「ハハハハハハ! 見たか遊戯、神の力を!!!」


 海馬は3体のブルーアイズを生け贄に《オベリスクの巨神兵》を召喚した。そして《ダイヤモンド・ドラゴン》《ロード・オブ・ドラゴン》を生け贄に、オベリスクの特殊効果《ゴッド・ハンド・クラッシャー》を発動。聖なるバリア -ミラーフォース-の効果も跳ね除けて、海馬のオベリスクが2人のレアハンターを一撃で沈めた。

 高笑いを堪えきれない海馬に、遊戯も驚きを隠せず目を見張る。
「(これが海馬の神のカード…… 《オベリスクの巨神兵》!)」

 相手のライフが尽きたことでデュエルは呆気なく終了した。遊戯が小男の方に駆け寄って胸ぐらを掴み引き寄せ、「城之内君はどこだ?!」と声を荒げるが、どちらの男も起きる様子はなかった。
 海馬は淡々とデュエルディスクからパズルカードを抜き取る。

「フン…… 雑魚でもパズルカードは持っていたか。遊戯、これはお前の分だ」

 投げて寄越されたパズルカードを受け取りはしたが、遊戯はまるで興味ないように乱雑にポケットに突っ込むだけで立ち上がる。

「海馬、今は城之内君だ!」
「待て」
「くどいぞ海馬!」
 そう言ってまた走り去ろうとする遊戯を海馬が呼び止める。苛立たしげに振り返る遊戯を待っていたのは、海馬の意外な言葉だった。

「我が社のシステムが、城之内の居場所を既に探知している」
「……! 海馬」

「だが、ヤツを救ったなら覚悟を決めろ。その場でオレとお前、決着の時だ!」

***

「(遊戯のオシリスに、海馬のオベリスクか…… 面白い。だがすぐに2枚の神のカードは僕が奪い返す)」

 2人のグールズの目線から、マリクは海馬の持つオベリスクの姿を垣間見ていた。バイクで街を駆け抜けながら不敵に笑うマリク。そしてその腰にある千年ロッド───

***

「(この反応!)」

 いち早く反応したのは獏良だった。千年リングの指し示す方へ振り向いても、まだ距離があるのかその全容は目で捉えることができない。
「(……これはキースを操っていた闇の力。ソイツがここに向かっているのか)」

 千年リングを下げた紐を握りしめて獏良はまだ見ぬ敵……千年アイテムの所持者を見据えた。そして小さく笑うと、手を下ろして千年リング自体に指を這わせる。

「(フフフ…… このバトルシティ、思わぬところでオレ様の野望に役立つぜ)」

***

 マリクにはもうひとつの視線があった。童実野水族館、大きな水槽の真ん中でデュエルを繰り広げる梶木漁太の相手─── 城之内克也の姿。それはシャチやイルカのショーのためのプールサイドの客席に配置した何人もの配下の目線によるものだった。
 マリクもそのあたりへ向けてバイクを走らせている。

 クルーザーを寄港させる前に海沿いで見つけたデュエルクイーン、あの記憶の石盤に記された王女の姿…… みょうじなまえ。あの女にはリシドを差し向けた。マリクが城之内を捕らえる頃には、リシドもなまえを捕らえているだろう。

「(フッフッフ…… 遊戯、いま貴様の大切なものを手駒にして、地獄の苦しみを与えてやる。そして海馬、お前にも神のカードを手にした罰を僕が下してやるさ)」

 マリクのバイクが脇道に入ったところで、突然その行く手を塞ぐ者が現れた。
 ブレーキをかけて前輪を持ち上げ、後輪だけでスリップさせたまま男のすぐ手前でバイクを停車させる。明らかに邪魔をしてきたその男にマリクは千年ロッドを取り出してバイクを降りた。

「何者だ」

 その問いに立ち塞がった男─── 獏良は千年リングを見せた。そして腕を組み直すと、千年ロッドに目を向ける。
「千年リング……!」

「お前の持ってる千年アイテムを渡してもらおうか。……オレの計画を邪魔するなら消すぜ?」
「フフフ…… 集めているのか、千年アイテムを。なんの目的で?」
 獏良の脅しにも顔色一つ変えず、マリクは小馬鹿にしたように笑った。

「決まってるだろ。エジプトの隠し神殿にある、冥界の力を封じた石盤…… それに7つの千年アイテムを納めるとき、闇の扉が開かれる。
  そこに封印された、邪悪なる力を手に入れるためだ」

「(コイツ、墓守の一族しか知らない事実をなぜ……)」
 マリクの顔にやっと変化が表れた。だが自分でそれを払拭するかのように、マリクは小さく鼻で笑う。

「(だが、7つの千年アイテムだけでは闇の扉を開けることはできない。……そこまで知っているはずがない。その秘密は、僕の背中に刻まれた碑文にのみ残されているんだからな。フフ、)」
 獏良を簡単に値踏みしていた。情報アドバンテージは自分にあると考えたのだ。

「僕の名はマリク」
「獏良だ」
「獏良、僕は千年アイテムなどに、なんの興味もない。僕の目的は─── 名も無きファラオの命だけだ。ヤツを葬りさえすれば、この千年ロッドなど僕にとってはガラクタ同然」

「(コイツ……)」
 獏良の目が細められた。何を考えているのかを探るような目が、互いを見定め続ける。

「条件を出そう。遊戯を始末する手助けをするなら、全てが終わったあとにコイツをくれてやる。」

「オレ様は大人しく千年アイテムを渡せと言ったはずだ」

 苛立って口端が震える獏良を横目に、マリクは千年ロッドを持ち替えてはチラチラと見せびらかす。
「フフフ、……僕にもいろいろ事情があってね。遊戯を始末するまではコイツを手放すわけにはいかないんだ」

 獏良は思わず舌打ちをした。
「(千年ロッド……コイツは封印を解く鍵のひとつ。何としても手中に収めておきてぇ物だ。ここで逃す手はねぇ……)」
 妥協する、という考えが獏良の中で圧倒的な選択肢となっていた。目の前のマリクという男は心底気に入らないが、千年アイテムの中でも重要なキーパーツを所持しているからこそ、獏良には看過できない。
 獏良は目的のために手段を選んではいられないと初めて己を曲げ、もう一度舌打ちをし、両手を上げて降参のようなポーズをマリクに見せた。

「やめだやめだ」
「フッ どうした?」
 あまりにも呆気なく降りた獏良にマリクが嘲笑を浮かべる。一々気に障っていたら間がもたないと獏良は諦めて続けた。

「貴様とやり合うつもりねぇ。……オレたちの目的は一致しているからな。」

 「だろ?」と目を向ければ、マリクも満足そうに口端を上げて同意した。
「フフ、賢明な判断だね」
 今はそうしてアドバンテージを取っているように思っていろ、と心の中で悪態をつく。

「遊戯を追い詰めるなら、ヤツの仲間に近付くのがいちばん手っ取り早い。だからオレはこうしてチャンスを狙っている」
「もちろん僕もそうするつもりさ。この千年ロッドの力で。」
「だが、ヤツらの結束は固い。迂闊にそれは崩せねぇぜ。たとえ千年アイテムを用いたとしてもな。」
 早々に否定されてまぶたをピクリと動かしたマリクに、獏良はフッと笑った。
「その点オレには、既に獏良という宿主って便利なもんがある」
「宿主? フフフ、それは面白いね」
 獏良とマリクは互いに
目を合わせ、その目を細め合った。

「(フッ…… コイツ、)」
「(利用できる……!)」

***

「了解した」
 襟の通信機から指を離すと、高い電子音と共に音声が途絶える。海馬は横を歩く遊戯を見下ろすと、淡々と口を開いた。

「貴様のお友達は童実野水族館だ。たった今、城之内は梶木漁太というヤツとのデュエルをしているところらしい」
「そうか、城之内君は梶木と…… すまないな、海馬」
 遊戯からの意外な言葉に海馬は正面へと視線を戻す。童実野町の繁華街とも言える賑やかな通りを並び歩く様がショーウィンドウに映り、それを目にするに憫笑すら浮かぶ。

「フン、勘違いするな。オレはあんな馬の骨に興味などない。早く貴様の持つ神のカードを奪いたいだけだ」
「それはマリクがなまえをも狙っていると知った上で、お前はオレについて来たのか」
 足を止めた遊戯に海馬は目だけを向ける。そしてまた鼻で笑うと、忌々しそうに眉間をしかめた。

「貴様はなまえの何だ? 遊戯、一度オレに任せたのなら、もう貴様にオレのやり方に口を出す資格は無い。それとも行き先を変えてなまえを探しに行くか? まぁその方がオレにとっては好都合。馬の骨一本に労力を割くほうが屈辱的だからな」
「海馬、これだけは言っておく。城之内君は立派なデュエリストだ。侮辱はオレが許さないぜ」

「フッ…… 理解に苦しむな」



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