杏子は舞に追い詰められていた。
 舞は杏子の友情論に真っ向から反論する。

「勝つか負けるか…勝負の世界は結果が全て。そんな厳しい世界に身を置いていれば、仲間がいる事で、その辛さを乗り切って行くことは出来るかもしれない。だけど、最期に頼れるのは自分しかいないのよ!」

 舞の言葉に、遊戯がハッと思い出す。

 ───『たとえ今遊戯が、遊戯自身を恐ろしく思ってしまっても、必ず和解して唯一無二の存在になれる。』

「(なまえ…)」

「デュエルで本当の崖っ淵に追い詰められたとき、生き残る為に必要なものは何か…。それは自分自身で決断を下せる強い意志!」

「(自分自身の、決断…)」
 遊戯はもう1人の自分の背中を感じた。

「その勇気を持てないデュエリストは、結局勝負に敗れる事で仲間の想いを裏切る事になる!」

「それでも私は仲間を…遊戯を守りたいの!たとえ最期は遊戯が自分で決断しなければいけないとしても…それまでは精一杯応援してあげたいの!だから…!遊戯をお城に行かせたいの…!」

 杏子はついに涙を流し始める。だがすぐに押し殺して、まっすぐ舞に向き合った。

「たとえこの先何が起きようと、私は最期まで遊戯を見守り続けるわ!それが仲間だと思うから…友情だと思うから!…私負けない!友情を守ってみせる!」

「やれるものなら、やってごらん。」
 デュエルリングのフィールドは、強豪である舞の優勢に変わりなかった。

 杏子はカードを引く。
「(魔法カード、“エルフの光”。光属性モンスターの攻撃力を400ポイントアップさせる。…こっちには“魔法除去”!さっきのターンで舞さんが使った…。)」

 杏子は手札を目でなぞり、フィールドを支配する舞の“ハーピィ・レディ”をチラリと見た。

「(そうか!“銀の弓矢”と“エルフの光”で、フレンドシップの攻撃力は2000にアップする!そして“魔法除去”で、ハーピィの“サイバーボンテージ”をけせば…!)」

 杏子は意を決してカードに手をやった。

 攻撃力を2000にアップさせたフレンドシップと魔法除去のコンボで、攻撃力1600にダウンしたハーピィ・レディに攻撃宣言をする。

 瞬間、咄嗟に舞は伏せていたカードに手をやるが寸でのところで止め、そのカードの上に手を伏せた。
 そしてハーピィレディは敗れて破壊される。

「ハーピィ・レディを撃破!」
 杏子は嬉しそうに手を握る。
 城之内や本田も喜ぶが、遊戯だけは舞が手をやったカードに気が付いていた。

「(あのカードは…)」
 舞は溜息をつくと、手を伏せていたカードを取った。

「私の負けよ。ここらが潮時だわ。」
「え、…でもまだ」

「ハーピィを失ったら私のデュエルは終わったも同然なのよ!それ以上闘う事は、私のプライドが許さないわ。」
 喜ぶ杏子を尻目に、舞はデュエルリングを降りて行った。
「や、やった〜!」

 ───

「すげぇぜ杏子!」
「やったな!」
 本田と城之内が駆け寄って杏子を激励する。

 杏子が舞からスターチップを受け取るのを遊戯が見届ける中、つい口をついて声を掛けた。
「舞さん、…あの伏せカードはもしかして…」

 やっと口を聞いた遊戯デュエルあったが、舞は顔を向けもせず言葉を遮った。
「冗談じゃないわよ!アナタのせいで、あんな子にまで負けちゃったじゃない。」

「え…」
 舞はやっと顔だけ振り向いて遊戯と目を合わせた。口の端に笑みを浮かべて、親指で城を指す。
「この落とし前、城で付けさせてもらうわ。」
「舞さん…」

 遊戯は目を丸くしてそれを見ていた。
「遊戯」
 後ろから杏子が声を掛け、振り向くと彼女はおずおずとスターチップを差し出す。

「お願い…なまえとの約束なの。これでおじいさんを助けてあげて。」
「杏子…。うん!僕、やってみるよ!」

 遊戯はいつもの笑顔に戻っていた。
「(自分自身の考えで、自分の意志で闘ってみる…!それがデュエリストなんだ…!そうだね?もう1人の僕!)」

 遊戯を背中合わせにして、もう1人の遊戯は立っていた。その目は表の人格の遊戯を見据えて力強く頷いた。


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