外には黒服の男たちが海馬の隠し部屋を突き止め、突入の準備を整えている。
 インダストリアル・イリュージョン社の中枢制御室から逆探知され、海馬の端末が割れたのだ。

 ブルーアイズの攻撃力は2000で止まってしまった。これ以上下がる様子もない。
「…クソ!!ペガサスめ!!!!」
 しかしモニターはブルーアイズの攻撃を感知していた。

「(この攻撃が通ればなまえは間違いなく敗退する!)」

 なまえ…!

「なまえーーーーーー!!!」

 ーーーーー!

「!!!!、海馬!!!」

 ブルーアイズはバーストストリームを打つ前についに消滅した。
 そして、なまえは今 間違いなく海馬を感じた。

「(海馬… このデュエルに干渉したのは、間違いなく海馬!)」

「そんなバカな…!」
 海馬を名乗る男は慌てふためき、外野も 信じられない光景に呆然としていた。

 ***

『フリーズ、解除されました。青眼の白龍、消滅を確認。』
 コンピュータプログラムの音声が戻り、モニターも正常に動作する。
 海馬は画面で青眼の白龍の消滅を確認すると、彼自身も信じられないといった顔をする。
「まさか。…おい、消滅理由を解析できるか?」

『できません。解析不能。』

 …
「カードは心、という事か…」

 ***

「な、なぜた!何故なんだーー!」
 海馬を名乗る男は、最早その仮面も剥がれたも同然であった。
 今までの演技が何だったのかと言うほど狼狽し、海馬らしくもない言動になってゆく。

「私は確信したわ。…海馬は生きている!」

 海馬の声に応え、なまえはもう迷わずに真っ直ぐその男を見た。赤と紫の その鋭い瞳は、もう揺らぐことはない。

「うるさい!俺は死んだんだ〜〜〜!!!」

「海馬が生きている事は、ブルーアイズの消滅で確信したわ! もういい加減、正体を現したらどうなの!」

「クソ〜〜〜!!俺は死んだって言ってるのに〜〜〜!!!!」

 海馬を真似ていた細身の体が、突然醜く膨れ上がり、学ランを破り割いてその巨体と大きな顔が露わになる。

「!!!」

「ああああ、あ… ゲヘ、ゲヘ…ゲヘヘヘヘ… この方が楽ちんでいいや」
 腫れぼったくギョロリとした目がなまえを刺す。海馬の亡霊を名乗っていた“死のモノマネ師”は、ついにその正体を現した。

「オレ様はインダストリアル・イリュージョン社に派遣された 死のモノマネ師だ。さあお嬢さん オレ様と楽しくお遊びしちゃおうぜ」

 ゲヘヘヘと下衆な笑いをし、なまえを舐め回すように見るこの大男に、海馬の生存が確定した事に安堵していた遊戯やモクバ達を さらなる不安に押しやった。
 なまえも流石にこんなに膨れ上がった巨体の男が出てくるとは思っていなかったらしく、顔に少し嫌悪感が出ている。

 ***

 その頃海馬の隠し部屋に、男たちが踏み込んだが、既に海馬はコンピュータのプログラミングを破壊して姿を消していた。
 ペガサスの元にもその報告が伝えられるが、ペガサスは少しの意にも介さず、放っておくようにだけ伝える。

「(流石はなまえ…。クイーンに登り詰めた貴女だけのことはある…。運も実力のうちという事でしょうかねぇ。)」

「さ〜て、デュエルの続きを楽しむとしましょう」

 ***

「フン!兄さまのカードはなぁ、そこいらのヤツじゃ使いこなせないんだぜ!ザマーみやがれ!」

 猿渡に捕まったままではあるが、海馬の生存を確信した彼はもう怖いものなどないと言った風に、その威勢の良いいつものモクバに戻っていた。
 しかしもうデュエルはお互い残り僅かのライフで、死のモノマネ師は3枚目の青眼の白龍を引くまでの時間稼ぎに、守備モンスターを出すだけになってしまった。

 グラップラーが守備表示で召喚される。

 実際、3枚目の青眼を引かれた時点でもう防ぎきれるものではない。

「(流石に3枚目のブルーアイズまで、また海馬の干渉で消えるなんて、そんなムシの良い事はもうないわ…。この防戦で凌がれる間、私も最後の切り札を…あのカードを引くしかない!)」

「魔導教士システィを攻撃表示で召喚! グラップラーを撃破!さらにリバースカードを一枚セットしてターンエンドよ。」

 魔導教士 システィ
 攻撃力 1600 / 守備力 800

「あ〜ぁ、やられちゃったよ。次はケンタウロスを守備表示でだして、カードを一枚伏せるかな! ゲヘヘヘヘ!」

「海馬のカードをそんな風に扱うなんて…ッ」

 なまえは苛立たしげにモノマネ師を睨みつける。
 相手が守備表示を続ける限り、このデュエルに決着がつかない。

 …決着が着くのは、ヤツが3枚目の青眼の白龍を引いた時!

 なまえの手札に布石は揃いつつある。
「(海馬のカード、…私が必ず取り戻してみせる!)

 私は魔導書士バテルを守備表示で召喚。」

 魔導教士バテル
 攻撃力 500 / 守備力 400

「バテルの交換で、私はデッキから魔導書と名のついたカードを一枚 手札に加える。…(私の最後の切り札はあと一枚!…必ず引いてみせる!)…

 私は“ルドラの魔導書”を手札に加え、このまま発動する。そしてさらに“魔導書整理”を発動。このカードはデッキから3枚引き、好きな順番に並べ変える。

 (ーーーー来い!!!)

 !!!!
 そしてルドラの魔導書の効果!このカードと、手札 またはフィールドに存在する魔導書の名の付いたカードの2枚を墓地に捨てる事で、デッキから2枚のカードをドローする!
 私はこの“ルドラの魔導書”と、今発動した “魔導書整理”のカードを墓地に捨て、カードを2枚ドローするわ」

「!  なるほど、これなら予めカードを見て必要なカードを高い確率で手札に加えられるのか」
 遊戯はまだ全貌の見えない なまえの魔導書シリーズのデッキを脅威にすら感じた。
「カードを一枚伏せてターンエンド。」

「(あっちのフィールドにはモンスターが3体と伏せカードが2枚… ケンタウロスは防げても、オレ様がブルーアイズを引けばそれでオレ様の勝ちなんだなァ…グフフ!)」

 そしてモノマネ師は、ついに青眼の白龍を引き当てる。
「ん? やった〜! “青眼の白龍”!」

 なまえはグッと肩に力が入る。
「これで終わりだ〜!魔導教士システィへ攻撃だ!バーストストリーム!!!」

「魔法カード発動!」

 ブルーアイズの放った一撃はシスティの前で打ち消された。
「攻撃の無力化。これであなたのターンは終わりよ!」

「なんだと〜〜〜!!!」

 そしてなまえも3枚目にデッキへ残していた最後の切り札をドローした。

「魔導法士ジュノンの効果発動!私は墓地から“魔導書整理”をゲームから除外し、あなたの伏せカードを破壊する!」

 開かれたカードは“聖なるバリア ミラーフォース”。

「ミラーフォースを破壊!」
「げえええええ」
 モノマネ師は明らかに狼狽えるが、まだブルーアイズのアドバンテージが彼の優位を確保している。

「そして手札から、魔法カード“死者蘇生”を発動する」

「!まさか、オレ様のブルーアイズを…?」
「勘違いでしょ。私が復活させるのは…海馬瀬人のブルーアイズ!」

 なまえのフィールドに 青眼の白龍が降臨し、2体の青眼の白龍が対する。

「ゲヘヘ、でも追い詰められてキレちゃったのかなァ?これじゃあただの同士討ちだぜお嬢さん!」

「さらに伏せていた魔法カードを発動するわ」
「!!!」

「魔法カード“魔導師の力”! このカードは、私のフィールドの魔法、罠カード1枚につき 攻撃力を500ポイントアップする。 私はこの魔道士の力、攻撃の無力化、そして死者蘇生の3枚を使ったわ。…よってブルーアイズの攻撃力は4500!」

「な、なんだって?!ちょ、ちょっと待てよ…!こんなのありかよ…!!!」

「私の魔法使い達を侮辱した事、海馬のカードを弄んだ事!その身で後悔するがいい!

 ブルーアイズ・ホワイトドラゴンの攻撃!」

「うわあぁぁぁぁぁ」

 なまえの胸から光が溢れ、ウジャド眼がその額に現れる。
「海馬のデッキを弄び 海馬を汚したあなたを私は決して許さない! 」

 腰から千年秤を抜き、そのウジャドの眼でモノマネ師を射抜く。
「その裁きを受けるがいい!!!」

 モノマネ師は攻撃の光の中でその千年秤の眼に吸い込まれ、姿を消した。

 ***

 モニタリングしていたペガサスの持つワイングラスが粉々に割れて弾けた。

「クイーン、…なまえ。素晴らしい、貴女に眠る闇の力、確かに感じましたよ。…必ずその力を私の手中に収めてみせマース」

 ***

 ウジャド眼が消えると、なまえはドッと膝を着いた。
 息を荒げながらデュエルデスクにやっと手をつき、胸を押さえてその痛みに耐える。

 そこに遊戯が駆け寄って肩を抱いた。

「なまえ!…今のはお前の千年秤の闇の力…!」
「遊戯…、」
 ズルリと腕を落として千年秤が足元に落ちる。

「おい!大丈夫か」
「…大した事ないわ。それより、モクバ君は?」

 しかし、猿渡とモクバの姿はそこにない。騒動に紛れて、モクバは連れ去られてしまった…。

 ***

 なまえは息を整えると、立ち上がってモノマネ師の居たデュエルデスクに足を進めた。
 デスクに散らばったカードを集めると、青眼の白龍のカードに目を落とす。

 ーーー
「海馬…瀬人……」


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