遊戯に迫る《マスクド・ヘルレイザー》のダイレクト・アタックの一閃。目を閉じて身構えたその瞬間、遊戯の前に滑り込む影にその攻撃が当たった。

「───なに?!」
 攻撃宣言をした闇の仮面の手がまたもや止まる。
 遊戯を守った大きな影……その《ミノタウルス》に遊戯は海馬へ顔を向けた。

「フフフ…… タッグデュエル・ルールでは、味方プレイヤーへの直接攻撃に対し、タッグパートナーは自分のモンスターを身代わりにできる。……忘れたか?」

「くっ、チームワークがないと思われていたこの2人が……!」
 だがこれで遊戯のフィールドに留まらず、海馬のフィールドにまで守備モンスターが居なくなってしまった。焦る必要はないと闇の仮面も光の仮面も「ぐぬぬ……」と堪える。

「海馬───……」
「フン、さっきのクリボーの借りはこれで返した。これで貸し借りは無しだ。」
「……あぁ、いくぜ海馬!」
 遊戯はデュエルディスクに手を差し向けた。そして小さく笑う。

「リバースカードオープン! 《手札抹殺》!」

「なに?!」
「手札抹殺だと?!」

「全てのプレイヤーは、手札を捨てなければならない!」
 遊戯が手札を全て墓地へ捨てて、デッキからカードを引き直す。海馬も手札を墓地へ入れた。

「オレの手札も全て墓地に捨てる。
  ……上級モンスターを召喚するには生け贄が必要。だがこの状況で、生け贄無しにフィールドに出す方法がひとつだけある。」

 「あ……」と開いた口を塞ぐことの出来ない闇の仮面に構うことなく、海馬はデッキに手を向けた。

「オレのターン! リバースカードオープン!《死者蘇生》!」

 神々しいまでに輝く肢体が咆哮を上げて蘇る。眩むほどの閃光にも関わらず、2人の仮面の男は驚愕に満ちた顔を覆うことすらできずに真っ直ぐそれを見た。

「手札抹殺によって墓地に置かれたブルーアイズを生還させる!」
「「ブルーアイズ……!」」
「海馬!」

青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン、召喚!」

***

「なんとかここから出られないかな。そしたら海馬コーポレーションの力で、グールズなんかブッ潰してやるのに」

 壁に背をもたれて3人は座り込んでいた。どこか心細そうに呟くモクバに、なまえは慰めるように肩を抱いて寄せる。杏子もため息を漏らすが、ふと顔を見上げて天井に開いている天窓に注目した。

「ねぇ、もしかしたら……モクバ君ならできるかもしれない」

「え?」

***

「(海馬……! ついに結束の意味をわかってくれたのか)」

 遊戯が感心したように息をつく。思いがけないブルーアイズの召喚に、光の仮面と闇の仮面は歯軋りしてワナワナと震える。
「(クッソー、まさか奴らが共謀し、手札抹殺と死者蘇生のリバースコンボを仕掛けてくるとは!)」
「(遊戯と海馬。奴らにチームワークなど存在するはずは……)」

「フッフッフ、理解したぞ遊戯。タッグマッチにおいて勝利を得るために、なにが必要なのかをな」
 ブルーアイズがフィールドに出たことで、海馬はどこまでも得意げに鼻で笑った。遊戯はついに海馬が結束の意志を見せてくれたものとひと心地つくところだったが、それを足蹴にでもするように海馬は冷笑を浮かべる。

「───それは、パートナーとなる人間をいかに利用するかだ。オレの最上級モンスターをフィールドに出すために、貴様は手札抹殺のお膳立てをしてくれたワケだ。……オレの思惑通りにな。

  それを貴様は“結束”などという下らんものと勘違いしているわけだ。実におめでたいヤツよ」
「な……」

「既に借りは返した。遊戯。次に奴らが攻撃してきた時、オレ様のブルーアイズに助けてもらおうなどと考えない事だな」

 「フハハハ!」と笑う海馬に、顔をしかめる遊戯。それを前にして闇の仮面は安心してフッと笑った。
「(フフッ やはり奴らにチームワークなど皆無!)」
 さらに光の仮面も続ける。
「海馬、お前のバトルフェイズだかんな。青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴンを召喚したところで、俺達の《仮面魔獣 マスクド・ヘルレイザー》は攻撃力3200ポイント。ブルーアイズでは返り討ちがオチだかんな」

「攻撃しろ、海馬!」
「なに?!」
 明らかな数値上の不利にも関わらず遊戯は海馬を焚きつけた。
「今ならブルーアイズで仮面魔獣は倒せる」
 真っ直ぐに目を向けて言い切る遊戯に、海馬はたじろいだ。目の前の《仮面魔獣 マスクド・ヘルレイザー》の攻撃力はブルーアイズを200ポイント上回っている。返り討ちも覚悟で攻撃するか、次のターンで奴らから蹴散らされるか…… それを選べと言うのだ。

「オレの言葉を信じるか、……それともこのターン、せっかく生還してブルーアイズがすごすご引き下がるか。」

「くっ…… フン、面白い。貴様からそんな言葉を聞くとは思わなかったぞ。オレは引き下がらない!!!」
 海馬の気性を知っての上でそんな物言いをしたのだと、海馬自身気が付いていた。海馬はブルーアイズの攻撃宣言をした。

「なに…… バカな?!」

 ブルーアイズの攻撃は、遊戯の言う通り仮面魔獣を粉砕した。攻撃宣言をした海馬までもが、意外な結果に目を見開く。
「なぜだ…… なぜ仮面魔獣が!」
 今度こそ驚愕に口を閉じることができない光の仮面と闇の仮面を前に、遊戯は不敵に笑った。

「オレは手札抹殺によって、すべての手札を墓地に置いた。その中には、墓地に置くことで特殊能力を発動させるモンスターカードがあったのさ!」
 遊戯は墓地から《暗黒魔族ギルファー・デーモン》を取り出して見せた。

「《暗黒魔族ギルファー・デーモン》は、墓地に送られたときフィールド上のモンスター1体の攻撃力を500ポイント下げることが出来る」

「(遊戯は、オレのブルーアイズを蘇生させると同時に敵モンスターを倒す秘策を立てていたというのか……?! そこまで計算して手札抹殺を───)」
 海馬の前髪に隠された額に冷や汗が浮かぶ。デュエリストとして宿命のライバルと決めた1人─── その遊戯が、自分の考えをも上回るタクティクスを発揮した事に、タッグパートナーと言えども海馬はライバル心を燃やさざるを得ない。

「海馬」
 遊戯の紫色の瞳が静かに海馬を射抜く。

「これが結束の力だ」
「……!」



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