛るとその攻撃力を下げた。

「ブルーアイズは確かに無敵。でも、攻撃力を下げる事はできるのよ! 」

 青眼の白龍
 攻撃力 2300 / 守備力 2500

「なんだと…!」
「ジュノンの攻撃!」

 青眼の白龍をジュノンが撃破し、状況が一変する。
「ブルーアイズ、撃破!」

 海馬瀬人
 LP 500

「やったぜなまえ!」
 しかし鋭い光線が一撃、黒焔トークンを貫いた。
「!!!」

 海馬の亡霊のフィールドには、もう一体のブルーアイズが立ちはだかったのだ。
「俺のデッキには青眼の白龍が3枚入っている!まさか忘れたわけじゃないだろうな?」
「(まさか本当に海馬のデッキ…!どうやって手に入れたと言うの…?まさか海馬は本当に…)」

 海馬の顔は険しく歪む一方であった。
 なまえは威圧に負けて、踵を少し後ろに擦り下げる。
「お前は俺を恐れている。亡霊になって蘇った この俺をな!」
 だがなまえは、また一歩海馬に進み 毅然と向き直った。

「…恐れてなんかないわ。海馬。もしあなたが本物の海馬なら、…今のターン、私に安々とブルーアイズを破壊させなかった!」
「!!!  なんだと!」

 ***

『瀬人様、みょうじなまえのデュエル信号をキャッチしました。』
「! なんだと…相手は?」
 海馬は手を止めてモニターを注視する。

『セト カイバの名前でエントリーされています。正体は不明。』

 海馬はデータでブルーアイズが一体はフィールドに、もう一体は墓地に居ることを見る。
「俺のデッキを使ったばかりか、俺の名前を騙ったニセモノに、よりにもよってなまえとデュエルさせていると言うのか!…ペガサスめ!!!」

 海馬はフィールド履歴を遡って、デュエルの進行状況を確認した。
「(攻撃力2500が限界の魔法使い族のデッキで、ブルーアイズを一体既に倒したと言うのか。…流石だと言いたいが、もう後が無いようだな。)」

「これからインダストリアル・イリュージョン社のメインコンピュータを経由して、この2体目のブルーアイズにウイルスを注入し攻撃力を下げる!」

 海馬はデータの入力を開始し、コンピュータプログラムを作動させた。

『了解。ウイルスのレベル設定を入力して下さい。』

 海馬の手がボード操作で忙しなく動く。
「マキシマム!攻撃開始だ!」

 ***

「フフフ、そろそろ観念するんだな。トークンは残り1体。…たった1ターンでどう巻き返すつもりだ?」

「…まだ諦めないわ。」
 なまえの腰の千年秤がさらに傾いた。
 それに応じて フと後ろを振り返る。

「(…海馬……?)」

「?なまえ…?」
 遊戯やモクバがなまえを見る。
「今、確かに海馬の気配が…。」


「おいおいどうした?もう俺のターンでいいんだな?! いくぞ!青眼の白龍の攻撃!」
 海馬の亡霊が手を広げてなまえに向かう。
 すると青眼の白龍は、身体の至る所から光が溢れて動きを止める。

「なんだと?! どうしたブルーアイズ!!」
 急な出来事に海馬の亡霊も、そして猿渡も困惑を隠せない。

 ***

「これは一体…」
 それをモニタリングしていたクロケッツも、驚きを隠せないでいた。しかしペガサスは冷静で、少し笑うとクロケッツにため息まじりに指示を出す。

「本社の中枢制御室に連絡を。…海馬瀬人は 生きていマ〜ス。」

 ***

『ウイルス注入100%到達。現在攻撃力2300。さらに低下していきます。』
 海馬は安堵の息を吐きつつ次の指示のため、またボードへ向かった。
「よし、3体目に対する攻撃体制に入れ。」

 ーーー
 しかし、画面がフリーズを起こし、その指示に対して別の声が応えた。

『ハロー、カイバくん』…

『ハロー、カイバくん』『ハロー、カイバくん』『ハロー、カイバくん』『ハロー、カイバくん』『ハロー、カイバくん』

「…!!!  ペガサス!!!」


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