杏子の反応に早いか否か、遊戯の鋭い声が全員の意識を支配した。

「いくぜ海馬!“エルフの剣士”!!!」

「遊戯!ダメーーー!!!」

 遊戯の攻撃宣言を遮るように、杏子がついにその足を前に運び走り出す。

「やめて遊戯!!!」

 なまえもついに城壁から飛び降りる。胸から魔術師達が現れてなまえを支えると、そのまま下にゆっくりと降ろされていった。

 エルフの剣士が腐敗の進むアルティメットドラゴンに向かって剣を構えて駆け寄り、それを横切って杏子が遊戯に向かって駆け寄っていく。
「やめてぇーーー!!!」
 なまえが地面に足を着けるより先に杏子が遊戯にたどり着こうとしていた。

「遊戯!元の遊戯に戻って!遊戯ー!」

 遊戯の鋭い目に違う意思が宿り、それは迷いにも似た何かを引き留めるものとなった。それは“エルフの剣士”の攻撃の足を止めさせ、杏子が遊戯に辿り着くより先に、遊戯の膝を折ったのだ。

 エルフの剣士が、腐敗した中に1つ輝くブルーアイズの首の前に沈黙し立ち尽くす。

 なまえはついに海馬達の闘っていた同じ塔の上に足を着けて立つと、海馬に駆け寄る足を止めてそれを見た。遊戯は表の人格に戻っていた。その顔は恐怖と重い罪の意識に苛まれ、震えていた。
 なまえはただ言い知れぬ激しい感情に心を掻き乱され、その腰に差した千年秤が、ひどく傾いているのにすら意識が及ばないでいる。

「俺の勝ちだ。」

 海馬は俯いて目を伏せた。
 高らかなブルーアイズへの攻撃宣言に、前に進み出てクリボーの盾を失ったエルフの剣士が強い閃光の中に消えて 遊戯のライフポイントが尽きる。
 杏子がその光を背後に、膝をついて涙を落とす表の人格の遊戯へ寄り添おうと自らも膝を折ってその手を伸ばした。
 

 ***


 太陽が完全に水平線に触れて空をオレンジ色に染め上げる中で、聳え立つペガサス城に海馬の勝利を伝える電話がペガサスに届いていた。

「わかっていマス。」

 城門の前に立つ猿渡が、携帯電話を片手にペガサスへ指示を仰ぐ。
「では、このまま海馬瀬人を城に向かわせてよろしいのですね?」

「ノープロブレム デ〜ス。」
「それと、クイーンがやはり我々の目を掻い潜り、デュエル中の海馬に接触をしました。」
「それもお見通しデ〜ス。海馬ボーイと共に、また城へ入れなサ〜イ。」

 ペガサスのため息もそこそこに、猿渡との通話を切る。

「グッジョブ、海馬ボーイ。ユーの望み通り、次は私がカードのお相手をしまショウ」

 自分のカードを手にしたペガサスの長い前髪の間からは千年眼が光り、その笑みに含まれた恐ろしい程の闇を垣間見せる。

「…闇のゲームでね。」


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