遊戯の決意の言葉は、声に出さずともペガサスにはその“眼”を通して直接頭に流れ込んできていた。

 ペガサスは指だけで背後に立つ黒服を側に呼ぶと、ベルヴェッドのピロウからデッキを取り上げる。
「遊戯ボーイ…すばらしきデュエリストよ。王国で生き残り、よくぞクイーンまでも制して私への挑戦権を勝ち取りマシた。」
 遊戯はバッと指をさす。
「ペガサス!デュエルの前に、貴様には誓いをたててもらうぜ!オレが勝ったら、爺さんの魂を解放するとな!!!」

「YES!約束しまショウ。」
 二つ返事で了承するペガサスに、遊戯は続ける。
「それだけじゃない!カードに封印した海馬兄弟の魂の解放、そしてなまえの魔導書デッキの、禁止カード指定の取り下げもだ!」
「フフ…随分と要求の多い…しかし不思議ですねぇ。海馬ボーイはユーにとって敵なのでは?」

「今オレの敵はお前1人さ!」
 遊戯の目は固い決意に燃え滾っていた。その脳裏にはモクバとなまえの姿がある。
「(オレにはモクバとの誓いが、なまえとの約束がある!海馬とモクバをなまえの代わりに救い、ヤツら兄弟をもう一度めぐり合わせるという誓いが!)」

「なるほど…誓いデスか。」
 銀色の髪の隙間から僅かに覗く金色の眼がチラリと光る。
「…!(マインドスキャン?!)」

「オーケー誓いましょう。ユーが私との勝負で勝てたら、クイーンの魔導書の件は不問…そして」
 ペガサスはおもむろに2枚のカードを遊戯に見せた。

「彼らを孤独な魂の牢獄から解放する、とね」

 ***

「おい、いよいよ始まるぞ」
 本田が肩唾を飲んで遊戯とペガサスの様子を見つめる。それに城之内や獏良も頷いた。
「あぁ!互いの闘気が激しくぶつかり合うのが見えるようだぜ!」
「うん、ついにここまで来たんだね。」

 その横で静かに遊戯を見つめる杏子に、城之内が気がつく。
「…杏子?」
「え!…あぁ、ううん。なんでもない。」

「でも遊戯くん、大丈夫かなぁ…相手の心を読んでしまうペガサスに勝てる方法なんて…」
 不安を煽る獏良の呟きに、城之内はすぐさま振り向いて啖呵を切る。
「バカ野郎!遊戯が負けっかよ!」
「そうよそうよ。ねっ本田!」
 杏子もいつもの調子に戻って本田に同意を求めるが、当の本田は獏良寄りの意見に思い当たる節があるのか、片眉を下げて考える。その思考のために呻る本田に、城之内は我慢ならない。
「せっかく盛り上げようってのに何考えてんだ本田!」
 熱い城之内とは対照的に、猜疑的な冷静さを持って本田は懇々と向き合う。
「だってさ、考えてみろ!この戦いはフェアーじゃねえ。…遊戯は3人も人質を取られてるんだからな。」

 それに杏子は否定的だった。
「でも、ペガサスがおじいさんの魂を人質にとったのは、遊戯をこのデュエルに参加させるためだったんでしょう?」
「ペガサスだってデュエリストの端くれだぜ。そこまで卑怯なマネはしねぇよ!」
 城之内も杏子に同調するので、本田も渋々「あぁ…」とだけ返す。

「だいたいお前が心配したって始まんねぇだろ!」
 城之内が本田を諌める間に階下の遊戯とペガサスに動きがあり、杏子が声を上げた。
「2人のデュエルが始まるわ!ねえ!もっとよく見える上のテラスに行きましょう!」

「お!そうだな!」
 賛同した城之内と共に杏子が駆け出すと、走り去っていく2人の背中をまだ何か不安げな本田が見送る。

「城之内くんたちはああ言ってるけど…」

 2人の背中が見えなくなった頃、横に立っていた獏良の声に本田は目線だけで振り向いた。
「本田くんの言う通りかもしれない。」
 本田の不安は大きくなる。体ごと獏良に向ければ、獏良も顔を上げて本田を真っ直ぐに見つめた。

「ペガサスは甘くないよ。デュエルが危なくなったとき、どんな手に出てくるか…。なまえちゃんだって、最初は自分のデッキを禁止カードに指定すると脅されたから利用されたんだ。そして状況が変われば、ペガサスは海馬くんを人質になまえちゃんを遊戯くんと闘わされた。これだけの事を見ていたら、遊戯くんのデュエルも決して楽観視はできないよ。」

 本田の不安は確実なものとなり、彼は咄嗟に城之内達とは反対の方向へ駆け出した。
「本田くん?!」

「じいさんの魂は無理でも、モクバと海馬を助け出して…遊戯の負担を軽くすることはできるかもしれねぇ!」

 本田の冷静に見える中に渦巻いていた情熱が噴出し、本田はそのまま駆けて行った。
 その背中を見送った獏良の目は、その瞬間…確かに鋭く光る。

「ククク…」


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