それをなまえは見もせずに背を向けて、警戒の態度を見せる城之内や本田を横目に遊戯と杏子に視線を合わせて膝を折る。

「遊戯、ありがとう。」
 だがなまえの言葉も程々に、城之内がなまえへ突っかかる。
「やい!海馬の肩持ちやがって!テメェらのせいで遊戯が城に入れなくなったじゃねぇか!」

 なまえは目を伏せて言葉を濁す。
「ちょっと、なまえを責めたってどうしようもないでしょ?!やめなさいよ!」
 杏子が立ち上がって城之内を叱咤するのを、なまえが止めた。

「いいのよ。私にも責任はあるわ。」
「…なまえちゃん」
 獏良がなまえに同情のような顔を向ける。

「…でも、海馬はこのデュエル、どうしても勝たなければいけない理由があった。何方かが悪いなんて言わないで。海馬も、遊戯も、そして私も、誰しもが正義だった。それだけはどうか分かって。」

 なまえの手が震えるのを城之内が見て、ハッとしたのか何かを誤魔化すように頭を掻いた。

「いや、まぁ…すまねぇ。俺も、言い過ぎちまってよ…。」
「そうだよな、悪いのはペガサスだ。」
 城之内をフォローするように本田が口を開ける。それに周りが共感していくのを、なまえはただ居心地の悪そうに黙って俯いていた。

「海馬くんがどうしても勝たなければいけない理由って、一体何があったのか教えてくれないかい?」

 獏良の一言に全員の視線がなまえに集中する。
 だがなまえは目を遠くへやったまま、首を横に振った。

「…ごめんなさい。海馬のプライドに関わることは私からは言えない。」
 煮え切らないなまえの態度に4人の不満は残るが、落ち込んだまま立ち上がりもしない遊戯を気遣ってかそれ以上は何も言わなかった。

「遊戯、私は…もうスターチップを持っていない。ごめんなさい…どうする事も出来ないの。でも遊戯には必ずペガサス城へ来て欲しい。ペガサスを倒すには貴方が必要なの。」
 遊戯はなまえの方を少し見るが、頷く事もできずただ顔をまた俯かせるだけである。
「たとえ今遊戯が、遊戯自身を恐ろしく思ってしまっても、必ず和解して唯一無二の存在になれる。だから、どうか諦めないで。」

 なまえが遊戯の肩を抱いて否応無しに目を合わせる。同じ色の瞳が交わると、遊戯の中のもう1人の人格を、表の遊戯がハッキリと感じ取る。

 なまえが何か続けるより先に、遠くで黒服の男達がこちらを指差す。「いたぞ!」という声が遠くから響き聞こえると、黒服が走り寄ってくるのを城之内達が警戒する。

「ごめんなさい、もう行かなくちゃ…。」

 なまえが立ち上がると同時に黒服がやってきて、なまえの腕を掴みあげる。
「テメェら!」「待って。」

 本田が反抗しようとするのをなまえが止めると、なまえは杏子に目を合わせた。

「遊戯が頼れるのは皆んなしか居ない。…必ず遊戯を城に連れて来てね…」

 言い終わるが早いか黒服に手を強引に引かれて連れ去られていくなまえを、杏子が目で追った。

「まかせて!必ず、必ず遊戯と一緒に城に行くわ!」


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