「クソッ 俺のターンだかんな」
 一頻り言い合いを終えたわけではないが、光の仮面はデュエルを再開した。ドローしたカードは《強欲な壺》。そのまま発動させて2枚ドローすると、引き当てたカードに眉を動かした。
「(このカードは……!)」
 チラリと海馬のフィールドに目を向ける。ブルーアイズがいる限り、自分たちの不利な状況は続く。

「(コイツで賭けに出るしかないかんな)」
 引いた2枚のカードに目を戻すと、光の仮面は意を決して場に出した。

魔法マジックカード《選ばれし者》、発動!」

「なに……! あのカードは」
 遊戯が身構えるが、海馬は冷静に発動のための手札枚数が足りない事を見抜いていた。だがそれを覆すように、光の仮面はもう一枚のカードを発動する。

「さらにチェーンして《手札交換》を発動すっかんな!
  この魔法マジックカードは、自分と相手の手札を全て交換することができる! タッグの場合はもちろん、タッグパートナーともな!」

 これで光の仮面の出した《選ばれし者》の発動条件が揃った。闇の仮面の3枚の手札がリバースで出され、仮面の駒がその内の1枚を選び出し、それがモンスターカードならば無条件でフィールドに出すことが出来る。
「なるほどそういうわけか。……召喚に失敗したら、タダでは済まさんぞ」
 ギスギスした空気が尾をひいてはいるが、光の仮面は構わずカード効果を発動させた。

「いくぞ! 仮面の駒回転!」

「(この方法なら1ターンで上級レベルモンスターを召喚できる!)」
 遊戯と海馬に緊張が走る。
「(3枚のうち2枚はマジックカード。そして当たりは─── 俺たちのデッキの中の最強モンスターだ!)」

 ゆっくりと回転速度が落ち始める。仮面が1枚を選び、そのカードが表になる瞬間を、全員が固唾を飲んで見守った。

「選ばれた…… カードは……?」

 そう溢した光の仮面の声が歓喜に満ちるのはそのすぐ後。「やった! 俺は運がいいぞ!」そう高笑いする目の前で、選ばれたカードからモンスターが召喚された。

「《仮面魔獣 デス・ガーディウス》(★8・攻/3300 守/2500)!」

「仮面魔獣デス・ガーディウス?!」
「(攻撃力3300、オレのブルーアイズを上回るだと?!)」

「よし! やはりお前は最高のパートナーだ!」
 驚愕に満ちた遊戯と海馬を前に、機嫌を直した闇の仮面が光の仮面を激励する。それに気を良くした光の仮面もニッと笑って闇の仮面に振り向いた。
「フフフ 俺を信じてりゃ負けることは無いかんな! これでわかったろ!」

 遊戯は眼前に現れた強力なモンスターよりも、結束を取り戻した2人の仮面の男に脅威を感じていた。
「(ヤツの賭けは、崩れかけた互いの信頼の回復をも勝ち得たのか!)」
「(仮面魔獣にはブルーアイズでさえ歯が立たない。どうすれば……!)」
 焦りに顔を顰める海馬の額に冷や汗が流れる。遊戯は自分を落ち着かせながらも、ほんの一度だけ手札に目を落とした。
「(オレの手札には、たったひとつだけ手が残されている。……しかし今オレが攻撃を受けたら───!)」

「さぁて、デス・ガーディウスでどっちを攻撃するか」

 力を手にした光の仮面の、なぶるような声が2人に降りかかる。遊戯を攻撃して脱落を1人出すか、それとも煩いブルーアイズを先に消しておくか。
 不気味な笑い声が地を這い、2人の足元に絡み付いた。

***

「へぇ、なかなか粋なサブデッキを持ってたんだね」

 クルーザーの停泊するドライドック。暗い目でぼうっと佇むなまえを前に、マリクはなまえのポケットに入っていたサブデッキパーツを手の中に広げて笑う。
 魔導書デッキはモクバに預けてしまっているが、なまえは神のカードに対抗できるデッキも組んで持っていた。40枚に満たないところを見ると、大会中に組み替えるつもりだったのだろう。

「(まぁ、僕のラーの翼神竜の前では、無駄だけどね……)」

 フフ、と笑うマリクに、城之内と杏子を連れて戻ってきたリシドが頭を下げた。
「リシド、グールズで複製したカードを用意しろ。この女のカード…… なかなか使えそうだよ。僕が組み替えてオベリスク抹殺デッキに仕立てる。
  そうだ…… 城之内のデッキも強化しよう。禁止カードを積み込んだバーンデッキがいい。遊戯を痛ぶり、限界まで追い込めるだけのね。フフフフ……」
 リシドは「はい、マリク様」とだけ返事をしてその場を後にする。背を向けるほんの一瞬、人形のように立ち尽くすなまえをチラリとだけ見た。

「……」
 同じように意思もなく立ち尽くす城之内と杏子を横切り、リシドはクルーザーの中へ入っていく。ウッドデッキを一歩一歩踏み締めるごとに、船体が緩やかに揺れた。

 あの女─── なまえという人物に興味はないが、どこか目をひくものが彼女にあった。少なくとも、リシドはそう感じている。
 デュエリストとして強者らしい風格か、クイーンらしい態度か? ……そうではない。なにか、もっと根本的なもの───

 スーツケースのひとつを開けると、大量に並べられたカードがリシドを待ち構えていた。いくつかの束を取り上げると、ケースを閉じてキャビンを後にする。
 まだガコガコとウッドデッキを鳴らしてデッキを進むと、スターンからドックの桟橋へと渡ってマリクの方へ戻って行った。

***

遊戯(LP:1500)
海馬(LP:2100)

 遊戯のフィールドに出ている攻撃表示の磁石の戦士αマグネット・ウォーリアー・アルファを仮面魔獣で攻撃すれば、遊戯は1900ポイントのダメージを受け、即ち死が待っている。
「だが2人とも葬らねば、タッグデュエルとしてはまだ勝利にはならん。遊戯を葬ったはいいが海馬のブルーアイズを残しておいたのでは厄介な事になるぞ」
 諫める闇の仮面にも耳を貸さず、光の仮面の視線は遊戯から離されない。
「いや、遊戯を倒す!」

「フン、小心者め」

 その視線を海馬に向けさせたのは、他でもない海馬本人だった。小馬鹿にしたように薄ら笑うと、腕を組んで見下したように光の仮面を焚きつける。
「たかが攻撃力3300のモンスターくらいでよく強気にでたな。フフフ…… まぁ遊戯を倒すならありがたい。次のターンでブルーアイズが貴様らにのモンスターを破壊してくれるわ」

 余りにあからさまな挑発に、遊戯が驚いて目を見張る。
「(海馬…… まさかお前、ブルーアイズを囮りに?!)」

 フン、と自信に満ちた海馬の目に、光の画面の決定意思が揺らぐ。確かに遊戯のモンスターは四つ星。いつでも倒せるうえ、次の遊戯のターンで呪魂の仮面と魔力吸収の仮面の効果により1000ポイントのダメージを受ける。

「やはりこのターンは─── ブルーアイズを破壊する!」

 仮面魔獣デス・ガーディウスの攻撃がブルーアイズを砕く。同時に光の仮面の高笑いが海馬の耳を引っ掻いた。
「ヒャーッハッハ ブルーアイズ木っ端微塵!」

海馬(LP:1900)

 海馬は自分のライフよりも、囮りにしてしまったブルーアイズへの贖罪に目を閉じる。
「(許せ、ブルーアイズ……)」
 だがこれで遊戯のターンがやって来た。海馬はすぐに己を奮い立たせて顔を上げた。

「遊戯、お前のターンだ!」
「あぁ!」

 2枚の仮面カードの効果により、遊戯のライフが1000ポイント削られる。
遊戯(LP:500)
 ドローしたカードを手札に加えると、闘士に満ちた紫色の瞳が煌めいた。

「海馬よ、ブルーアイズの魂…… このカードが受け継ぐぜ!!!」



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