遊戯は鉄檻の消えた次のマリクのターン、リバース
罠《光の封殺剣》によって手札を1枚封じ、オシリスの攻撃力を3000に留めて反撃に出たが、永続
罠《ディフェンド・スライム》によってバスター・ブレイダーの攻撃はオシリスに届かなかった。
さらにその瞬間、マリクは永続魔法《生還の宝札》を発動。モンスターが再生されるたびに3枚ドローする効果により、オシリスの天空竜の攻撃力を5000に跳ね上げる。
遊戯はなすすべなくバスター・ブレイダーを撃破され、遊戯の残りライフは2100になっていた。
神を倒す手段が見つからない。手札の数だけ攻撃力を上げるモンスターを前にして、遊戯は手詰まりを感じ始めていた。
「（オレのフィールドには、守備表示のクリボーと伏せカードが1枚。そして、手札の中に起死回生のカードは───……ない。デッキの一番上に眠るカード…… このカードに賭けるしかない！）」
それでもマリクの責める手は止まることを知らない。次の遊戯のターン、オシリスに隠されたもうひとつの能力が呼び覚まされる。
「オレのターン、ドロー！ いくぜ！ 《クリボー》を生け贄に捧げ、《ブラック・マジシャン・ガール》を守備表示で召喚！」
「『新たなモンスターを召喚したな？ この瞬間、オシリスの特殊能力発動！』」
「なに？！」
オシリスのふたつの口……閉ざされていたその口が開き、雷光が光玉となって集約されていく。
「『オシリスは相手のターンで召喚されたモンスターに、2000ポイントのダメージを与える。そのカードが攻撃表示なら攻撃力が、守備表示なら守備力が…… 2000以下のモンスターは瞬殺されるのだ！』」
「しまった、ブラック・マジシャン・ガールの守備力は1700！」
「『ハハハハ！ 行け！ “召雷弾”！』」
ブラック・マジシャン・ガールに神の雷が下される。
「相手のターンでも攻撃が仕掛けられるモンスター……！？」
「『モンスターではない、神だ！！！』」
「───ッ リバースカードオープン！」
召雷弾がブラック・マジシャン・ガールを撃ち抜く。雷光散らばる中でブラック・マジシャン・ガールの悲鳴が上がり、フィールドには土煙が舞う。
「『フフフ…… 魔術師の少女もはかない命だったな』」
「それはどうかな？」
「『なに？』」
土煙が風で飛ばされ始める。遊戯の露わになったフィールドには、3つのシルクハットが現れた。
「
魔法カード《マジカル・シルクハット》！
残念だったな。オシリスが破壊したのはハズレのシルクハットさ！」
マリクは舌打ちをするが、すぐに気を取り直して鼻で笑う。
「『フッ まぁせいぜい頑張りな。足掻くだけムダだけどな！』」
「ライフがひとかけらでも残されている限り、オレは闘う！
フィールドに2枚の伏せカードを出し、ターンエンドだ！」
伏せたカードもシルクハットが取り込んでシャッフルされた。
マリクのターン、ドローしたカードで手札は6枚になり、ルール上手札の上限に達する。しかしマリクの手札には、それをも超越するカードが揃っていた。
「『永続魔法《無限の手札》！ このカードを使えば、手札を無限に持つことができる。フフフ、この意味わかるよな？』」
「……！ オシリスは、無限に攻撃力を上げる！」
「『そしてオシリスの天空竜の攻撃！ 狙いは右のシルクハットだ！』」
マリクの攻撃対象の選択で、遊戯はグッと歯を食いしばった。
「くっ！ ヤツの狙いは的中している……！」
「『フフッ 僕は勘が鋭いんだよ』」
ブラック・マジシャン・ガールが潜むシルクハットにオシリスの雷が迫る。遊戯に残された最後の一手、それに賭けるしか手立ては残されていない。
「『シルクハットごとブラック・マジシャン・ガールを粉砕だ！』」
「リバース
罠発動！ お前が攻撃したシルクハットには、ブラック・マジシャン・ガールと一緒に2枚のカードを隠しておいたんだ！
《
魔法の筒》と《六芒星の呪縛》をな！」
オシリスの攻撃が
魔法の筒に吸収され、ブラック・マジシャン・ガールがそれを撃ち返す。打ち返された攻撃が六芒星の呪縛に縛られたオシリスに向かっていく瞬間を、遊戯の目が追った。
「倒せるか、───神を！」
遊戯の鬼気迫る激情と反対に、マリクの目は冷めて薄ら笑いすら浮かべていた。
「『ムダだよ。言ったろう？ ───神の領域は攻略不可能だと」
オシリスに跳ね返された攻撃の前に、リバイバル・スライムが躍り出てその水の体を弾き飛ばした。蒸発するでもなく、ただ破片となってフィールドに飛び散るスライムの盾…… 遊戯はそれを茫然として見るしかできない。
「跳ね返した攻撃さえも、スライムが盾となるのか……！」
「『リバイバル・スライムが再生した。この瞬間、生還の宝札の効果で3枚ドロー。オシリスの攻撃力3000ポイントアップ！
さらに僕のターン、ドローフェイズで1000ポイントアップだ！』」
さらにマリクのターンになったところで六芒星の呪縛の効果が弾き返される。
「『神に
罠も
魔法は通用しない！ いかなる効果も、神には1ターンで消えるのさ！』」
「攻撃力、9000……！」
六芒星の呪縛を打ち破ったオシリスの天空竜の口が大きく開けられる。強大な力と破壊、その雷光にブラック・マジシャン・ガールが吹き飛ばされた。
「『フッフッフ…… 見てみろ。この場に揃った5枚のカードこそ、究極のコンボ！ 《ゴッド・ファイブ》！！！
完全無欠にして無敵！ 攻略不可能な神の領域が完成したのさ！』」
マリクのフィールドに並んだ《オシリスの天空竜》
守備表示の《リバイバル・スライム》
永続罠《ディフェンド・スライム》
永続魔法《生還の宝札》……そして《無限の手札》
雷鳴のように上げられるオシリスの咆哮。その圧倒的な力の前に、遊戯はついに膝を折った。
「───ッ 勝てない、……」
千年パズルの鎖が金属音を立てて遊戯の首を地に引き寄せる。その重圧のまま遊戯は手をつき、目を閉じた。
「オシリスを倒す手段は……無い……」
「立ち上がれ！ 遊戯！」
突然降りかかった声に遊戯が目を見開く。顔を上げて向いた先…… 堤防の上─── 海馬瀬人とモクバがそこに居た。
「海馬……！」
「貴様はオレが認めた誇り高きデュエリスト。オレの前で無様な敗北を喫するなど断じて許さん！！！
貴様にも見えるはずだ。見果てぬ先まで続く、オレ達のロード……！ 貴様はここで立ち止まるのか？！
行く手に神が立ち塞がるなら、神をなぎ倒していけ！」
「くっ……」
遊戯は膝を立てて再び立ち上がった。目の前にはオシリスの天空竜がその長い肢体を唸らせて立ちはだかっている。
「わかったぜ海馬……！ 待っていろ！
オレは今、神を倒す！！！」
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