遊戯たちの前には、屈強な体格にそれぞれオレンジとグリーンの中華服を着たスキンヘッドの2人の男が立ちはだかっていた。
「我ら」
「地下ダンジョンの番人」
「「迷宮兄弟!!」」

「迷宮兄弟?」
「なんだそりゃ?香港映画か?」

 本田と城之内は、2人の派手な登場を呆れたような顔で見ていた。だが遊戯は、2人の腕に装着されたグローブにすぐ気付く。
「(スターチップ!プレイヤーキラーなのか?!)」

「おやおや、この地下迷宮に迷い人とは珍しい。」
「いやいや、迷い人なくば迷宮にあらず。」
 迷宮兄弟は口々に遊戯たちの否応なく話を進める。
「迷い人達よ!我に問うか。正しき道を!」
「正しき道を!」
「ならば」「その答え」
「「デュエルに勝利して得よ!!」」

 迷宮兄弟は、通常よりも広いデュエルリンクとその先にある2つの扉を指し示す。
「なおこのデュエル、2対2の変則マッチとする。」
「デュエリスト2名、前に出よ。」

「2対2?」
「タッグマッチか。」
 漠良と城之内は 揃って遊戯を見る。
「気をつけろ。罠かもしれないぜ。」
 警戒する本田を尻目に、迷宮兄弟は不敵に笑って遊戯と城之内を挑発する。

 遊戯は闇の人格の遊戯と入れ替わり、迷宮兄弟を鋭い視線で見据えた。

「城之内くん、このデュエル、受けるしか道はなさそうだぜ!」
「おう!望むところよ!」

 ***

 城之内は2個、遊戯は4個の計6個のスターチップを賭けてそのデュエルは始まった。これに勝てば2人ともペガサス城へ行く権利を得る事となる。
 だがその迷宮兄弟のデュエルは、今迄のデュエルとはかなり異なっていた。弟である宮からターンは進行したが、彼は“ラビリンス・ウォール”のカードを出して そのフィールド全域に迷路のような壁を出現させたのだ。

「私のターンが終了したところで、改めてルールの説明をしよう。各プレイヤーのライフは通常通り2000点。だがタッグパートナーのどちらかがライフポイントを失った時点でそのチームの敗北が決まる。」

「(クソ…俺1人が負けただけで遊戯まで失格になっちまうのか…!)」
 城之内はチラリと遊戯を見たが、遊戯はすぐその視線に気が付いて、“大丈夫だ”といったような目で頷く。

「ターン交代は各チーム1人ずつ交代で行う。さて次は迷宮フィールドだが、その攻略法を教えよう。」
 遊戯と城之内は、目の前に広がる迷路となったフィールドを見下ろした。迷宮兄弟はそれを不敵に笑うだけである。
「このデュエルで場に出されたモンスターは いわばチェスの駒のようなもの。カードが攻撃表示ならば、モンスターはレベルの星の数だけフィールドのマスを進められるのだ。」
「無論バトルに敗れればこの迷宮を抜けられはしない。見事我らに勝利し迷路を抜ける事が出来たとき、2つの扉のどちらかを開く事が出来るのだ!」
「どちらの扉を目指そうとそれはお前達の自由。正解と思う扉に進むがよい。」

 つまり、デュエルに勝利しても2つある扉からさらに正解となる扉を選べなければ、外には出られないと言う。交互口々に話をする迷宮兄弟に、城之内は「ちょっと待て!」と遮った。
「やいやい、テメェら汚ねぇぞ!こっちは命が掛かってんだ!どっちの扉が本物の扉かヒントくらい言いやがれ!」
 迷宮兄弟は城之内から目を逸らしてお互いを見てまた不敵に笑い合うと、また顔を城之内達に戻した。

「「よかろう、」」
「では今から我らのどちらかが本当の事を言い」
「どちらかが嘘しか言わない事とする」

 迷宮兄弟の言葉に、外野で見ていた杏子が「え?!」と口にした。

 ***

「おやおや」
 ペガサスはモニタリングの画面を見ながら、ワイングラスを傾けた。モニターには遊戯の顔が映されている。

「遊戯ボーイ、この程度の揺さぶりで そんな怖い顔をしてはいけまセ〜ン。」
 ペガサスはこれから始まるデュエルを楽しそうに眺めていた。

 ***

「おい」
 遊戯は変わらず鋭い目で迷宮兄弟を射止めていた。
「今の言葉に嘘はないんだろう?」
 すると弟である宮の方だけが遊戯の言葉に返した。
「ない。本当だ。」

 そして兄弟はまた口々に話しだす。
「さて…本物の扉は、私の「迷」の扉だ。」
「いやいや…私の「宮」の扉だ。」

「(一体どっちが本当の事を言ってるんだ?)」

 ***

 なまえは海馬の姿を捉えた方へ進んでいた。だが森に阻まれ思うように彼を見つける事ができない。
 木の根に覚束ない足取りの中をそれでも走っていたが、そろそろ息切れも限界で一旦その足を歩みに戻した。耳には森の騒めきと、自分の荒い息の音だけが響く。
 少し咳をしながらも足だけは止めなかった。
「海馬…」

「動くな」

 突然背後からの低い声に心臓が跳ね上げた。
 ピタリとその足を止めると、誰かが近寄ってきて後頭部に冷たい銃口が突きつけられる。
 なまえは両の手を軽く上げて振り返ると、其処には猿渡が居た。

「あなたは…」
 なまえの脳裏に、モクバを捕らえ偽物の海馬を寄越してきたこの猿渡がよぎる。
 猿渡は銃口をなまえの額に当てたまま、有利な立場を鑑みた笑いを口元に浮かべる。
「大人しくしてもらおうか。」
 なまえは身体から魔術師達の気配を感じたが、気持ちを落ち着かせて彼らが現れるのを止めさせる。
「…どうしようって言うの?」
 なまえは冷や汗を一筋流す。猿渡が銃で後ろを向くように指図するので なまえは大人しくそのまま後ろを向くと、猿渡はそのまま空いた方の手で彼女の手を背中に回した。
「痛っ…!」
「大人しく付いて来い。」

 ***

 遊戯は“ルイーズ”を出して4マス進めたが、兄である迷の方が 場に出ている“ラビリンス・ウォール” へ、“融合” “シャドウ・グール”のカード使い、マス進行をすると来なくルイーズを撃破した。
 もちろん城之内がそれに反発する。
「オイ!テメェら汚ねぇぞ!そんなのアリかよ」
「これは異な事を。“ウォール・シャドウ”が異動したのはマスにあらず 壁だ。」
「しかり。壁にマスは存在しない。」

「(“ウォール・シャドウ”…迷宮の壁を縦横無尽に異動して一撃必殺の刃で確実に相手を仕留める。コイツは強敵だぜ…!)」

 城之内は“アックス・レイダー”を召喚し、カードを一枚伏せる。
 宮の方がカードを一枚伏せ、“迷宮の魔戦車”を攻撃表示で出して7マス進行させた。
「(フフフ、…これでおぬしらの迷宮脱出は不可能。)」

「俺は“エルフの剣士”を攻撃表示!迷宮を進むぜ、4マスだ!」

 それを迷の方が「待っていた」と言わんばかりにターン宣言する。
「愚かな!私のターン “ウォール・シャドウ”攻撃! 標的は“エルフの剣士”!」
 壁からシャドウグールが飛び出してエルフの剣士へその刃で飛びかかろうとした瞬間だった。
「フッ、かかったな。」
「なに?!」

 飛び出したシャドウグールに鎖が飛び付いて仕留めた。城之内は伏せていたカードを捲って効果を発動していたのだ。
「見たか!“鎖付きブーメラン”だ!」
 城之内のカードが“エルフの剣士”を寸での所で守ったのだ。

「ば、馬鹿な!シャドウグールが捕獲された!」
 迷宮兄弟は見るからに焦った。だが城之内と遊戯は止まらない。
「遊戯を援護するための罠カードだぜ!そして“エルフの剣士”の攻撃力が500ポイントアップする!シャドウグールを上回ったぜ!」
 城之内は遊戯に目配せすると、遊戯も頷いた。

「いけ!エルフの剣士!」

 シャドウグールがエルフの剣士に撃破されると、外野で見ていた杏子が歓声をあげる。
「やった!」
「うん、いいコンビネーションが生まれつつあるよ。」
 獏良も感心してそれを見ていた。

「(城之内…お前本当に強くなったな。)」
 本田だけは、城之内から目を離さずにいた。

「ま、まだまだデュエルは始まったばかり!」
「左様!デュエル続行!」
 迷宮兄弟に焦りが見え始めていた。だが遊戯と城之内は屈せず、勢いに乗り始めている。

「ヘッ、俺たちが最強のタッグチームだって事を思い知らせてやる!いくぜ遊戯!」
「あぁ!俺たちは勝つ!結束の力で!」

 ***

「ファンタスティ〜ック!素晴らしいデ〜ス!この後がとても楽しみデ〜ス。」
 モニターを通してペガサスは遊戯と城之内の結束を賛美していた。
 だがそこへクロケッツが部屋に入ってくる。

「失礼します。…海馬瀬人の捜索の件ですが」
 クロケッツの言葉を察したのか、それを遮ってペガサスはモニターから身体をクロケッツに向けた。
「その様子ではまだ見つかってないようデスね」
「申し訳ございません、現在鋭意捜索中ですので今しばらくお待ちください。」
「フフフ、…かまいませ〜ン。遅かれ早かれ海馬ボーイはここにやってきマ〜ス。必ずね。」

 クロケッツの後ろの扉から、騒がしい声が近寄って来るのにペガサスが目を向けた。
 クロケッツは「それと…」と口にして扉を開ける。

「ちょっと!痛いってば!離しなさいこの……!キャッ!!!」
 突然扉が開き手を離され、なまえは床へ無残にも倒された。

「みょうじなまえを確保しました。」
 クロケッツがドアノブに手をやったまま顔だけペガサスに向けて言う。なまえは「痛たた…」と言いながら起き上がると、舌打ちをして猿渡を睨みつけた。
「ワ〜〜オ。レディに乱暴は あまり感心しまセ〜ン。なまえ、よく此処まで来てくれマシたね。」

 なまえはキッとペガサスを睨み付けると、ズカズカとペガサスに寄るので、猿渡がすぐに駆け寄ってなまえを捕らえようとする。しかしそれをペガサスが手で合図すると、猿渡はなまえから手を放して部屋から出て行った。
 なまえは部屋を出ていく猿渡から顔をペガサスに向き直す。

「ペガサス。もう貴方とは手を切らせてもらうわ。私の魔導書シリーズを禁止カードにするなら、デュエルで決めようじゃないの。」
 ペガサスは涼しい顔で笑いながらワイングラスを揺らすだけである。

「なまえ、ユーはインダストリアル・イリュージョン社公認のデュエル・クイーンなのデ〜ス。その責務を果たしたら、デュエルを受けてあげまショ〜ウ。」
「責務ですって…?」
「YE〜S。このデュエリスト・キングダム決勝戦に勝ち残った者と闘うのデ〜ス。私はその勝負に勝った者とだけ、デュエルに挑みマ〜ス。」

「なんですって…?待ちなさいよ、この大会は決勝に勝ち残り、『王の左手の栄光』のカードがあれば ペガサス、貴方と闘う権利が与えられる規定のはずじゃ…」
 ペガサスは口元の笑みを崩さず、なまえの目を見た。
「このデュエリスト・キングダムに立つ王(キング)は、女王(クイーン)より強くなくてはいけない。ユーに勝てないデュエリストなど、最初から私とデュエルする資格なんてありまセ〜ン。」

 なまえはグッと手を握り直し、椅子に悠々と座るペガサスを見下ろした。
「いいわ。但し、私が勝ったら海馬コーポレーションからも手を引いてもらうわ。」
 ペガサスはフフフフフ、と少し長く笑うと、なまえに目を合わせた。

「ソレは、ユーは私と違う目的を選んだ…。つまり、ブラック・マジシャンと海馬瀬人を、ユー自身の天秤に掛けて出した応えと取って良いのデスね?」

 ペガサスの髪の間から光るミレニアム・アイが光る。なまえはドキリとして半歩下がりそうになるが、グッと堪えてペガサスを見つめ返す。
「…どういう事?」
 ペガサスはまた長めに笑うだけで、視線をなまえの腰にある千年秤に向けた。なまえもつられて千年秤へ目をやるが、千年秤はペガサスを計るように片方に重きを示して酷く傾いた。なまえはハッとしてペガサスを見たが、彼はもう顔を伏せて手で合図をし、なまえはクロケッツに腕を掴まれた。

「待って、何だって言うのよ!ちょっと放してよ!!! 何を知っているの?ペガサス!応えて!ペガサス!!!」
 クロケッツに引き摺られて部屋から追い出されるようにその扉がなまえの声を遮断した。

 部屋に1人残ったペガサスは、ワイングラスをテーブルに置くとまたモニターへ目をやった。
 その目はもうどこを見ているのか、遠いどこかへ意識は行っていた。

 ***

 モクバも、その頃遠い目で手の中にあるペンダントを見ていた。幼い頃の兄の写真だけが 今のモクバの支えであった。
「(しっかりしろ!これぐらいで弱気になっちゃダメだ!…大丈夫、兄様はきっと来てくれる。…そうだ、いつだって兄様は駆け付けてくれたんだ。)」

 モクバの目は、もう屈しない光を宿していた。
「兄様、オレは負けないよ。鍵は絶対渡さないからね。」
 ペンダントの中でこちらに笑いかける、幼い頃の兄の写真に モクバはしっかりと言葉にした。

「(海馬コーポレーションは、オレが守るんだ!)」

 ***

 一方の海馬も、揃いのペンダントに入れられた幼い頃の弟の写真を見ていた。
 もう森の先に見えているペガサス城を前に、海馬は歩みを進める。

「モクバ…すぐに行くぞ。」


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