「で、遊戯となまえも参加するんだろ?」
「もちろん」
「……まぁ、」

 屋上に集まった遊戯となまえ、そして城之内、杏子、本田の5人。城之内はさっそくバトルシティの話題を持ち出していた。
「くぅ…… 海馬のヤロウ、デュエリスト・キングダムナンバー2のこのオレに教えねぇとはどういうことだ! 許せねぇ……!」
 地団駄を踏む城之内になまえも遊戯も苦笑いをする。

「それよりなまえ、今日可愛いじゃない」
「え゛っ」

 杏子が城之内達そっちのけでニコニコと笑いかける。いつもは髪を下ろしているくらいしかしないなまえが、今日は三つ編みした髪を青と金のリボンでハーフアップしていた。ほんのり薄付のリップクリームも塗っているし、今日はデュエリストというよりも一段と女の子らしい雰囲気が漂っている。

「いや……あの、……舞さんがやってくれたのよ」

「へーいいなぁ」「なに?! 舞も来てるのか?」
 恥ずかしそうに前髪に触れるなまえから舞の名前が出て城之内がくらいつき、杏子の声を遮る。
「大会の間は私の家にいるわよ。せっかくだし、大会が始まる前に遊びに来たら?」
「いいわね! 私行っちゃおうかな」
 ガールズトークが始まりそうな空気になるが、城之内は「うーん」と気まずそうに頭を掻いた。

「悪りぃがオレはパスだな。……実は静香の手術があるんだ。それに立ち会ってからすっとんで戻って来て大会に参加することになるから」
「そっか、静香ちゃんが…… 早く良くなるといいね」
 杏子が励ますように笑い、城之内も「おう」と返す。

「……ていうか、2人とも本当に大会に参加するの?」

 口を曲げるなまえに遊戯と城之内が驚いて顔を見合わせる。
「なまえ、なにか気になることでもあるの?」
 遊戯がなまえを見上げると、少し悩んだようになまえはデッキを取り出した。

「大会に出るのはいいとして、……アンティルールは気が乗らなくて」
「アンティ? なんだそりゃ」
 カードを手に一番上に出た“魔導法士ジュノン”のカードを親指で撫でるなまえに、城之内だけは首を傾げる。

「賭けカードのことだよ」
「賭けカード?!」
 遊戯がなまえの代わりに答えると、城之内は神妙な顔で遊戯に鸚鵡返しした。
「勝ったプレイヤーは負けたプレイヤーからレアカードを1枚奪うことができるのよ」

「ナニ?! レアカードって……いうことは」

 城之内もポケットからカードを取り出してなまえと同じように見つめる。城之内にとって最も大切で、最もレアリティの高いそのカード……“真紅眼の黒竜レッドアイズ・ブラック・ドラゴン”。

「負けたりしたらコイツを奪われちまうってことか?!」

「大丈夫なのか?」
 本田と杏子の冷めた目の横で、遊戯が苦笑いしなまえも口を曲げて城之内を見ている。一様に口にしたい言葉は同じだろうが、代表して本田が続けた。
「そのカードはお前の全財産みたいなモンだろ?」
「うぅ……」
 少し渋ったあと城之内は「な〜んてな」と開き直ったように笑い、戯けたようにカードにキスをする。

「安心しろって。レッドアイズはオレの勝利の女神。オレとは切っても切れない運命の糸で結ばれてっからよ!」

 「カードにキスするヤツ本当にいるのかよ」と呟く本田の横でなまえが冷や汗を流してサッと目を逸らす。遊戯がそれに「あ……」と漏らすとなまえの手が口を塞いだ。
 それをとくに気付きもしない城之内がフフンと笑う。

「ようは勝ち続けりゃいいんだろ。そうすりゃレアカードがガッポガッポ……」
「ちょっと! 変な欲出すとロクなことないわよ」

 杏子が呆れ返ってため息をつく横で、城之内がなまえの方にも目を向ける。
「て事はよォ、なまえは遊戯の“ブラック・マジシャン”をまた賭けるのか?」
「え?」
「いや、だってお前ェ……」
 突然すぎる城之内の問いになまえが固まる。その手の中でまだ口と鼻を塞がれて青い顔で死にかけていた遊戯が「ぷは」と解放されて息をついた。
「(そっか、……遊戯のアンティカードは“ブラック・マジシャン”になる。)」
 ゾクリと背中に何かが走った。だがそれが腰の千年秤にたどり着くより先に胸がスッと降りた。

「いえ、もう遊戯のブラック・マジシャンは狙ってない。遊戯と闘うのは“優勝”を賭けた決勝だけで充分よ」

 遊戯がなまえの顔を見上げる。その横顔に残る戸惑いと新しく見つけた光に晴れた目が、闇の人格の自分が感じているであろうものを表の遊戯も僅かに垣間見た。

「オイ! 決勝で遊戯と争うのはオレだぜ! なまえこそオレからレアカード奪われないよう気をつけるんだな!」
「この前3ターンで秒殺されたクセに……」
 意気がる城之内に杏子が大きくため息をつく。デッキ調整になまえが付き合ったことがあったのだが、学校の机の上でのデモデュエルとは言え話にならなかったのを思い出し城之内が顔を青くする。

「……なまえとは準決勝で闘えばいいもんな!」
「…………」
 たぶん険しい道だと思う。そう言葉にするのも野暮だろうと黙っておいた。

「あっ、そうだ…… 大会出場にはデュエルディスクも手に入れなきゃ」
「デュエルディスク……? それって確か……」

 さらに城之内を追い詰めるようにデュエリスト・キングダムでの記憶が蘇る。
 『城之内…… 貴様には地面を這いつくばる姿がお似合いだ。立ち上がることすらできない負け犬め!』

「(くぅ…… デュエルディスクってロクな思い出ねぇんだよな)」

「僕んちじゃ扱ってないけど、カード専門店なら置いてあるらしいんだ」
 嫌な思い出を振り払うように頭を振ると、城之内はカラ元気でも笑ってみせる。
「よっしゃ! とにかくそいつを手に入れに行こうぜ! 学校終わったら駅前で集合な!」


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