『もう1人の僕!聞こえたんだね…!僕の声が!』
『ああ。』
『…初めてだね、こうして心の中で出会うのも、僕から話をすることも。今までどんなに叫んでも、君に僕の声が届くことはなかった。…もう1人の僕が戦いに苦しんでいるのが伝わってくるのに、僕には何もできなかった。──…でも、やっと通じた!』

『なぜオレを呼んだんだ?』

『…おねがい、僕にも戦わせて!ペガサスの力に一人で立ち向かうのは無理だよ!』
『だがヤツのミレニアム・アイに対抗する手段が見つからない!』

『…もしかして、ペガサスはもう一人の僕である君の心を読んでしまう。でも、僕の心は読めないかも!』

『!…そうか、ペガサスがひとつの心しか読めないとすれば、ふたつの心で立ち向かえば、もしかしたら…』
『うん!』

『オレに力を貸してくれるか──…?


「信じられないかもしれないけど、このパズルを解いた日から、もう一人の僕と入れ替わりながら暮らしてきたんだ…!──僕のターンだ!」

 ***

「僕はこのカードを場に伏せて、ターン終了だ!ペガサス…僕が今引き当てて場に伏せたカードがわかる?読んでごらんよ、僕の心を…そうすればわかるんでしょう?」

「クッ…フン、オフコース!マインド・スキャン!!!」

 ペガサスはいきなりの事にたじろいではいたが、冷静さを欠くまいとミレニアム・アイによって遊戯の心へまたその目を凝らした。だが、あるべきそのカードのイメージは既にない。

「Why?!伏せカードのイメージがありまセ〜ン?!」

「残念だが、オレもこの伏せカードの正体は知らないぜ。心を読んでも無駄だ!ペガサス!」
 不敵に笑うもう一人の遊戯。その目つきはずっと闘ってきた闇の人格のものだった。

「(またマインドが入れ替わった…!)」

「ペガサス、お前がミレニアム・アイで相手の心を読むには、多少の時間がかかるようだな!その間にオレの心を入れ替えさせてもらったぜ。これがミレニアム・アイの攻略法…“マインド・シャッフル”だ!!!」

「(マインド・シャッフル?!)」


「そっか…遊戯は二つの心で闘っているのね!」
 杏子は目の前の事をやっと噛み砕くと、いままでのことがようやく腑に落ちたようだった。
「ペガサスに一方の心を読まれても、もう一つの心で対抗できるってわけか!」

 ***

「貴様ら!もう逃げられんぞ!!!」

 一筋だけ繋がれた階段の下には5人の黒服の男たちが銃を持って取り囲んでいる。背後は崖…意識のないモクバを背負った本田と、確実に闇の人格に入れ替わっているバクラ、そしてなまえ。
「…千年アイテムを所持した人間が2人…なまえ、オメー、この状況で出し惜しみは無しだぜ?」
 デッキを片手に強気で笑うバクラの胸には、千年リングが光っている。その横に千年秤を持って立つなまえもまた、冷たく醒め切った目で階下の男たちを見ていた。

「フフフ…ゲームをしようぜ!」

 2人の背後に立つ本田は、その違和感を思い出し始めていた。
「(この表情…オレは見たことがある。)」
 ──森の中で行われた闇のデュエル。そしてそれを見ていたのは…なまえだったという事を。
「(あの時のもう一人の獏良…あれは、夢じゃなかったんだ!)」

「オレはこの“人喰い虫”だ!」
 笑いながらカードを引くバクラに続き、なまえも目を閉じて胸の中に呼びかける。
「フォルス」
 なまえの胸のあたりから光が溢れると、彼女よりもバーミリオンに寄った赤い髪を炎のように揺らす魔導士が現れる。同様にバクラの千年リングがさらにつよく光ると、人喰い虫もカードから実体化して現れた。

 あまりの眩しさに本田や階下の男たちも目を眩ますが、すぐに実体化した禍々しいモンスターの姿に動揺を見せる。
「な…なんだあれは!」
 襲いかかる二体のモンスターに銃声が響き渡る。だが体をすり抜けて聞かないモンスターたちに、男たちはついに怯んだ。

「何だありゃ…デュエルシステムもないのに実体化するなんて…ハッ」
 本田はなまえの後ろ姿に、一度見たブラック・マジシャンの姿も思い出す。彼女も一度、何もないところで魔導士を出しているのだ。

「フッ…じゃ次は、…お前ら人喰い虫から助けてやるぜ。」
 なまえはその引かれたカードにハッとすると、間一髪でフォルスをその体に戻した。

 メタモルポットが出され、男たちはその口を開けた闇に飲み込まれていく。

 飲まれていく最後の男が階段の上にいる2人の陰を捉えた時、もう一発の銃声が響き渡った。


- 94 -

*前次#


back top