「それではルールを説明しましょう。デュエルは全て デュエルモンスターズのカードで行われマス。
 ライフは2000。プレイヤーへの直接攻撃は禁止デ〜ス。皆さんがこのデュエルのために持ってきた 最強のカードデッキで思う存分闘ってくだサ〜イ。」

 遊戯は自分が持ってきたデッキを見つめ、再びペガサスに視線を戻すと、ペガサスもこちらを見て笑ったような気がした。

「参加者の皆さんにはあらかじめ、デュエルグローブと2個のスターチップが届いているはずですね。…グローブのリングには、スターチップをはめ込む穴が10個開いていマス。そこにスターチップをはめ込んでくだサ〜イ。

 …このスターチップがデュエリストの証し!
 デュエルはこのスターチップを賭けて行われマ〜ス!」

「(そうか!デュエルに負けた者は 勝者にスターチップを差し出す。スターチップを失えばデュエリストの資格を失うんだ…!)」
 遊戯は振り返って城之内を見る。

 城之内は本田、杏子と共にペガサスを見上げていたが、遊戯に気付いて視線を戻した。

「(僕と城之内君は スターチップを分け合ったから 1つずつ…!)」

「デュエルは島全土が舞台となりマ〜ス!バトルロイヤル形式で10個のスターチップを揃えた者だけがこの門をくぐる事ができマ〜ス。 …デュエルの時間はジャスト1時間後。タイムリミットは48時間。

 その時点でスターチップが10個に満たない者は敗者とみなし、この王国から強制退去を命じます!

 …では、デュエリストの諸君…。健闘を祈りマ〜ス。」

 ペガサスが早々に踵を返して城内へ去って行くのを、遊戯は目で追い 離さなかった。

「(僕は絶対 この城に入ってみせる!)」

 もちろんその視線に気付かないペガサスではない。怪しく光る千年眼を その長い前髪の隙間から覗かせて口元に笑みを浮かべる。

「(遊戯ボーイ、…私と闘いたければ、この島で生き残るのデ〜ス!)」

 ***

 自然が豊かに残る草原を歩いて高台に出ると、その奥に口を開ける鬱蒼とした原生林がなまえの前に立ちはだかる。

 だいぶ城から距離は開いたが、遠くに城門の前から散り散りになるデュエリスト達が見える。
 その何人かはおそらくなまえを狙ってか、遠目ながらも指差したりこちらに向かって来ているのが分かる。

 デュエリスト達には 深緑の地に強風で飜(ひるがえ)る彼女の赤い髪がまるで敵陣の旗と言わんばかりに見えた。
 この島ではテレビでしか見れない強豪のデュエリストや、噂にしか耳に届かないデュエリストも、皆平等にスタートし、そして相手を選ぶ事ができる。

 多くのデュエリストにとって、それは大きな機会であったのだ。


「…。」
 なまえはそれでも目を細め眉間にシワを寄せ、少し鬱陶し気な顔でそれを見ていた。

 ポケットからやっとデュエルグローブを取り出すと それに手を通し、リングにスターチップを嵌め込んだ。
 その手で腰のベルトのデッキケースに触れると、胸がじんわりと暖かくなる。

 デッキケースのついたベルトに差してある千年秤が指に触れると、ふと目を開いてすぐに歩みを進めた。

 その足は真っ直ぐに森の中へ入っていく。

 ***

「フッフッフッフッフッ フーーーン♪」

 城之内は、自分のデュエルグローブにはめ込まれた 2個のスターチップを眺めては笑い、そしてまた眺めては 笑みをこぼさずにはいられなかった。

「俺ってば結構強いのかも…!うっクククククク!」

 最早変な笑い声にしかならない城之内を、本田も杏子も呆れた顔で眺めるしかない。

 遊戯は自らのエグゾディアのカードを海中に捨てた羽蛾へ雪辱を晴らし、城之内は羽蛾のデュエルグローブを手に入れた。

 それだけでなく、城之内はなんと初戦から見事 孔雀舞を倒し スターチップを1つ手に入れたのだった。

「城之内ったら、さっきからにやけっぱなしね。」
 杏子がついに痺れを切らして悪態を吐くが、城之内には聞こえていない。
「そりゃ嬉しいだろうぜ。」
 本田も呆れてはいたが、親友の見事なデュエルの勝利に喜びは隠せない。

「俺だっていまだに信じらんねぇもん」
 城之内はスターチップから目を離さず、まだ笑っている。
「城之内くん!この調子で 次も勝とうね」
「おう!」

 ***

 城壁に開いた窓から、縛って繋げた長い布がおろされる。マスクに帽子を被って顔を隠した少年が、それを伝って降りていくが、途中で長さが足りなくなり、下を見るとまだかなりの高さがある。青い顔で硬唾を飲むと、布が緩んで真っ逆さまに下に落ちる。
「うわあぁぁぁぁあ」
 硬く目を閉じ、身が固まる。

 ポフっ

 痛みも無く、柔らかく包まれるような感触に目を開けると、茶色のローブで顔が陰になって少し隠れた、緑色の髪の女性が少年を抱き上げて覗き込んでいる。
 しかし、その女性は浮いていた。少年が声にならない悲鳴を上げそうになると、ゆっくりと着地して別の手に渡される。
「ありがとう、テンペル。」
 その声にはっとして顔を上げると、逆行で顔は見えないが赤い髪が揺らぎ、女性らしい柔らかい腕と胸に抱かれるのを感じる。
 テンペルと呼ばれた茶色のローブを目深に被った女は、口元に笑みを浮かべると消えた。
 少年は口をあんぐりとさせて、今度はその別の手の主を見上げる。

「大丈夫?」
 赤灰色の髪に、紫の瞳。
「お前は・・・」

「あなたが海馬モクバ君、ね?」

 ***

 肖像画の飾られた部屋で、ペガサスがコミックを読んで笑い声を上げる。
「フフフ・・・ハーハハハハハ、いつ読んでも最高デース」

「失礼します、ペガサス様」
 そこへクロケッツが入ってくる。

「uh…? 世界最高のワインにゴルゴンゾーラチーズ、そして世界最高のコミック。これこそ私の至福の時デース。・・・それはわかってマスね?」
「・・・グっ、申し訳、ございません。」
「まぁいいでしょう。それで、何事デース。」

「はい、例の少年が城を抜け出しました。」

「オーゥ、せっかくゲストとして招いたのに。我々のもてなしがよほど気に召さなかったのでしょうか。・・・ま、心配ありません。」
 ペガサスがリモコンのスイッチを押すと、部屋の天井からモニターがおろされる。
「まぁ、彼の考えている事は見当がついています。」

 モニターに島全域が映し出され、自動音声がデュエルの開始から六時間が経過した事を告げる。

「・・・それに、先ほどこの城のすぐ近くであの力を感じました。・・・モクバボーイを連れ出したのは、おそらく彼女でしょう・・・。」

「…!やはり、みょうじ なまえには我々に協力する気などないのでは…」
 クロケッツの目はサングラスで隠されているが、それでも疑いの色に染まっているのがわかる。

 モニターは武藤遊戯の情報を映し出す。先ほど梶木漁太とのデュエルを終え、既にスターチップを5個獲得している事がペガサスに伝わる。

「ワンダホ〜!さすがは遊戯ボーイ。彼には必ず勝ち残ってこの城に来てもらわねばなりませ〜ん。」

 ペガサスが満足そうに笑う後ろで、クロケッツの顔色は暗い。

「クイーンはまだ泳がせておきなサ〜イ。ただし、遊戯ボーイから目を離してはなりませ〜ん。いずれあの少年は遊戯ボーイの前に現れマ〜ス。…今度捕まえたら逃げないように、地下牢にでも入れておきなさ〜イ!」

 ***

「うわーーーー!!!」

 梶木を倒し歩みを進める遊戯たち4人の耳に、少年の差し迫った声が届いた。
「なんだ?!」

「助けてーーー!!!」

 本田が咄嗟に声のする方へ駆けていくと、そこには黒服の男に羽交い締めにされた少年が助けを求め抵抗していた。

「おりゃーーー!!!」
 その黒服の男に本田が殴りかかると 男は少年から手を離したのを見逃さず、そのまま男を背負い投げする。

「…フッ、決まったぜ。」
 しかし満足する本田の後ろで 男が素早く立ち上がると、すぐに飛び蹴りをして本田を倒してしまった。

「ぐわ!」

 そしてこの男、猿渡はすぐにまた少年を捕まえて持ち上げてしまった。
 そこへ追い掛けてきた城之内、遊戯、杏子が駆け寄る。

「待てよ!この…許さねぇぜ!」
「乱暴はいけないよ!」

 しかし猿渡は少年を抱えたまま顔だけこちらに向けるだけでどこ吹く風である。

「余計な事に口出ししない方が身の為だぞ。コイツはスターチップを全て失ったんだ!」
「違うよ!盗まれたんだよ!!スターチップも、カードも…!」
 少年は涙を浮かべて懸命に主張するが、猿渡の態度は強固である。

「どんな理由にせよ、スターチップを失った者には この島から強制退去を命じる!それがルールだ。諦めるんだな。」

 本田はぶつけた頭をさすりながら起き上がる。
「チクショー…」

 ***

 粗末な船着場で、小さな手漕ぎボートに羽蛾を含め数名の敗者が押し込められている。
 猿渡はさらにその少年を押し入れ、ボートを出させようとした。

「おーーーい!キミーー!!!」

 遊戯を先頭に4人が船着場に駆け寄ると、少年に 盗んだ奴の特徴を聞く。
「顔は見えなかったよ。…いきなりアイツにデュエルを申し込まれて…。」
「さっきの草原のリングだね!」
「うん。…テーブルにスターチップとデッキを置いた瞬間、いきなり盗んでどこかに消えちゃったんだ。」

「僕たちが探し出す!それまで待ってて!」
 遊戯が申し出ると、猿渡は4人の前に仁王立ちして見下ろす。

「船の出発は30分後だぞ。それがタイムリミットだからな!」


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