「(海馬は魔導士達とは違う。生きて、実体があるんだから!)」

 なまえの願い…願望は、欲望こそは、「海馬を助けることで、少しでも自分という存在に触れて欲しい」事だった。

 なまえは知ってしまったのだ。データカードを渡したあの屋上で、敵である嫌疑を掛けられたあの海沿いの崖で、長い腕に抱き上げられたこの城で、魂を抜かれた海馬に触れたあの夜で。知ってしまった…海馬瀬人という男の存在だけが、孤独に生きてきたなまえの肉体に触れた。たったそれだけで、物心ついた頃から側にいた魔導士達や、初恋とさえ思っていたブラック・マジシャンへの願望がどれだけ「虚しさ」を孕んでいたのか気付いてしまった。そしてひとりの人間がもつ本当にあるべき恋の姿を、…なまえは知ってしまったのだ。

 その「無」を知ったなまえが次に知ったのは、必ずしも自分の思う通りに相手は言葉を返してくれないということ。16年の歳月を孤独に生きた、対人能力に乏しい彼女にとって、海馬瀬人の視界に入る方法…それこそが、己の欲望を孕んだ「海馬を自らが救うこと」だった。

 海馬と少しでも話してみたい。少しでもわかり合ってみたい…その大した事のない欲のために、なまえは今大きな対価を払おうとしている。

「私のターンは終わってないわ。手札から魔法カード“マジック・プランター”を発動する。このカードはフィールドにある永続魔法カードとこのカードを墓地に送ることで、デッキからカードを2枚ドローする事ができる!」

 ドローしたカードの1枚が、どこか触り慣れないものだと感じた。それだけで、なまえは今こそ海馬のデッキから引き込んだドラゴンをドローしたのだと確信する。
「(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン…!)」

 海馬と同じ青色の目をしたカードと見つめ合ってから、なまえは手札にそれを加えた。
「私はカードを1枚伏せてターンエンドよ。」

 遊戯はなまえが今のドローで、何か重要なカードを引いた事を感じ取っていた。手札を一瞥する。
「オレのターン、ドロー!」

 引いたカードを手札に加え、なまえの伏せカードをチラリと見てから手札に手を向けた。
「オレは魔法カード“ライトニング・ボルテックス”を使うぜ!このカードは手札を1枚捨てる事で、相手モンスターを破壊する!」

「リバースカード発動!罠カード“醒めない悪夢”!ライフを1000ポイント払い、相手の魔法・罠カードを破壊する!」

 遊戯は手札1枚のコストを無駄に落とし、なまえもライフポイントを自ら大きく削るが、魔導法士ジュノンは無傷でフィールドに残った。

 なまえ LP:500

「やはりフィールドのモンスターを守るカードだったか。」
「!」
 遊戯がフフン、と笑うのになまえは心臓を掴まれる。そして「しまった…!」と本能から覚った。

「お前のカードタクティスは認めるぜ。だがなまえ、オレは気付いてた…!このデュエル、通常の魔法使い族や魔法カードばかりで誤魔化してはいるが…お前独自の強みである魔導書や魔導師達は最低限…いやそれ以下にしか出していないって事をな!」

「(そんな…!まさか今のモンスター除去カードは、私の伏せカードを使わせるためにわざと…!!?)」
 なまえの表情がどんどん険しくなっていく。遊戯は勝負に踏み切る事をついに決心した。

「しかしオレに本気で挑んでないわけではない…つまり、魔導書のカードを使わないんじゃない、使えないんじゃないのか?…そもそもデッキに、入れていないんだからな!」

「ぐッ…!!!」

「やはりな。なまえ、お前のデッキの最上級モンスターは“魔導法士ジュノン”、そして“ブラック・マジシャン”のはず。その2体を最大限に引き出すための魔導書カードが組めなかったのは不自然だ。…つまり、そのデッキには『魔法使い族以外のモンスターを入れた』って事だろ?」


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