「これは……?」

 遊戯も初めて見るもう一人の部屋の様相に、あたりを見回して進んでいた。この空間は広いようだが、デュエルモンスターズのモンスターが描かれた一枚一枚の大きな石盤が立ち並び一本の道を作り出していて、ただひたすらにその通りに足を進めるしかない。
 シャーディーは行くべき道を知っているかのように、遊戯を先導していた。

「今から三千年の昔、古代エジプトでは石盤に封じ込められた魔物を魔術師たちが操り、王の覇権争いのもと戦いが行われていた。……やがて魔術師たちは滅び去り、石盤もその魔力とともに地中深く眠りについた。

 それらの石盤の伝説は “ トートの書 ” に記され、人々の間で語り継がれていき……
 やがてタロットカードへと形を変え、カードゲームの原点となった。」

「これがデュエルモンスターズの原型になった石盤……」
 遊戯が思わず石盤に踏み寄って触れると、突然ひとつの石盤から光が飛び出し、それはブラック・マジシャンとなって二人の前に現れた。

「ブラック・マジシャン!」
ブラック・マジシャンは杖を構えて立ちはだかる。普段フィールドに召喚するときとは打って変わり、その目は警戒と敵意で光っていた。

「ヤツはこの先を侵略者から守ろうとしているようだ! やられたら我々はもう、この部屋さえ抜け出せない……!」
「そんな!」
 どう脱却すべきか行き詰まったところで、足の下に敷かれた石盤がシャーディーの目にとまる。
「……これは、青眼の白龍! カードの力が忠実にモンスターたちの力を再現しているものなら、青眼の白龍の方がブラック・マジシャンより力は上! ブルーアイズを我が闇の力で実体化して闘わせれば……!」
「やめて!!!」
 遊戯はブラック・マジシャンをかばうようにシャーディーの前に飛び出した。
「なぜ止める?!」
「ブラック・マジシャンは僕のカードだ!」
 遊戯は振り返ってブラック・マジシャンの前に駆け寄った。杖を構えたままのブラック・マジシャンが、静かに遊戯を見下ろす。

「ブラック・マジシャン! 僕たちはこの部屋を荒らしに来たわけじゃない! 僕たちをこの部屋から出して!」
 ブラック・マジシャンの紫色の瞳がジッと遊戯を見つめる。遊戯は心の中でブラック・マジシャンに対する信頼を握りしめて、もう一度名前を呼んだ。

「ブラック・マジシャン……!」

 ブラック・マジシャンは警戒を解き、杖を下ろした。遊戯に従うその姿に、体を大きく打たれたような衝撃がシャーディーに走る。

「(ブラック・マジシャンは王の守護を司る魂と、王妃の守護を司る体に別けられた特別な魔術師……! その魂の方のブラック・マジシャンが、この少年の言うことを…… するともう一人の少年の正体は、まさか───」

 二人は突然黄金の光に飲まれ、あまりの眩しさに目を覆った。



 ───! い、いまのは……」
 ハッとすると、目の前の男は千年錠を下ろしたところだった。光のない青黒い目が、表の人格の遊戯をしっかりと見つめている。

「……もう一人のオマエに伝えておいてくれ。…その者を千年眼を持ち去った犯人だと決めつけたのは、私の間違いだったと……」
 男は背を向けて階段を下り始めた。少しいったところで立ち止まり、顔だけ振り向いてもう一度遊戯をまじまじと見る。
「犯人を見つけようとして、思いがけない者と出会うことができた。これからオマエと、もう一人のオマエは、…千年パズルに秘められた真の力を、……三千年もの間封印された謎を解き明かさねばならない。」

「千年パズルのこと、なにか知っているの?」
「……これから先、千年アイテムの持ち主たちがオマエの前に揃うだろう。だが気をつけろ。その中に、千年パズルを求めて近づいてくる者がいる。」
 それだけ言うと、彼は先の見えない闇の中に進んでいく。
「あ、まって……!まだ知りたいことがあるんだ!」
 ゆっくりと姿を消したあとで、闇が閉じてしまう瞬間、彼の声が響き渡った。

「私の名はシャーディー。他人に名を名乗るのは、随分と久しぶりだ───… 少年よ、いずれまた会う時が来るだろう。」



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