それぞれがそれぞれの部屋で日が昇る窓辺に立ち、決戦の日を迎えていた。遊戯は首から下げた千年パズルを手に、決心の着いた目で内に闘志を秘めている。人格を交代し闇の人格に身体を預けた。

 闇の人格の遊戯の胸中には、なまえの姿が浮かんでいた。ペガサスの前に立ちはだかるクイーンの存在…。だが遊戯にとって、その重責を抱え込んだ彼女の存在こそが大きなものになっていた。

 遊戯は確信していた。相棒である表の人格の遊戯にすらひた隠すその感情が、既に淡い恋心と変わっているのだと───
 静かに早鳴る鼓動を抑え、遊戯は学ランを羽織って部屋を出た。

 ***

 なまえは海馬をソファへ横たえさせると、自分のジャケットのポケットから海馬のデッキを取り出してサイドテーブルに置いた。
 そして別の決心も付けたように、膝をついて海馬の肩に手をやる。…その手はもう震えていなかった。ゆっくりと顔を落とし、なまえの睫毛が海馬の瞼を撫でる──

 ──孤独な幼少期を過ごしたなまえは、お伽話というものが大嫌いだった。それでもこんな非現実的な状況に、これがお伽話だったならば、海馬は目覚めてくれただろうかと自嘲せずにはいられない。

 海馬の唇から外した頬のあたりに、ほんの僅かに触れるだけの口付けをすると、なまえはすぐに離れた。
 そして暫くその両の瞼を見つめるが、海馬のまなじりひとつ動く事はない。

 固く閉ざされた海馬の瞼を開けるには、ペガサスを倒さねばならない───
 なまえは腰のベルトから千年秤を抜いて、その眼を見つめる。均整と平等の名に相応しいその姿を手に、もう恐れる事も嘆く事もしない目を、朝日が揺り起こして彼女を奮い立たせていた。

 例えその決心がどういう結果をもたらそうと、自分がどうなろうと。
 必ず海馬とモクバの魂を取り戻すと誓って、なまえは部屋を後にした。

 ***

「おはよう坊や達」
 本田、杏子、獏良と別れた遊戯と城之内は、準決勝のデュエリストが揃う控えの場で孔雀舞とバンデット・キースの両名に合流した。
 舞は自信も充分に遊戯と向かい合う。
「遊戯…決着を付ける時が来たわね。」

 キースも壁に背中を預けたまま不敵に笑う。
「城之内…わざわざオレ様に負けに来るとは、ご苦労なこったなァ。」
 だがキースを必ず倒すと決めた城之内は、臆する事を知らない。
「キース、全米チャンピオンだか何だか知らねえが…オメェみたいな汚ねぇ野郎は、オレのカードでぶっ潰す!」

 しかしキースにとって、自身の勝利への自信に揺るぎない。
「(フフフ…まだ気付いてねぇようだな。オレ様がテメェのトーナメント参加条件のカードを頂いたって事に。テメェはデュエルリングに上がることなく、敗北決定だぜ!)」
 サングラスの向こうで光るキースの青い目の思惑に、城之内は気付いていない。

「…ん?なまえは…」
 遊戯は舞から目を離して辺りを見回す。その表情に、舞はすぐ遊戯が胸に秘めた物を直感した。
 だが彼女の姿を捉えられないまま、クロケッツの声がスピーカーを通してアナウンスされる。

「優勝決定戦に出場されるデュエリストの皆さん───」
 四人はスピーカーが内蔵されてるのであろう、黄金の幻獣ペガサス像に目を向ける。
「お待たせしました。デュエルの間にお進みください。」


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