遊戯達はスターチップを盗まれたという少年のために森の中の少し開けた場所ーーー草原のデュエルリングにいた。
 そこにニット帽とハンカチで顔を隠した少年が飛び出してくる。
「見つけたぜ!遊戯!!!」

 本田と城之内が突っかかるが、遊戯が制止する。
「待って!この子が用があるのは、どうやら僕らしいよ!」

「僕と、デュエルがしたいのかい?」
「うん」

「あの子、デュエルグローブを付けていない!」
 スターチップをポケットから出す少年を見て、杏が驚く。
「遊戯のヤツ、なんで時間がねぇのにこんなヤツの相手なんか!」

「ひょっとして、遊戯はあの子の正体に気付いてるのかもしれない!」

「(行くぜ…兄さまの仇だ!)」

「人食い植物を、攻撃表示!」
 少年のフィールドに大きなモンスターが現れ、遊戯もすかさずカードを出す。
「オレのターンだ!俺はこのカードで、受けて立つぜ!」
 遊戯のフィールドに、砦を守る翼竜が現れる。
「火球の礫!」
 人食い植物は破壊され、少年のライフが1400に下がる。

「人から盗んだカードじゃ、俺のモンスターは倒せないぜ! 盗んだカードには、お前の心は宿ってないからだ。」
「遊戯!俺はお前の言うカードの心なんて、認めないぜ!! カードはな、心なんかじゃない、力なんだぜ!」

「やはりそうか、海馬瀬人の弟、モクバだな?」
「うるさいぜ!」
 モクバはマスクを外すと顔を出した。
 杏子や本田達が驚く間もなく、モクバが帽子を投げ捨てながら続ける。
「兄さまはお前にプライドをめちゃくちゃに傷つけられて、行方不明だ! そのせいで海馬コーポレーションは、ペガサスに乗っ取られようとしているんだ…!」

「何だって?!ペガサスが?!!」
「ペガサスの陰謀で、兄さまがお前に負けたという情報は あっと言う間に世界に伝わった。…その日から海馬コーポレーションは、投資家達の信頼を失い、経営状態が急速に悪化してった。…ペガサスは、そこに目をつけたんだ!」

 遊戯達は、海馬コーポレーションの重要書類の保管庫の鍵を持ったモクバは、ペガサスに捉えられここまで連れて来られた事、そして海馬コーポレーションをペガサスに譲渡しようとする重役は、その条件として遊戯を倒す事を求めている事を知る。

「…っ遊戯!ぜんぶおまえのせいだ!」
「事情は分かった。だがしかし、だからといって他人のカードを奪っていい事にはならないぜ!」

「うるさい!つぎはこれだ! いけ!クロコダイラス!」
 攻撃力が及ばず自滅し、モクバのライフがさらに下がる。
「これ以上やっても無駄だ!他人から盗んだカードで勝てるほどこのゲームは甘くないぜ!」

「そうだ!復讐のためにスターチップを奪うなんて最低だぜ!」
 城之内に門場が反論する。
「違う!勘違いするな! おれは兄さまに代わり、海馬コーポレーションを守らなきゃならないんだ!」

「…! ひょっとして、遊戯がデュエルに破れる前に スターチップを奪われて失格になれば、デュエルで負けた事にはならないわ!」

「つまり、デュエルにならなければ、ペガサスとビック5の契約は成立しないわ」
「…そういうことか」
 視線を戻すと、もうモクバはいなくなっていた。
「こうなったら…!」
 遊戯のスターチップに手が届くだけのものを奪うと、デュエルリングを飛び降りて走った。

 すると目の前を、赤い髪の女が立ちふさがった。
「わぁ!」
「…モクバ君。やっぱり目を離すんじゃすんじゃなかった。」

 追いかけて来た城之内と本田、杏子が追いつき、その姿に驚く。
「なまえじゃねぇか!」
「なに、なまえ?」
 遊戯が見ると、なまえと目が合った。
「くっ」

「モクバ君、そんな事をしても、海馬コーポレーションのためにはならないわ。」

 モクバがぐっとなまえを睨みつけると、なまえは視線を合わせようと膝を折って、スターチップが握られた小さな手を取って、優しく包み込んだ。

「海馬は、いまとても苦しんでいる。」
「・・・そうだ。でもそれは、カードの心をつかむため、自分の力で、本当のプライドを取り戻すために戦っているんだ。カードの心をつかんだ時、海馬は必ず帰ってくる!」
 モクバが振り返って遊戯を見ていたが、なまえに握られた手がわずかにきゅっと締められると、顔をなまえに向き直った。
「なまえ…」
「モクバ君、…モクバ君はそんなお兄さんを、いえ、海馬コーポレーションの信用まで落としてはいけない。」
 モクバが泣きそうな顔で、ぐっと目を閉じる。
「だけど、じゃあ俺はどうすれば…ッ」
「泥棒なんてしなくていい」
 遊戯の声に、モクバとなまえが振り向く。
「約束するぜ。俺がペガサスを倒す! 少しでも海馬が何に苦しんでいるのか理解したいなら、カードの心を少しでも理解しようとするのなら、盗んだカードとスターチップを、あの少年に返してやるんだ!」
 モクバが視線を落として、ふとなまえを見上げると、なまえは少しだけ口元を上げてちいさく頷いた。

「…わかった、遊戯!お前を信じるよ!」
 なまえはふっと笑うと、モクバの手を離して立ち上がった。

「それよりなまえ、お前いままで…」

「そんなことより! あと3分で、船が出ちゃうわ!」
 杏子がせかすと、一行は走り出した。
 なまえは走っていく一行に気付かれないように、すっと行動を別にして森に隠れた。

 ***

 港へ急ぐが、もう船は出ていた。
「そんな…まだ1分あったはずよ!」

 杏子が猿渡に詰め寄るが、猿渡は笑って流すだけであった。

「このスターチップを返すから船を呼び戻して!」
 モクバがチップが差し出すが、猿渡はそれを手で払い退け、弾みでチップは海中へと叩き落される。

「テメェ!遊戯のぶんもあったんだぞ!」
「…!、ご、ごめん遊戯…」

 モクバが遊戯達に向いた瞬間、猿渡はモクバを捕らえてしまった。

「スターチップを盗まれるなんて、デュエリストの風上にも置けない。…それだけで失格モノだな!」
「あぁ!」

 モクバは首から締め上げられ動けなくなる。
「さぁ早く戻らないと、ペガサス様が心配なさっているぞ、モクバ。」
「うぅ…離せ!」

「待て!」
 闇の人格の遊戯が前に出る。
「俺のスターチップは残り3個、全てを賭けてお前にデュエルを申し込むぜ!!!」

 しかし、猿渡に取りつく島はない。
「ふん、俺はデュエルはやらん。だがどうしてもというなら、特別に相手を用意してやる。…一時間後に、さっきのデュエルリングに来い。ただしあの女、…なまえを連れてくるのが条件だ。」

「なまえを?」
「…あら?そういえばなまえは?さっきまでいたのに…」

「一時間以内になまえを見つけ出して連れてこい。それが出来なければデュエルはやらんし、モクバも返さん。」
「…くっ、モクバ、待っていてくれ。行こうみんな!」


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