「ここの世界も、デュエルモンスターズとなにか関係あるのかな?」

 遊戯は深い森や腕に付けられたデュエルディスクに困惑しながらも先頭を歩いていた。
「僕たちはこの世界がどんなルールで動いているのか、まだよく知らない。みんな、気をつけよう!」

「わかってるって!」
 城之内は相変わらず威勢良く返事をするが、森を抜けた先にかかる霧に身体を攫われ、豹変した空気に少しずつ気力を削がれ始めた。

「ただで通れそうな気配じゃないね……」
 警戒を強める遊戯の前には、崩れた墓や十字架が立ち並んでいた。
「この風景…… どっかで見たことあるぜ……」
 城之内の脳裏にはトラウマのように焼きついた光景が蘇る。足を進めた先の地面が突然盛り上がり、その音に3人が振り向くと3体のアンデットモンスターが現れた。
「で、ッ…出た〜〜!!!」

 苦手なアンデットを前に動揺する城之内の前にモクバと遊戯が飛び出すと、身体が動くままにデッキからカードを引き抜いた。

「いけ!“ルート・カイザー”!」
「出ろ!“ブラック・マジシャン”!」

「「攻撃!」」
 それぞれ一体ずつ撃破すると、残りの一体が城之内に襲い掛かる。
「攻撃命令すりゃいいんだな! よし───」
 遊戯とモクバを見て、意気揚々とカードを引いた城之内の前に、出そうとしたモンスターとは別のモンスターが現れて、そのゾンビを破壊した。

「え?」
「───え!」

 遊戯はその見覚えのあるモンスターに、あたりを見回した。城之内も腕を伸ばしてカードを持ったまま固まっている。

「遊戯!」
「なまえ?!!」

 駆け寄ってきたなまえに、遊戯が目を見開く。なまえの名前にモクバや城之内も驚いて振り返った。
「どうしてここに?!」
 遊戯の言葉を遮るように、倒したはずのモンスターが再び4人の前に立ち塞がった。

「しまった! ゾンビは復活するたびに攻撃力を増していく! コイツら不死なんだ!」
 遊戯はモンスターカードを手にしたままの城之内に目を向ける。
「城之内くん! デュエリスト・キングダムでも骨塚の闘いを思い出すんだ! ゾンビを倒す方法は君が一番よく知ってる!」

 背中を押すような遊戯の言葉に、城之内はモンスター達に表示された数値を見て思い出し、「そうか!」と閃いてデッキからカードを引いた。
「魔法カード“ 右手に盾を 左手に剣を”!」
 アンデットモンスターたちの攻撃力が、守備力ゼロの数値と入れ替わる。

「よっしゃあ! 今だぜ!」

***

 3体のアンデットモンスターを倒し、コインカードを手に入れた遊戯たちは、突然現れたなまえと向き合っていた。

「で? ここがそのアドベンチャー・ゲームの世界ってこと?」

 腰に手を当てて口を曲げるなまえに、城之内は上から下までなまえを見回した。
「それよりオメー、本当になまえか? ゲームに組み込まれた偽物とかじゃ……ねぇよな?」
 城之内の疑問になまえはため息をついて、ポケットから魔導のカードを取り出した。

「これで説明つくかしら。」

 遊戯が受け取って広げると、カードのふちが赤く表示されたカードたちに怪訝な顔を向ける。
「何故か禁止カードに指定されてて使えないのよ。お陰で私のデッキは12枚しか残ってないわ。」
 予備カードを持ってたからなんとかこれだけあるわ、とデュエルディスクの嵌められた腕を上げる。

「なまえまでゲームに参加させるなんて……ビッグ5の真の目的はなんなんだ?」
 想像以上に裏のあるビッグ5の陰謀に、モクバの顔が曇る。だがそれについては自分の正体を知らない彼らに答は導き出せないだろうと踏んで、なまえはため息まじりに視線を泳がせる。
 それを遊戯はジッと見つめていたが、あえて問い質すことはしなかった。

「それよりライフポイントがずっと回復しないのよ。」
 なまえのライフカウンターを見た城之内も、自分のカウンターに目をやる。
「オレのも戻ってねぇ……! そうか、これがオレたちの… クソ! ゼロになったらどうなっちまうんだ?!」

 焦る城之内の視界の端に、何かがチラリと光った。
「ん……ん?!」
 顔を上げてそれを探すと、遊戯やなまえも城之内の視線の先を見てみる。
 崩れた墓標に隠れるように、青い帽子を被った小さな妖精がこちらを覗き見ていた。

「妖精?」
 遊戯がそっと近寄ってみると、城之内はパッと顔を明るくする。
「ゲームに出てくる妖精ってのは、なんかヒントを握ってんだ!」
 城之内の大声に驚いた妖精が、なまえとモクバを横切ってサッと飛び去ってしまう。城之内が「おい待て!」とその後を追いかけると、遊戯やなまえ、モクバも続いて駆け出した。


「あ、……あれ?」

「見失ったみたいね。」

 森を抜けたところで城之内はあたりを見回すが、妖精の姿はどこにもなかった。なまえや遊戯が息を整えているところに、モクバはなにかを見つけて崖の方へ足を進める。
「どうしたの、モクバくん」
 遊戯がその背中に声を掛けるとほぼ同時に、モクバの目線の先に町があるのに気が付いた。

***

 モンスターや人型が入り混じる砂漠沿いの町で、遊戯たちは一旦散開して海馬を探した。割と散々な目に合った城之内や、そこそこに苦労した遊戯は大した情報を得ることができなかったものの、モクバはゲームを進められそうな情報を掴んできた。

「今朝 何者かが誰かを入れた檻を、この砂漠の向こうにある“オフェス神殿”のほうに運んで行ったって。でもこの砂漠を渡るには“コケ”のカードが必要なんだ。」

 町境に立って、眼前に横たわる広大な砂漠に、遊戯と城之内は途方に暮れたような顔をする。それを見たモクバがなまえに目を向けると、なまえもため息をひとつこぼして続けた。

「それで、コケのカードなんだけど……」

***

 遊戯と城之内、モクバの身体がある海馬ランドの前に、猿渡とその部下4人の男たちが、雷雨の中で立っていた。
「武藤遊戯…… 貴様らに海馬瀬人を救出させるわけにはいかない。」


 外に迫る猿渡達をまだ知らない杏子と本田は、ぼんやりとゲームが終わるのを待っていた。現実の世界ではそんなに時は経っていないが、やはり待ちぼうけとなれば、その分時間は長く感じる。

 本田とのやりとりに飽き飽きしてきた頃、杏子は何かの物音に気が付いた。

「……ねぇ、今の」
「あぁ。」

 2人は顔を見合わせて頷くと、扉を少しだけ開けて様子を伺う。雷鳴と共に男達が施設内に入ってくる陰が伸びた。
「こっちの世界にも敵はいるみたいだぜ。」
 本田の言葉に杏子がチラリと遊戯の方を見る。

「オイ杏子。ドアに鍵をかけて、バリケードも作るんだ。」
 杏子は本田を見上げると、意を決したように強く頷いた。

「うん、わかった。」


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