「いくぜ! オレの先行だ!
(手札5→6)
  場にカードを1枚伏せ
  さらに《磁石の戦士αマグネット・ウォーリアー・アルファ》(★4・攻/1400 守/1700)守備表示!
(手札6→4)
  ターン終了」

「私のターン!
(手札5→6)
  《魔道化リジョン》(★4・攻/1300 守/1500)を守備表示!
(手札6→5)
  ターンエンドです!」

 ポーカーフェイスすら取らないパンドラの顔に、遊戯が目を光らせる。パンドラは既に手にしているブラック・マジシャンをもう一度見て、またその口角を深く上げた。
「(あともう一枚モンスターを場に出せば、生贄召喚によりブラック・マジシャンを召喚できる!)」

「……」
 遊戯はそのパンドラの笑みに隠されたカードコントロールの汚いやり口に目を細める。

「オレのターン!」(手札4→5)

 ドローしたカードを一瞥すると、遊戯はジッとパンドラのマスクに覆われた眼球を見つめた。なにか企んでいる、……もしくは、もうその企みの一部は達成されている。「フン」と鼻で笑うと、遊戯はドローしたカードを手札に加えることなくディスクに向かわせた。

魔法マジックカード《手札抹殺》! プレイヤーは全ての手札を捨てて、捨てた枚数デッキからドローする!
(手札5→4)
  アンタもだぜパンドラ!」

「全ての手札を……?!」
 明らかに動揺して手札の一点を見つめるパンドラに、遊戯は「やはりな」と吐き捨てるようにに笑った。

「手札にブラック・マジシャンが入ってたようだな。奇術師と聞いて、イカサマを警戒するのは当然のこと。ましてやショットガンシャッフルを平気でかますようなヤツが、カードを大切にするとは思えない。
  カードを切り刻むことなど平気でやりそうだと思ったぜ!」

「くっ…… まさかそれを承知で私の仕掛けに乗ってきたのか?!」
 震えるパンドラに構うことなく遊戯は手札を墓地に捨てて、デッキから同じ枚数をドローした。そして手加減も待ったもすることなく、ただ鋭い眼光でパンドラを射抜く。

「まだオレのターンは終わっちゃいないぜ! 伏せカードオープン! 《洗脳 -ブレイン・コントロール-》!
  《磁石の戦士αマグネット・ウォーリアー・アルファ》と《魔道化リジョン》を生け贄に捧げ───

  《ブラック・マジシャン》召喚!」
(手札4→3)

「(くっ……! ブラック・マジシャンを先に召喚されてしまったか!)」
 壁も伏せカードもない状態で、遊戯の紫の衣のブラック・マジシャンを前にパンドラが目を見張った。
「身を刻まれたカードの痛みを、教えてやろうかパンドラ!」
 遊戯の言葉に共鳴するような回転カッターの駆動音がパンドラに襲いかかる。

「危険なゲームを仕掛けてくるなら受けてやるぜ! だがそれ相応の痛みは覚悟しておくんだな。
  ブラック・マジシャン! プレイヤーへのダイレクト・アタック!」

***

「うわぁ───!」

 今度は膝を折るでは済まされなかった。ダイレクト・アタックに突き飛ばされて尻餅をつく青年を、なまえの青い衣の《ブラック・マジシャン》ともう1体の象徴である《魔導法士ジュノン》が見下ろしている。それどころか2体のドルイド達……ウィドドリュースがなまえを囲むように立っていた。

 なまえは宣言通り3ターンで青年を倒した。だが青年は先程よりも晴々とした顔で立ち上がり、大きく息を吸う。
「やっぱり強いや、……」
 そうこぼした青年がぼろっと涙を落とす。流石になまえもギョッとして駆け寄ると、青年はすぐに袖で拭ってカードを差し出した。

「あなた、……どうして再戦に挑んでくれたの?」
 負けるとわかっていて。そう言いかけたがそれは削除した。
「いいんです、負けるってわかってた。それでも僕は挑みたかった。デュエリストの頂点と闘える機会なんてないから……」
 青年はなかなかカードを受け取らないなまえに、もう一度カードを突き出す。意を決したように2枚のレアカードと1枚のパズルカードを受け取ると、顔を上げて青年の目を見た。

「私が使うかどうかはわからない。でも、大切にするのは約束できる。……いつか取り返しに来てくれること、楽しみに待ってるわ」

 これまで何度もクイーンの座について問われてきた。そして遊戯に王座を明け渡した。でもそれが今は正しい事だったと胸を張って言える。
 全てのデュエリストと平等なスタートラインに立っているはずなのに、気持ちだけは平等というものを知らなかった。でも、トーナメントでのくじ引きとかそういうのじゃない、この街で誰とでも自由に闘える場を得て、なまえは初めて頂点の重みを知ることができた。
 遊戯は最初からそれを知っていた。彼が王座に相応しい男だったのだと、王座を明け渡しす運命だったのだと思えてくる。

 いつか私も、その高みに返り咲きたい。


 なまえは4枚になったパズルカードに小さく笑った。

***

遊戯(LP:4000)
パンドラ(LP:1500)

「ぐうぅ───!!! ……ッ! な、ななかなやりますねぇ……!」

 マスクの下で目を剥き、荒い息を吐くパンドラに、失ったライフポイントの分だけカッターの刃が死の足を進める。だがパンドラはそれに恐れるでもなく、脂汗を流しながら狂気に笑って見せた。

「でも本当のショーはこれからです!」



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