「ドロー!!!」

なまえ(手札 7→8/ LP:300)


「(なまえ、ここから奴に勝つというのか……?!)」
「いったい何を……!」

 デッキスロットを空にした最後の1枚、月の光によってその軌跡がゆっくりと弧を描いた。海馬が、そして遊戯が見つめた最後のカードを、なまえの目が捕らえる。

「(ブラック・マジシャン、私はカードのモンスターという垣根を越えて、心からあなたが“大好き”だった。だからこそ海馬へ心変わりしてしまった自分自身のこと、私は心のどこかで赦せずにいた)」

 そのカードを自分の正面に寄せ、静かに目を閉じる。

「(それなのに、あなたは私を守ってくれた。私の側に居てくれた。あなたは、……私に生み出すことの出来ない、別の形の愛そのもの。

 今ここで、あなたは“今の私”を受け入れた新しい姿を得る)」


 千年秤がリシドの手の中で閃光を放った。その光は所有者であるリシドの意思に反して震え、顔を上げたときには─── そこには、額に千年アイテムの紋章を浮かべたなまえが立っていた。
 遊戯やマリクが慄く中、なまえが目を開けると同時に額のウジャド眼は消える。それでも飛行船の気流とは違う風が、なまえの赤い髪を炎のように巻き上げた。


「な、なんだ、……これは」

 千年パズルと千年ロッドも共鳴して震えた。そこへ、エレベーターホールからイシズが飛び込んでくる。
「リシド……!」


「私は《ブラック・マジシャン》をリリース!」

 ブラック・マジシャンの魂が天を砕いた。天上の雲を突き抜けた光は、漆黒の稲妻となってフィールドに落とされる。


「私の魂、その永遠のしもべ、私の盾!!! 今こそ魔導書を束ねし我が力を得て生まれ変われ!!!

 現れよ、《黒魔導の執行官ブラック・エクスキューショナー》召喚!!!」


 鉄の床を振るわせる衝撃がその場にいる全てのデュエリストの足を伝い、心臓を叩いた。魔導書によって新たなる姿を得たブラック・マジシャンが、なまえの前に降り立つ。


黒魔導の執行官ブラック・エクスキューショナー》(★7・闇・攻/ 2500)


なまえ(手札8→7)

黒魔導の執行官ブラック・エクスキューショナー……?!」

 遊戯でさえ知らないブラック・マジシャンの新たなる姿は、その場の人間を黙らせるには充分な威圧感と気高さを誇っていた。しかしマリクだけは、すぐにリシドへ啖呵を切る。

『コケ威しだ!!! 攻撃力はブラック・マジシャンと同じ。』

「そうだ、攻撃力2500のままでは、攻撃力3200のセルケトを従えた私の相手ではない!!! そのモンスターで《神殿を守る者》を破壊したところで私のライフは5100。このターンでどう勝とうというのだ!!!」

「マリク、……いいえ、リシド」

「?!」
 静かに口にされた名前に、海馬や遊戯が過敏に反応した。リシドや背後のマリクも、これには面食らって言葉を失う。

「あなたとマリクに、そしてイシズさんに何があったのかは知らない。遊戯を狙う理由も、私や海馬を狙う理由も。そして、本当のマリクが誰なのかも」

 遊戯がスッと“ナム”に目を向けた。それは海馬も同じ。マリクは奥歯を噛み締めてなまえとリシドを睨みつける。

「だけど、私はこのデュエルであなた自身を知ることができた。……もしあなたが許してくれるのなら、あとで、もっと話してほしいの。あなた自身のこと」

 フ、と笑うなまえに、リシドの心は静かだった。



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