「いったい遊戯はどこへいってしまったんじゃ……」
「きっと城之内を襲ったグールズってヤツらのしわざよ。はやく探し出さなきゃ」
 街のメインストリート近く、杏子と遊戯の祖父・双六があたりを見回しながら歩いていた。

 公園で遊戯を見かけたはいいものの、あのサーカステントから消えてしまってから2人はずっと遊戯を探している。だがこれといった形跡も見つけられていない。
「手がかりひとつないんじゃ、どこを探せばいいのやら…… お?」

 双六が十字路を過ぎようとしたところで足を止めた。杏子も双六が顔を向けている方を見れば、なまえもこっちに気がついて足を止める。

「なまえ!」
「杏子! 遊戯のおじいさん!」

 小走りに駆け寄ってくるなまえに双六がいつもの悪い女癖から「ヒョォ〜〜!」と声を上げた。
「なまえチャン今日も一段と可愛えぇのう〜! なかなかウチには遊びに来んから会いたかったぞい」
「は、……はあ、」
 会う度にそんな事を言われるのには、なまえも苦笑いして受け流すしかなかった。杏子に「今日もナイスなギャルじゃのう!」と言ったり、舞さんに大興奮してるのも見ているので、まぁ元気なお爺ちゃんだな……くらいに思い止める。

「もぅお爺さんたら! なまえ、それどころじゃないのよ」

「へ?」

***

「私のターン!
(手札5→6)
  《キラー・トマト》(★4・攻/1400 守/1100)を守備表示。
  場に伏せカードを置き、ターン終了です。」
(手札6→4)

 心理戦の攻防は静かに繰り広げられていた。ブラック・マジシャン使いを名乗る奇術師、ということは…… 間違いなくカードのあらゆる効果でトリッキーな動きをするプレイスタイルのデュエリストだということ。しかしそれは遊戯も同じだ。
 戦術を練りながら場を構築していく者同士、互いの動きを観察する目で空気は張り詰めていた。

「オレのターン!
(手札3→4)
  《磁石の戦士βマグネット・ウォーリアー・ベータ》(★4・攻/1700 守/1600)召喚!」

「かかりましたね! トラップカード発動!
  《黒魔族復活の棺》!
  敵モンスター1体の魂と自軍のモンスター1体の魂を捧げ、墓地に置かれた《ブラック・マジシャン》を復活させるのです!」
「ブラック・マジシャン復活?!」

「いでよ! 私の《ブラック・マジシャン》!」

 パンドラの赤い衣と褐色の肌をしたブラック・マジシャン、遊戯の紫の衣のブラック・マジシャンが並んだ。フィールドには純粋にそれのみが対等している。
「(攻撃力の同じモンスターは、どちらもうかつに攻撃を仕掛けられない。そうなると魔法とトラップでどちらが先に相手のブラック・マジシャンを倒すか…… そこが勝負の分かれ目になる!)」

「(ここからが真の闘いですよ、遊戯!)」

「くっ…… このターン、オレは更に2枚の伏せカードを出してターン終了だ」
(手札4→2)

 その攻防にパンドラは満足そうにフッと笑った。
「(やはり分かっているようですね、遊戯。ブラック・マジシャン同士の闘いというものを!)」

 パンドラのターン、遊戯のターンとそれぞれ2ターンずつ費やしてカードが伏せられる。モンスター同士の攻撃ではなく、プレイヤー同士の直接の心理戦とも言える4ターン、遊戯とパンドラが目線を交えたまま微動だにしない。
 その沈黙をついにパンドラが破った。

「場にはそれぞれ4枚のカードが置かれました。ならば私が先に仕掛けさせて頂きましょう!

  魔法マジックカード《断頭台の惨劇》! 遊戯! あなたのブラック・マジシャンの最後です!」

「リバースカードオープン! 《マジカル・シルクハット》!」
「追撃の魔法マジックカード1《千本ナイフサウザンド・ナイフ》!」
「ならば……《魔法解除》だ!」
「おのれ……! あと一歩というところで!」

「「ブラック・マジシャン攻撃!」」
 紫のブラック・マジシャンと赤いブラック・マジシャンの杖が交わる。その瞬間互いの攻撃によってブラック・マジシャン達の身が砕かれた。

「「互いのブラック・マジシャンが消滅。───《死者蘇生》!」」

 互いの伏せカード、その最後の1枚は同じものだった。フィールドでは再びブラック・マジシャンが対峙する。
 状況は全く変動しなかった。

「オレのターン、……終了だ。
(手札2→3)

  パンドラ、お前のテクは認めるぜ。お前ほどのデュエリストなら、奇術師としての腕も相当のものだったろうに、なぜマリクの言うがままにグールズのレアハンターなんかに成り下がっている?」

 パンドラの目の色が変わった。そして小さく息を吐いてから、その手をマスクに伸ばして隠していた素顔を遊戯の前に露わにする。
「……この顔を見ろ。」

「!」
「今から数年前、───私は奇術師として絶頂でした。しかしたった1回の脱出トリックの失敗で、奇術師としての名声も、恋人だったカトリーヌの愛も、全て失ってしまった。
  自暴自棄になっていた私は、自分を支えてくれていいたカトリーヌの愛に気付かず、彼女の心を深く傷付けてしまったのです。……失って初めて、カトリーヌの愛の大切さがわかった。しかしもう全てが遅すぎた。

  そんな失意の私のもとに、あの男が現れた。そして約束してくれたのです。
  お前を亡き者にすれば、その千年ロッドの力でカトリーヌの愛を取り戻してくれると……!」

「なぜお前を励ましてくれていた恋人を信頼しなかったんだ。今からでも遅くはない! お前の真心で彼女に訴えれば……」
 遊戯の言葉を遮るように、そして嘲笑も込めてパンドラは鼻で笑って一蹴した。

「フッ…… 所詮子供ですね。あなたに男女の恋愛などまだわからないでしょう。女は時に非情なものだと。」
「……」
 押し黙る遊戯に「それみたことか」とばかりにパンドラがまた口の端を吊り上げる。マスクを顔に戻し、またよく動く眼球をギョロギョロと遊戯に向けた。

「どんなに愛し合ったとしても、世の中はうまくいかないもの。信頼などではなにも成し遂げることはできません。ですが、マリクのお陰でカトリーヌは私の側に戻ってくる……!
  カトリーヌはもうそこに待っています! 2人でフランスへ戻って、もう一度やり直すために」
 パンドラが手を差し伸べた先、カーテンの向こうで座る女の影が映し出される。

「(マリク…… また記憶を操ったのか!)」

「カトリーヌ…… みごと遊戯を葬り去り、今度こそお前をこの腕で抱きしめます。そのためには─── 私が非情になりますよ。フフフフフ……!」



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