「…あれ?なまえちゃん?」
 観覧席に着いた本田と杏子、獏良が目にしたのは、壁に背中を預けて腕を組むなまえの姿だった。
「…おはよう。」
 なまえは顔だけ向けると、少し寝不足気味を感じさせる目で三人を見渡した。獏良と杏子が顔を見合わせてからなまえに向き直ると、そのまま脚を進めて近寄る。
「なまえ、…その、遊戯達の所へ行かなくてもいいの?」
 杏子が言葉を選ぶように少し戸惑って口を開けば、なまえはため息交じりに目を逸らした。
「別に…私の対戦相手が決まるまで、私は部屋に籠ってたっていいみたいよ。」
「そうだよね…、なまえちゃんは、その…シード権みたいなものだもんね。」
 苦笑いする獏良を、なまえは何か見極めるような鋭い目で射抜いた。…昨晩の千年リングの気配に、胸が騒めく。
「(獏良了…いえ、千年リングの闇の人格。一度闇のゲームで葬ったとは言え、昨晩のあれは…。まぁとにかく、今になって面倒事を起こさないでくれればそれで良いわ。)」
 そのなまえの目を見て、一瞬ふと目を細める獏良に嫌なものを感じる。
 それでも談笑する本田と杏子にこれ以上怪しまれないよう、なまえは目を一度伏せて前を向いた。

 そこへ、デュエルリングに遊戯達四人が脚を踏み入れて入ってくる。
 本田達が端まで行って手摺に身を預けるのを見て、なまえも前に出てリングを見下ろした。

「…!なまえ」
 遊戯はなまえにすぐ気が付いて彼女を見上げた。なまえも遊戯と目が合うが、平素の顔のままそれを見ている。

「あっ」
 城之内の声に遊戯が目を向ければ、宿敵ペガサスが王座のように聳える特別な観覧席に立っていた。
「ペガサス…!」
 遊戯の目はすぐ険しくなり、食いかからんばかりに激しく闘志を燃やす。

「誇り高きデュエリスト達よ、聖なる闘いの場にようこそ!今ここに、デュエリストキングダム優勝決定戦トーナメントの開始を宣言しマ〜ス!…トーナメントに優勝した者は、莫大な賞金を手にすることができマ〜ス。」

 城之内の脳裏に、目を患った妹の姿が過ぎる。
「もちろん優勝者は、インダストリアルイリュージョン社が認定するクイーン、みょうじなまえに勝利する事を条件に…私自身への挑戦権も得る事ができマ〜ス。…デュエルモンスターズの生みの親である私に勝った者は、初代デュエリストキングにインダストリアルイリュージョン社が認定しマス!つまり、誰もが認める世界ナンバーワンのデュエリストの称号が手に入るのです!…ただし、先日言ったように、キングはクイーンより強くなければならない…。私への挑戦権は、クイーンを倒した者にのみ与えマス。」

「つまり、私が勝てば私自身も貴方に挑戦できる、…と受け取って良いのかしら?」
 なまえは腕を組んだままペガサスを見据えると、ペガサスは笑って「ノープロブレムね。」とだけ答えた。
「ここに残ったデュエリストたちなら、賞金よりその名誉こそが真に手にしたいもの…はたして決勝トーナメントを勝ち残り、私に辿り着ける者はこの中に現れるでしょうかね。フフフフ…」


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