「参加カードを持たない者は失格とさせて頂く。」
「そ…そんな!」

 城之内の顔からは冷や汗が噴き出した。それを観覧席のキースが悠長に眺める。
「(フフフ…あるわけねぇだろ。このカードこそ、貴様から盗んだカードなんだからよぉ。これでオレ様は、戦わずして決勝戦に進めるってわけよ)」

「城之内!どっかにカード落としてきたんじゃないの?」
 観覧席から杏子が声を張ると、城之内も「部屋に忘れて来たのかも…」と取り繕う。
「ひとっ走り取りに行ってくるぜ。」
 そう発した城之内に、クロケッツは冷淡にも「5分だ。」と宣言した。
「何!?」
「2回戦の試合開始は5分後。11時からと決まっている。5分経過後私に参加カードを提示できない場合、お前を失格とみなす。」
「そんな! 5分じゃぁ部屋に行って戻ってくるだけで精一杯じゃない!」
「決まりは決まりだ。例外は認めない!」
 本田や杏子が抗議する中、城之内は走り去って行った。

「ハハハハハ!走れ走れ、城之内よぉ!」
 キースの笑い声だけが場内に響き渡る。その声に反応するように、なまえの千年秤が傾いた。
「!」
 なまえは息を飲んで高鳴る胸を抑えた。直感的に、キースが手にしているカードが城之内のものだと千年秤が指し示したのだ。
「(もしそれが本当なら、…城之内は!)」


「ここまできて諦められっかよ!」
 城之内は自分の部屋に向けて全速力で走っていた。


「ふぁ〜。おい、その時計遅れてんじゃねぇのか?」
 キースは相変わらずソファに寝転んだまま欠伸をしては、秒針一つの動きにさえ眉を動かした。そのキースの態度にクロケッツが苛立ちを隠しきれない。
「正確だ。それより定刻までにリングについていない場合、貴様も失格とみなすぞ。」
「何!?ったく面倒くせなぁ。」


 城之内は自分で荒らして散らかした部屋を前に呆然としていた。
「クソッ どこにあるんだ?」
 ここまで走って来た疲労だけで息切れしているわけではない。参加カードが見つからないということに、城之内の心臓は震える。


「(僕のもう1枚のカードは城之内くんにあげてしまった。僕にも残っているのはこれ1枚きり…)」
 刻々と時間の経過を示す電子時計を前に、遊戯は自分の手の中にある「王の左手の栄光」のカードを見つめていた。ため息を一つこぼすと、同じく遊戯の手の中のカードを覗き込むなまえと目があった。
「なまえ…?」
「…私はカードを持っていないから…力になれなくて…」

「よぅ!もう失格ってことでいいんじゃねぇのか?」
 キースの声が遮るように響き渡る。キースは渋々デュエルリングに着き、そのデスクモニターへ寄っ掛かるようにしてやる気のない様子でいた。
「どうせやつは戻ってきやしねぇぜ。」

「なんだと!?」
「なぜそう言い切れるのよ!」
 本田と杏子の声にもキースは飄々と鼻で笑う。
「簡単なことよ。野郎はカードに関しちゃド素人。いくら奴がバカでもオレ様に勝てるなんて最初から思っちゃいねぇだろうよ。本音ではできることならデュエルなんてしたくねぇのさ。カードをなくしたと言えば逃げ出す言い訳も立つ。今頃城の外で、ベソでもかいてんじゃねぇのか?」


- 70 -

*前次#


back top