「“ブラック・マジシャン”を…攻撃表示!」

 “ブラック・マジシャン”(攻/2500 守/2100)

 遊戯はさらに“マジカル・シルクハット”の魔法カードを出し、ブラック・マジシャンをハットの中へと隠す。
「(“ブラック・マジシャンとシルクハットのコンボなら、ペガサスの攻撃を撹乱することが出来るかも…)」

「なるほど!」

 しかしペガサスはその遊戯の思考の一端一端を見抜いては鼻で笑った。
「トゥーン・ワールドの対抗手段を見つけるまでの時間稼ぎのつもりでしょうが、それもムダデ〜ス!遊戯ボーイ、ブラック・マジシャンをどのシルクハットに隠すのかはユーの意思で決定している。それは…すなわち私にも分かっているという事デ〜ス!」
 遊戯の背中に冷や汗が吹き出す。ミレニアム・アイだけが怪しく光り、ペガサスのもう一つの目が見開かれる。
「フフフ…ズバリ“ブラック・マジシャン”は、いちばん左のシルクハットに隠してありますね?!」

「(やはり…読まれている!!!)」

 ペガサスがトゥーン・デーモンの攻撃宣言をし、宣言通りいちばん左のハットが破壊された。だが、デスクモニタに表示されている“ブラック・マジシャン”に変化はなかった。

「WHY?!ブラック・マジシャンのデータが消えてない!カードも出たままデ〜ス!アンビリーバボー!ブラック・マジシャンの隠れたハットをハズしたというのデスか?!」

 ペガサスの顔色が初めて変わった。彼自身初めて味わう事に焦りが見える。
「(バカな…遊戯ボーイの心は完璧に読んだはず…)」


「シルクハットの“ブラック・マジシャン”の隠し場所は、僕の意思で替えたよ!」
 その声にペガサスがハッと顔を上げれば、そこには闇の人格とは違う声色で不敵に笑う遊戯が立ちはだかっていた。

「もう一つの僕の心は、読めなかったみたいだね!」

「ユーは…!アナザーマインドの遊戯ボーイ?!」


「杏子、アナザーマインドって何だ?」
 城之内が振り返って杏子を見れば、杏子は遊戯を凝視している。杏子自身、昨日から認識していたのだ。…あの二つの塔の上で行われた海馬と遊戯の苦しいデュエルの中、杏子は確かに“もう1人の遊戯”を応援し、“いつもの遊戯に戻って”とも口からこぼれた。そして盗み聞いてしまった、なまえと遊戯の言葉も。

『オレは、今は遊戯のもう一つの人格としてここに存在している。変な話しだが、オレはあくまで武藤遊戯という1人の人間の一部としているんだ。』

「もうひとつの、心…」
「うん〜〜??どういう事なんだ?!遊戯」
 納得した杏子とは対照的に、城之内にはキャパオーバーのようだ。それを遊戯が顔を上げて見た。

「みんなには黙ってたけど、デュエルする時の僕は、いつもの僕じゃない。いつもは心の中に潜んでいるもう1人の僕が入れ替わって戦っているんだ。…そして僕は、心の奥でそれを見てる。でもこのデュエルでは、苦しんでるもう1人の僕を黙って見てはいられなかったんだ!」

 ***

 ───「シルクハットのコンボさえ通用しないのか…ミレニアム・アイの力に打ち勝つ方法が見つからない!」

 もう1人の…僕…!おねがい、僕の声を聞いて!

 トゥーン・デーモンがブラック・マジシャンの隠されたシルクハットを撃ち抜く寸前、闇の人格の遊戯にその声は胸のうちから響いた。光を見出したようにハッとすると、その声は遊戯を包み込んで、その光こそ千年パズルから放たれているものだと感じ取る。

「(いまの声、オレの心の中から聞こえてくる、この声は…!)」

 もう1人のオレ!
 アイツが…オレを呼んでいる!!

 遊戯は千年パズルの光に集中し、その身を任せた。ウジャド眼から放たれる光に遊戯の二つの心が溶かされて、2人はついに互いの“部屋”の前で対面した。


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