今ならオシリスの攻撃力は3000。遊戯のフィールドに出ているバスター・ブレイダーは、フィールド上のドラゴン族1体につき500ポイント攻撃力を上げている。ここで攻撃できればオシリスを倒すことができるが…… この遊戯のターン、鉄檻によってバトルフェイズは封じられている。
 だが次のターンでマリクがカードをドローすれば、オシリスの攻撃力は4000に上がってしまう。

「(どうすれば……!)」

「『どうした? カードをドローすることもできないのかい? フフフ……
  鉄檻によってバトルフェイズは失われるが、モンスターを召喚することも、リバースカードを出すこともできる。まだ悪あがきは出来るはずだろ?

  さぁもっと見せてくれよ。檻の中で踠き苦しむ貴様の姿をな!』」

「(オレは……オレは負けない! 諦めてたまるか!)」
 遊戯はカードをドローした。7枚になった手札を見やり、必ずオシリスを倒す手段があるはずだと、その断片を組み立てて考える。
 檻の中で踠き、その考える顔を見て、マリクは静かに目を細めた。

『(そうだ。考えろ。……もっともっと。考えれば考えるほどわかるはずだ。貴様が勝つ手段など、残されていないことがな)』

「オレは伏せカードを2枚セット! 
  更に《クリボー》(★1・攻/300 守/200)を守備表示で召喚してターン終了だ!」

 遊戯のエンド宣言。それを待っていたかのようにマリクの口の端が釣り上がった。いよいよ鉄檻が消える。遊戯を守っていた鉄檻が、ゆっくりと消えていった。

 遊戯が檻から解放されたとき、オシリスが大きく鳴いた。その圧力に遊戯の体がビリビリと慄く。

 マリクのターン、遊戯はオシリスのいかづちを目にする。

***

 俯いてただ座り込む城之内を、デュエルディスクを付けた何人かが見ては去って行く。その辺を歩いているだけのデュエリストを闘う相手にしようとしない城之内に、本田が眉をしかめた。
「おい、なんでデュエルしねぇんだよ? 早いとこ決めて、決勝進出と行こうぜ」

「そうはいかねぇよ。決勝を決める大事な一戦…… 誰でもいいってわけにはいかねぇんだ。
  オレは遊戯と約束したんだ。このバトルシティで必ず勝ち抜いて、自分の理想とする真のデュエリストになる…… そして遊戯と再び闘おうってな。
  真のデュエリストになるためにはよ、自分より強いヤツと闘わなきゃ意味ねぇんだよ」

「えらい! 己を磨くために、より強い相手と戦う。なんとも見上げた心構えじゃ」
 双六が囃すように褒めるが、それでも諌めるようにすぐ口調を変えた。
「じゃが、本田くんの言うことも最もじゃぞい。決勝進出の枠は決まっておるんじゃ、うかうかして決勝に出られなくては元も子も……」

 ある一点を見つめて立ち上がった城之内に、「ん?」と双六が目を開けてそちらに振り向いた。

「……海馬君!」
 意外な人物がそこに立っていた。杏子が驚いたように口を開けるが、海馬は目を細めて鼻で笑い、辺りを見回す。

「この辺りになまえが居たはずだが…… まさか貴様らに出会すとはな」
「なまえなら、さっきまで一緒だったけど……」
 杏子の返事にあからさまに機嫌を悪くしたように顔を顰めた海馬の目に、城之内の腕につけられたデュエルディスクが止まった。

「馬の骨の貴様がなぜデュエルディスクをつけてるんだ?」
「な、なぜって…… デュエリストだからさ」
「貴様のレベルは、確か2だったはずだが。……フン、まぁそれはいいだろう」
 小馬鹿にしたように薄ら笑いながらレベルを口にする海馬に、城之内の眉が動く。ギリギリと歯軋りする城之内を横目にする事もなく、海馬は背を向けて「行くぞ、モクバ」とだけ言った。

 立ち去ろうとする海馬に、城之内はニッと笑う。
「本田、……やっと相手が見つかったみたいだぜ」

「お、おいっ お前まさか……」
 本田が止めるより先に、城之内は勢いに任せて海馬を追いかける。

「海馬! オレとデュエルしろ!!!」

「マジ?」
「ほ、本気か城之内!」
 これには流石の3人も城之内の無謀な挑戦に呆れた顔をする。海馬が大して顔色を変えるでもなく振り返ると、城之内はノリと勢いだけで海馬を挑発した。

「馬の骨の実力、見せてやるぜ!」

「ハッ! 調子に乗るんじゃないぜ! 兄様にデュエルを申し込むなんて100万年───

「いいだろう」

「……えっ?!」
 モクバの言葉を遮り、海馬は半笑いでデッキを取り出した。
 普段「ザコ」とカテゴライズするデュエリストには見向きもしないはずの海馬が、ここへ来て意外にも城之内相手にやる気を見せた事に驚いて、モクバがデュエルディスクの邪魔にならないよう一歩下がる。
「兄様……」

「フン…… 貴様に神を見せてやる」

「いくぜ海馬!」

 いざデュエルを始めようとディスクを起動するその直前、2人の間に風が吹き荒ぶ。だがその風は一筋の闘気によるものではない。

「キャ……ッ!」
「な、なんだ?!」
ヘリのホバリングによる轟音が頭上に迫り、ビルに乱反射する気流が周囲を巻き上げた。

「兄様!」
 モクバが降りてきたヘリを見て、何かあったと悟る。それに応えるように、海馬の襟の通信機に入電があった。

『瀬人様! 神のカードを持つレアハンターのポイントが判明しました!』

 『どうぞお乗り下さい!』とヘリのスピーカーから促されるまま、縄梯子が海馬の方へ下される。
「クッソー! なんだよあのヘリ!」
 悪態をつく城之内の前で、海馬は縄梯子に足をかけた。

「デュエルは中止だ!」
「な、なにぃ?!」

「運がいいぜ! お前、命拾いしたな!」
 風に煽られながら見上げれば、海馬とモクバは既に上空へ引き上げられた後だった。

「ンだとこのヤロウ! おい! 戻ってきやがれ! 卑怯者〜〜 ……ほぅッ」

 空に消えていくヘリに一頻り喚いたあと、城之内は胸を撫で下ろす。それを後ろで杏子と本田が呆れた目で見ていた。
「あ〜あ、逃げられちまったぜ」
「なに言ってやがる」
「ホッとしてたクセに〜」

***

『デュエルポイントは西350サン・ゴー・マル地点。レアハンターと対戦しているデュエリストは、武藤遊戯です』
「(遊戯! ……お前と闘う相手はこのオレだ!)」

 海馬とモクバを乗せたヘリは、真っ直ぐに西へ進んでいった。



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