わたくしのターン、ドロー」
(手札2→3)
 勝負はイシズのバトルフェイズ前。なまえは鋭い目でイシズの指を追った。

「リバースカードを発動します!」
「……!」
 なまえの動きを牽制するようにイシズの腕が振り上げられる。
魔法マジックカード《地砕き》! 相手フィールドの守備力が一番高いモンスターを破壊します。その対象は───《ブラック・マジシャン》!」
「───!」

「いけない! 《ネクロの魔導書》で生還させていたモンスターは、破壊されたときゲームから除外される!」
 遊戯が上げた声を待たずして、ブラック・マジシャンが破壊された。なまえは小さく唇を噛み、ブラック・マジシャンのカードを取り上げる。

「運命は決していました。全てはわたくしが見た、この千年タウクの見た記憶の通り。貴女の敗北で、ここから先は“名もなきファラオの願い”の果たされる未来へと傾く」
「……」


 俯いたまま沈黙するなまえに、遊戯がどうする事もできずにそれを眺める。海馬は鼻で笑い、背を向けて磯野達の方へと歩き出した。
「兄様、」
「結果は見えている。磯野、決勝トーナメントの会場を───


「いいえ、あなたの負けよ」


 驚いて振り返る海馬の目に、風に靡くなまえの髪がライトで煌めく。遊戯はすぐ横に出て立つ闇の人格の方の遊戯に振り向くと、2人の遊戯はデッキの中で震える1枚のカードに気が付いて取り出した。

『相棒……!』
「(ブラック・マジシャンが……!)」


 ───“私たち”の願いを知りもしないで、ファラオの望む世界を口にするとは。
 風がイシズの耳元で囁く。ゾッと凍った背筋に呼吸が止まり、なまえの顔が上げられる瞬間を心の底から恐れた。

「あなたの敗因は、私からブラック・マジシャンを奪ったこと。───リバーストラップ発動!

 《異次元からの帰還》!!!」

「───!!!」
「このカードはゲームから除外されている自分のモンスターを、可能な限りフィールドに特殊召喚する!!! 私がゲームから除外しているモンスターは3体。《魔導教士システィ》《魔導法士ジュノン》、そして───《ブラック・マジシャン》!!!」

 岩肌に埋もれた肉体、砂嵐に霞む記憶。何もかも黄金色のウジャド眼を通してイシズの魂に刻まれていた。だが今となってはそれもひび割れてはげ落ち、樹脂で覆われた棺のように崩れ始める。
 あれは私自身に起きた事ではない。誰かの抱え込んだ恨み。あなたはもう二度と、わたくしと運命を共にすることはない。

「(それでもわたくし自身の役目は残っている! 弟を救うため、墓守の一族を作り出した王妃の魂に勝つという使命が!)」
 イシズの前に4体の魔法使いが次々と揃う。その最後に生還したブラック・マジシャンは、その一番正面に立ちはだかってイシズを見下ろした。
「(攻撃なさい! その瞬間……貴女の敗北でマリクは、墓守の一族は王家の血への服従から解き放たれる!)」

 恐れを噛み殺したイシズに、なまえはやっと顔を上げた。
「言ったはずよ、あなたの負けだと」
「……!」

「《魔導法士ジュノン》のモンスター効果発動! 墓地から《ネクロの魔導書》をゲームから除外して、フィールド上のカード一枚をゲームから除外する! 私は、あなたの裏守備モンスターをゲームから除外!」
「しまっ───」
「裏側表示のまま除外されたカードは、召喚やリバース効果を発動する対象を失う」


 あなたは既にこの魂から離れ、運命を違えた者。神に忠義を尽くし、心酔したがために自らまでも人間である事をやめたひと。

 ───なにもかも、わたくしから手放したせい。


「私のターン!
(手札0→1)
 《ブラック・マジシャン》で、プレイヤーをダイレクト・アタック!」



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