「いくぜ! 最後のターン!」

 全ては遊戯のデッキに眠る、たった1枚のカードに掛かっていた。この最後のドローで引き当てなければ、遊戯は敗北する。

 だがこれは、三千年の時を経て導かれた闘いのひとつ。運命によって引き寄せられたデュエルならば、ここで引くカードこそ運命によって手繰り寄せられるはずだと─── 遊戯は意を決して手をデッキに這わせた。

 いま、神が動こうとしている。

「ドロー!!!」


 遊戯の目に引いたカードが入ったとき、遊戯は確信した。
「───オレの勝ちだ!」


「(キーカードを引いたか。……フッ、やはり神のカードは、常に最も誇り高きデュエリストを持ち主に選ぶ)」
 海馬はモクバを制した通り、自らも黙ってそれを見届けた。誇り高き己に相応しい、誇り高きデュエリスト─── 遊戯という、もう1人の神に選ばれたライバルの勝利を。

「いくぜ! リバースカードオープン!《死者蘇生》!
  オレはこのカードで墓場に眠るモンスターを復活させる。《バスター・ブレイダー》攻撃表示!」

『(攻撃表示だと?! オシリスに攻撃を仕掛けてくるというのか。攻撃力11000のオシリスの反撃で、貴様のライフが0になることを承知の上でか?)』

「マリク。オレの手の中にあるキーカード…… コイツが神の究極コンボを超えた、真の無限コンボを完成させるぜ!」
「『真の無限コンボだと?』」
 マリクはなおも嘲笑うように息を吐いた。

「『ハッハッハ! 究極を超えた無限だと? 神の力を超えた無限など存在しない! 貴様がバスター・ブレイダーを蘇生させて事で、僕は生還の宝札の効果により、デッキからさらに3枚ドローさせてもらう。そして…… オシリスの攻撃力は14000になる!』」

「……」
 遊戯はグッと歯を食いしばって耐えた。それを目にしてマリクは遊戯が勝つ見込みがないことに自信を持って目を細める。

「『さらに、バスター・ブレイダーが召喚された事で、オシリスの特殊能力が発動! 《召雷弾》!』」

 オシリスのもう一つの口が開かれ、神の雷がバスター・ブレイダーを襲う。苦しみながらも耐えるバスター・ブレイダーに、遊戯は手を握り締めた。
「(耐えろ、バスター・ブレイダー! お前の攻撃力は3100。2000ポイントのダメージを受けても、やられはしない!)」

 煙を上げて満身創痍となったバスター・ブレイダーの攻撃力が1100にまで落ちる。もう後がないその状態でも、まだ虚勢を張る遊戯にマリクは訝しんだ。

「(神の無限の力…… その幻想を打ち砕け、遊戯!)」

「いくぜ! オレのバトルフェイズ! バスター・ブレイダーで攻撃!」
「『フン、何を狙っているか知らないが、そんなモンスター如きで神に触れる事すらできない。永続トラップ《ディフェンド・スライム》発動!
  リバイバル・スライムよ、神の盾となれ!!!』」

 バスター・ブレイダーの竜破壊の件ドラゴンバスター・ブレードの一閃、それをリバイバル・スライムが受け止めて、スライムの破片が辺りに飛び散った。

 もしディフェンド・スライムの効果がなければ、逆にオシリスの反撃で遊戯は敗北していた。だがマリクは敢えてディフェンド・スライムのカードをそのままにした。遊戯如きに剣の一太刀どころか、指一本触れさせない。その高慢故のプレイング─── それこそが弱点だとも知らずに。

「リバイバル・スライムが、オシリスへの攻撃の盾になる事は、あらかじめ承知のうえさ。そして─── この瞬間を待ってたぜ。
  これがオレの切り札だ! 魔法カード《ブレイン・コントロール》!!!」

「『ブレイン・コントロール?! フン、残念だが神に洗脳は通用しない。オシリスの攻撃で終わりだ遊戯!』」

「待てよ、誰がオシリスを洗脳すると言った?
  オレがこのターンで効果の対象に選んだのは…… 《リバイバル・スライム》! コイツをオレのフィールドに再生召喚するぜ!」

 バスター・ブレイダーの攻撃により散らばっていた、リバイバル・スライムの破片が集まり始める。そして、遊戯のフィールドにリバイバル・スライムが再生召喚された。

「さあ、モンスターが再生召喚されたぜ、マリク。永続魔法、生還の宝札により、デッキからカードを3枚引きな!」
「『なにか企んでいるんだろうが、この期に及んでさらにオシリスの攻撃力を上げてくれるとはね! オシリスの反撃───!』」

「慌てるなよ。お前のオシリスがオレに攻撃する前に、オレのフィールドでリバイバル・スライムが再生召喚されたよな?

  したがって、リバイバル・スライムにオシリスの特殊能力が発動する。」

 マリクの意思に関係なく、オシリスのもう一つの口が開かれると、リバイバル・スライムは爆殺された。……破片を散らばすだけで。

「───するとどうなるか?」
「『リバイバル・スライムが…… また再生する……
  ───しまった!』」

 マリクは漸く理解に及んだ。再生召喚された事でデッキから3枚ドローさせられ、再びオシリスの特殊能力が発動し、リバイバル・スライムを破壊。そして再生…… カードを3枚引かされて、またオシリスの攻撃、破壊……再生の繰り返し。

「『まさに無限ループ……! こ、こんなことが……!』」

 デッキからカードを引かされ続けた人形の手が、ついに引くべきカードのないデッキホルダーの上で指を滑らすだけとなる。

「デッキからカードを引けなくなった者は、ゲームを続けることが出来ない。マリク、お前は言ったよな? 手札が無限に増えていくことによって、オシリスは無限に攻撃力を上げていくと」

 人形の手から持ち切れなくなった手札がこぼれ落ちる。無残に散らばるカードに呼応するように、強大になりすぎたオシリスが支え切れなくなった肢体を地に落とした。

「───だがソイツは違うぜ。神の力は無限じゃない。デッキの枚数という、“限界”があったのさ!

  オレの勝ちだ! マリク!!!」



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