「さっきのモノマネ師のスターチップ3個は、遊戯にあげるわ。」

「え?!」
 表の人格に戻った遊戯は思わずなまえに向き合う。
「今のデュエル、本当なら貴方が受けて、貴方が勝つべきものだった。私は遊戯からスターチップを増やすチャンスを奪ったのだから、これは受け取ってもらいたいの。」

 なまえはポケットからスターチップ3個を取り出すと、遊戯に差し出す。
「う、受け取れないよ。これはなまえがデュエルで勝ち得たものなんだ。そんな…」
「駄目よ。今 受け取ってくれないなら、…もう二度と口を聞いてあげないわ。」
「ええぇ」
 子供の駄々っ子みたいな脅しに、城之内や本田は笑う。

「受け取っちまえよ、遊戯。ここはなまえの気持ちに応えてやるべきだぜ。」
 城之内が遊戯の肩を抱いて耳打ちする。

「うぅ〜ん、わかった。なまえ、ありがとう。」

 遊戯の手にスターチップが渡ると、なまえもやっと笑う。
「(なまえが笑うところ、初めて見たなぁ。こうして見れば普通の女の子なのに、…千年秤のせいで いつもあんな険しい顔をして 重いものを背負ってるのかな。…なんだか、とても可哀想に見えてきたよ。)」

 なまえは踵を返して森の方へ向いた。
「さあ、モクバを探しましょう。」

 ***

「モクバ〜!」
「モクバー!どこだー!?」
 遊戯、城之内、本田、杏子の4人は、姿を消したモクバを探して広大な土地を手分けして走り回っていたが、島は既に夕陽で赤く染まり始めていた。

「クソ! モクバのヤロー どこにもいねぇぜ」
「きっとペガサスの城に連れてかれたんだわ。」
 城之内と杏子も 既に諦めの色が滲んでいた。

「ペガサスの城に入るには、スターチップを10個集めるしかないよ」
 遊戯は、城之内と自分のグローブに目をやり 城之内も遊戯と目を合わせて頷いた。

「そういやぁなまえは、スターチップ15個も持ってたよな?」
 本田はふと、なまえがスターチップを10個以上持っていた事を思い出す。
「スゲーよ。あと5個あればペガサスの城に2回入れちまうじゃねーか。」
 城之内もスターチップの数の差に表れる、クイーンとの違いを見に染みて感じる。

「…あれ?なまえは?」

 杏子が見渡すと、彼女の姿はどこにもなかった。
「そんなぁ。なまえまでどこに行ったんだろう。」
 遊戯も慌てて森に向かうが、それを本田や杏子が呼び止めた。

「これ以上探すのは、私達も危ないわ。」
「そうだぜ。それに、もしかしたらもうスターチップ10個も持ってるんだから、1人で城に向かったかもしれねぇしな。」

 遊戯はどこか不安そうな顔で、うん… とだけ呟いて森に目をやった。

「(なまえ…黙って行っちゃうなんて。)」

 ***

 なまえは森の中の少しひらけた場所に石を並べ、その辺の木の枝で焚き木を組んでいた。
 日も段々と落ちてきて 身体の芯まで冷え込んでくる。

「はぁ…。」

 ある程度組んだところで、彼女の胸から光が漏れて魔術師が表れる。
「フォルス」
 彼女の身体から魔導戦士フォルスが現れると、手をかざして薪に火を着けてくれる。

「ありがとう、…ごめんね、こんな事で呼び出して。」
 フォルスはなまえに笑って振り返ると、そのまま彼女の身体に戻っていった。

 腰に差した千年秤を抜き取ると、大きな倒木に座って足元にそれを置いた。
 焚き火が辺りを照らしているが、空は次第に濃紺の暗闇をもたらす。

 正直ひどく疲れていた。千年秤の闇の力を使う事は、何故かなまえにとって大きな負担となるのだ。

「(怒りに任せてしまった…。)」
 闇の力は出来る限り使わない。そう心に決めていた。身体の負担もある。
 …怖い。

「怖い……」

 心臓が強く高鳴る。
 今まで抑えてきたものが、ふと突然湧いて出てきたのだ。

 しかし、背中から青い腕が伸びてきて抱きしめられる。…ブラック・マジシャンがなまえの身体を包み込んでいた。
「…っ」
 振り返ると、ブラックマジシャンと目が合う。
 彼に実体があるわけではない。実際に触れて、抱かれているわけではないのに、それでも心が和らぐ。
「(遊戯が持つブラック・マジシャンのカード、…私のものと2枚揃えば、きっと力になる…。)」
 しかし、なまえが自分自身で気が付くほどに、ブラックマジシャンへの傾倒はどこか緩みが生じていた。
 彼女が数年共に過ごしてきたブラックマジシャンよりも、たった数度言葉を交わしただけの海馬に心がひどく傾いていた。

 どこか心で解っていたのだ。ブラックマジシャンが実体化しても、カードの中のモンスターに変わりはないのだと。

 なまえは赤く燃え上がる炎を、その赤と紫の瞳で見つめていた。


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